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バリスタと呼ばれた少女  作者: 風早
バリスタさんと暗黒の森
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第5話


 3日目、今日は長丁場だ。しっかりと朝食を取って探索を始める。

 森を進んで行くと、何か違和感が出てくる。何だろうか。

 仲間に聞いてみても判らないと言われた。

 今日の森は実に静かなものだ。一体何に違和感を感じているのだろう。

「注意して進みましょう。オーガが近いのかもしれません」

 仲間の言葉に頷いて、気合いを入れる。違和感の元は判らないが、油断しなければなんとかなるはずだ。

 入れた気合いも空しく休憩時間になった。

 交代で食事を取りながら首をひねる。一体何だったのだろう。

 歯に物が挟まったというか、くしゃみが出そうで出ないというか、何かが気になったのにその何かが判らないのは判らないことが気になる。

 そうしていると、今度は3人とも反応した。

 森の奥の方から音がする。草を分けて何かが歩いている。

「何かいますね。ここからだと大きさや数は判りません」

「俺もだ。向かおう」

 急いで食事を片づけて音の方へ向かう。こちらが見つけられては意味がない。慎重に、音を立てないよう気を付ける。

 いた。オーガだ。

 浅黒い肌に筋肉が浮き出ている。身長は3mを超えている。節が膨れた手に太い爪が生えている。

 頑丈なその肌には毛が生えておらず、人と違う種であることが判る。

 果たしてこのまま気付かれず近くに寄れるだろうか?

 隠れて近くに寄らずとも、進む方向が判っていれば罠を作れる。しかし、俺達では難しいだろう。

 方向を読み違えて待ちぼうけするか、罠を作っている最中に襲撃されるかもしれない。

 色気を出して大怪我する必要はない。わざわざ名乗り上げる必要もないが。

「ええ、気付かれるまでは隠れて近づいて、気付かれたら一気に距離を詰めましょう」

「そうだな」

 意見があった。無理をしない範囲で隠れて進む。後ろ側に回り込めば良いだろう。

 オーガに目的はないようだ。ぼんやりと歩いている。 この調子でうっかり迷い出たのだろうか? 粗忽者のオーガとかいるのか。

 後10メートルでオーガが振りかえってきた。その目で俺たちを見据えると、表情を歪めて大きく吠えた。

 肌が震えるほどの大声だ。だが、そんなものに怯んでいられない。

 打ち合せ通りに駆け出す。駆けた勢いのまま斬りつけたかったが、オーガが腕を振りかぶっている。

 目標は俺だ。急ブレーキをかけて止まれば当たる。

 スピードを緩め、オーガの腕に合わせて剣を振るう。腕を横から斬りつけてずらす。

 げ、ずれない。頑丈な肌に阻まれて浅く傷をつけただけだ。逆に剣を持っていかれそうだ。

 剣を持っていかれるのは良い。このままじゃ俺の腹に穴が空く。

 振った剣を軸にし、巻き取られるように体を回す。半分はオーガの腕の勢いだ。

 避けきれない。オーガの親指が脇腹を穿つ。息が詰まる。

 回る勢いも殺せない。オーガの脇を抜けるように、回転しながらぶっ飛んだ。

 地面を2,3回転して止まる。仲間がオーガの両脇から攻撃をしている。仲間がいなければこれで死んでいた。

 反省は後だ。立ち上がりたいが地面がどこか判らない。四肢をついて体を起こす。あ、剣落としてなかった。

 ふらつく頭を押えて立ち上がる。脇腹が熱い。動くと引きつる。

 鎧に穴は空いてなかった。出血は多分ないと思う。大きな青痣ができていそうだ。

 1歩、2歩と地面を確認しながら歩く。よし、大丈夫だ。

 仲間にばかり任せてはいられない。オーガに寄って背中から斬りつける。硬い。

 3人で囲めた。オーガに狙われた奴は防御に専念して、他が斬りつける。

 オーガは硬すぎて中々傷つかない。腕を斬れたのは互いの勢いがあったからだろう。

 何度斬りつけたか判らない。腕に重さを感じ始めて、やっとオーガの肌を斬り、肉に達するものが出てきた。

 それまでにもう一度吹っ飛んだが。仲間も似たようなものだ。

 もう一息だ。傷を狙って斬る。簡単に当たらないが、傷が深くなって出血が増えればなんとかなる。

 オーガも怒り狂って腕を振り回す。こうなると狙われているとかない。腕の範囲外にいるやつが攻撃する。

 仲間の剣がオーガの脇に深く刺さった。やった、あ、いや、まずい。

 オーガの腕が仲間に迫る。でも剣は抜けない。深く刺さりすぎだ。

 仲間が剣から手を離し、転ぶように腕を避ける。良く避けた。すぐにフォローに入る。

 オーガも刺さった剣が邪魔して自由に腕が振れないようだ。

 これで余裕ができた。仲間も短剣を抜いて戻ってきた。

 更に2、3分戦っただろうか。脇に刺さった剣を伝った血が地面を濡らす。

 出血を続けたオーガがやっと倒れる。

 死んだふりかもしれない。油断なく近づく。仲間が警戒している中、オーガの首に剣を当てる。反応はない。

 そのまま斬り落そうとしたが刃が進まない。柄に膝を乗せて体重で押しきる。

 剣が首を半ばまで進み、動脈から血が溢れてやっと一息つく。

「俺の剣、抜けるかなこれ」

「時間をかければ抜けるでしょう。でも歪むか折れるかしてるかもしれませんね」

「だよなぁ」

 お前ら首を斬り落とす手伝いをしろ。骨に当たって刃が進まない。

 時間をかけて首を落とし、脇から剣を抜いた。斬り落とした剣は刃がぼろぼろだし、脇に刺さった剣は歪んでいた。鞘に戻せないだろう。

 これで終わったと思うと、体から力が抜けた。座り込みそうになるが、オーガの血で汚れたくないから我慢する。剣を杖にして、地面を見て息を吐く。

 脇腹が痛い。ズキズキと頭に響いてくる。村に戻っても1週間ぐらい休ませてもらった方が良いかもしれない。

 全力で駆けて敵に寄ったのはまずかった。ゴブリンなんかは吹き飛ばせたが、何事も余裕がないとこうなる。

 とにかく休憩して村に帰ろう。

 そう言えば、オーガの頭に掴むところないぞ。どうやって持って帰れば良いんだ。

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