第2話
依頼に同行者ができたと聞かされたのが昨日のことだ。
有力な冒険者が俺達と同じ場所に用事が在って、一緒に行ってくれるらしい。
この話を聞いて、怒るとか喜ぶとかの前に困惑した。仲間3人でやっていたところに誰かがくると言われても、正直実感が湧かない。
やってきた同行者を見ると更に困惑した。
まず、俺より小さな女の子だった。そんな女の子に傷だらけの硬革の鎧は合わないし、他の装備品はもっと変だ。
一目見て目を引くのは背中に背負った大きなタワーシールドだ。体が全て隠れてしまう大きさの盾を実用してるのだろうか?
盾と体の隙間に見えるのは機械弓だろうか。これも通常のクロスボウのような大きさではなく、全長は1mを超えてるんじゃないか?
他の装備は自由度の高い金属の小手と腰に下げた棍棒だけだ。その棍棒も大きさは標準的だけど、あらゆる所に金属の補強が入っている。
鉄棒を持った方が早いんじゃないか?
そんな女の子が俺達を値踏みするように見ているんだ。困惑しない方がおかしい。
何て声をかけたら良いのか迷っていると、仲間の一人が小さく声を上げた。俺は知らなかったが、仲間は彼女を知っていたらしい。
「もしかして、バリスタさんですかっ?」
仲間の言葉に女の子は、本当に嫌そうに、顔をしかめた。
「そういう風にわらわを呼ぶものがいるのは知っておるが、面と向かって言われたのは初めてじゃの。ついでにそう名乗ったことはないからな?」
女の子の言葉に仲間は頭を下げて謝る。どうやら有名人のようだ。
どんな人なんだと仲間に聞くと、砂漠で雪男を見たような顔をされた。
「知らないのか? 大戦でも活躍した凄腕の冒険者だよ。大型魔物撃墜数が全冒険者の中で1番って噂だ」
「そんな噂が出ておるのか」
仲間の言葉に女の子は眉をしかめて微妙な表情だ。しかし、大型魔物専門だと思うと彼女の装備も納得できる気がする。
「女性なのにバリスタなんて異名がついてて不思議に思っていたんですが、背中のクロスボウが異名の由来だったんですね」
なるほど、本物のバリスタと比べると小さいが女の子の体格から考えると巨大な弓だ。それを操る彼女を見てバリスタと名付けてもおかしくない。
「いや、それはまた別の理由じゃ」
違ったらしい。
流れた気まずい雰囲気を振り払うように、バリスタさんが咳払いをする。
「あー、ともかくわらわが同行させてもらうのじゃ。しかし、基本的に同行するだけで手出しはせぬからそのつもりでおってくれ」
元々3人で依頼を達成するつもりだったから逆にありがたい。基本的に、というのはどこまでだろうか。
「ふむ、依頼内容が事前の話と大きく違わぬ限りは少し離れてついて行くだけじゃ。野営なども同じにせぬ」
「そこまでして同行する意味があるのか?」
仲間が不平という訳でなく、腑に落ちない感じで問う。
「然り、わらわが受けた依頼の内容がぬしらの依頼と関係があるやもしれんのじゃ。あちらで関係ないと判ったら完全に別行動じゃな」
「確認だが、俺たちは依頼内容を聞けないんだな?」
「すまんが言えぬ」
バリスタさんが軽く頭を下げる。
仲間達と視線を交わして他に何かあるか確認するが、もうないようだ。俺も思いつかない。
バリスタさん、短い間ですがよろしくお願いします。
「こちらこそよろしくじゃな」