第2話
パターンA
彼らは外法者だった。
外法者と言っても、組織に属していたわけではない。
ただ暗黒街の入り口で強請りやたかりをして生計を立てていた。
組織に上納金を払うことなく、迷い込んでくる一般人相手に暴力を振るった。
たまにその道の玄人がやってくることもあったが、彼らとは睨み合うだけで戦いにはならなかった。
無駄な暴力を振るう必要はない。羽虫なら潰せば良いが、狼相手に手を出せば自分たちも怪我をする。
お互いにただで済まないことを知っているから、睨み合いで終わるのだと言った。
彼らは己が如何なる組織にも属さない真の外法者だと思っていた。
実際の所は、小物過ぎて見逃されていただけだが。
彼らに転機が現れた。大戦が始まったのだ。
初めの内は、彼らには関係がないと思っていた。だが、次第に大きくなるそれを見て考えを改めた。
この戦いで武功を立てれば、俺達はもっと上にいける。
そう考えた彼らは軍に参加した。
しかし、彼らに活躍の場は与えられなかった。
そもそも壁にしかならない連中を前線に出すときは壊滅寸前だ。
いや、彼らの場合は壁よりも悪いかもしれない。壁は動かないが、彼らは勝手に動いて自軍に被害を与える可能性がある。
彼らに与えられたのは後方支援の任務だった。
戦って武功を得に来た彼らは当然のようにそれを不服に思い、その任務を放棄した。
暴力を使って他人に押しつけた。
当然、そのような行いは許されない。彼らは監視付きで任務を果たすか、軍から出て行くか選択を迫られた。
彼らは軍から出て行くことを選んだ。武功が立てれないのならば、窮屈な場所にいる理由もない。
しかし、元いた場所に戻るわけにもいかなかった。出戻りは彼らの誇りが許さない。
追い出され、戻ることもできず酒場で管を巻いていた。
彼らの扱いに困った酒場の店主が、彼らに傭兵ギルドの話をした。
傭兵なら使い捨てが前提のことも多い。彼らも戦うことができるだろう。生きて帰れるか判らないが。
それを聞いた彼らは喜んで傭兵ギルド向かった。
運が良いのか悪いのか、彼らが傭兵ギルドに入った頃には大戦も終わりを見せており、前線に立つことはできなかった。
大戦が終わっても小さな戦いは残る。それを片付けていけば出世できると思い、彼らは傭兵ギルドに残った。
そして幾つもの仕事を片付けていった。負傷することも多いが、名誉の傷だ。
彼らは今回の訓練も不服に思っていたが、同時に好機だと思った。
この訓練を手早く片付けてしまえば、俺達にもっと良い仕事が回ってくると考えた。
3日間と決められた訓練をどうすれば手早く片付けられるのか考えていない。
森に入って早速羊皮紙を広げる。
内容は森の奥にある放棄された祭壇までいき、そこに飾れている短剣を持って帰るというものだった。
地図も描かれており、とても簡単なものだ。
彼らは拍子抜けしていた。そして喜んだ。こんな簡単なことで出世できるのかと。
彼らは意気揚々と森の中を進んでいった。
通り辛い枝や草は剣で切って進んだ。切るのが難しそうなものだけ迂回した。
しばらく歩くと周囲が暗くなってきた。
今日は充分進んだだろうし、休もうとその辺りに座り込む。
火を付けようとするが、火を付ける道具はあっても燃やす物がなかった。
仕方なく周囲から枯葉と枝を集めた。集め終わる頃にはすっかり暗くなっていた。
それから手元が見えない中、苦戦しながら火を付ける。
腹も減っている。厚切りにしたハムを火で炙ってたべた。
夜の間は火を絶やしてくなかったが、食事を終えた頃には燃やす物がなくなっていた。
仕方なくこのまま夜を越えることにする。
番をする順番だけ決めて、そのまま眠った。
深夜、仲間の悲鳴で目が覚めた。
目ではよく見えない。音を聞くと仲間の一人が転げ回っている。目を凝らす。
野犬が仲間にのし掛かっているようだ。慌てて仲間を助けようとするが、剣で切れば仲間も危ない。
野犬を狙って蹴る。何度か仲間ごと蹴ってしまったが、最後には野犬を弾き飛ばすことができた。
ほっと息をつく。だが、周囲から響くうなり声が彼らの背筋を凍らせた。
囲まれている。
背中合わせに剣を構える。うなり声は彼らを囲んだまま動かない。
しばらく睨み合いが続いた。どのぐらいの時間が経ったか判らない。いつの間にかうなり声は消えていた。
今度こそほっと息をつき、地面に座り込む。
彼らは口々に野犬も自分たちに怖じ気づいて逃げたのだと言った。
そのままもう一度眠ることは出来ず、周囲に気を配りながら朝を迎えた。
そして彼らは愕然とした。
彼らの荷物がなくなっていたのだ。昨日の野犬がこっそりと荷物を持ち去っていた。
周囲を囲んでいたのは、逃げた仲間が充分な距離を稼ぐのを待っていたのだ。
彼らに残されたのは剣と水筒だけだった。
戻った方が良いんじゃないかと思ったが、彼らの誇りがそれを許さない。
幸いなことに、羊皮紙はリーダーの懐に入れてあった。森の中だから食べるものは幾らでもある。
彼らは先に進むことにした。
周囲を見渡しながら先に進む。腹が減っていた。
適当な草でも食べられるんじゃないかと思い口にしてみたが、臭くて食べられるものでなかった。
小動物を捕まえるのはどうかと思ったが、火を付ける道具がないから生肉を食べることになる。
幾ら彼らでも生肉は嫌だ。そもそも捕まえることが難しかっただろうが。
実がなっている木を見つけた。石を投げて実を落とす。
急いで拾って口にしてみる。水っぽくて美味しくなかったが、食べれないことはなかった。
腹を膨らませることができた彼らは目的地に急ごうとする。
しかし、問題があった。今どこにいるか見失っていた。
彼らは少しだけ考え、とりあえず進むことにした。小さくて問題のない森だと言われている。歩いて行けばどこかにつくだろう。
昼を回った頃、彼らの額には脂汗が浮いていた。
腹が痛い。
朝に食べた実が悪かったのだろうか。腹を壊していた。
動くことも出来なくなり、バラバラに蹲る。流石に誰かが見ている前でするのは嫌だった。
出す物も出してしまった後、少しの間休んで動くことができるようになった。
まだ腹の調子が悪く何かを食べれる気はしない。
だが何かを食べないと動けない。
おぼつかない足取りで森の中をさまよった。
弱っていて過敏になっていたのだろう。何かに見られている気がして、ふと近くの木を見上げた。
白い猫がいるだけだった。
俺としたことが気弱になっていると笑った。
森の中をさまようと、甘い匂いが漂ってきた。逆らいがたいものを感じて匂いの元へ向かった。
青い花をした草に、果実がなっていた。食欲はなかったが、これなら食べられる気がする。
もぎ取って囓ると甘い果汁が口の中に広がった。
貪るように食べた。気付いたときには食べきっていた。
仲間達と一緒に果実を食べ続けた。
こんなに美味しい物がこの世にあったのだろうか。
これを持ち帰れば俺達は出世できる。いや、持ち帰るなんて勿体ない。俺達が食べれなくなる。
ならどうする? こんなに美味しい果実だ。食べただけで出世できる。
ああ、美味しい。
森から出るとギルド長がひれ伏して許しを乞うてきた。ギルド長の地位を俺に譲るらしい。
しかし、書類仕事は面倒だ。それに俺はギルド長程度に収まる器じゃない。
ギルド長に適当な戦場を用意させた。俺が戦場を駆けると皆戦うどころではない。
武器を放り投げて這いつくばって恐怖に怯えた。
その勢いで国を攻めた。砦を破り城壁を越え、玉座を奪う。
なんて簡単なのだろう。
いや、俺に相応しいものがあちらからやってきただけだ。これは当たり前のことなんだ。
幻覚作用のある果実を食べ全員棄権
果実には中毒性があり、後遺症も残るため最低でも半年の治療が必要