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シュルトーの起こる場所 1

本格的なファンタジーを書いてみたくなったので、手がけてみました。


お目汚しにどうぞ。

 竹のホウキで残った寝藁を集める。

 これがちょっと骨が折れるのよね。

 奴さんたち、シュルトー《風》と仲良くしたがってありえないところに飛んでいくんだから!


 年の頃15歳くらいだろうか、薄汚れた頬かむりと丈の短いズボン袖の長い筒状の上着を着て、一心に作業している。どうやら干してあった馬房の寝藁が渇いたので、その寝藁を取り込んだ後の残った処理をしているようだ。残った寝藁は細かいゴミのとして扱われ堆肥場に捨てられる。木でこさえられた一輪車の荷台に器用に載っけられキレイに掃除されていく。

 日の陰り具合が馬たちが馬房に帰ってくる時間というのを知らせる。

「オォーイ、アリ。」年の頃は50歳に近いだろうか。白髪髭面の大柄で、その無骨な筋肉の体を粗末な麻の服に身を包んだ男がほっかむりをした者をアリと呼んだ。

 アリはほっかむりの下から満面の笑顔で「なんだい。おやっさん!」と小憎らしく返事をした。

「まだお前はそんなカッコで作業してるのか!今日はお偉いさんたちがわんさかくるって言っておったろうが!!!」おやっさんの怒号が走る。

 山を十里は走るというおやっさんの怒号もアリには馬面に小便のようだ。全く平気の体で、

「あれって、朝のことだったろ。こんな夕方になんか誰も来やしないさ」そして、くるっと辺りを見回し、「兵士のおっさんたちも見てごらんよ、いつものようにだらけちゃってさ」と続けた。

「ホントに平和ってのはありがたいもんだね。天下泰平で安心安心。イヴォーク陛下万々歳ってとこさね」にやっと、さらに笑い「な、おやっさんみたいな得体の知れない元傭兵が王宮の馬番しているくらいだもの、な」ほっかむりの下から薄汚れた銀髪が風に舞った。おやっさんが見とがめ、ほっかむりの中に戻させた。

 超ド級のため息がいつものようにおやっさんの口から漏れる。

「まったく、お前ときたら」諦めたようにおやっさんはつづけた。

「仕方のない奴だ。しかしな、とりあえず風呂にだけは行け。」

「えぇー!風呂ー!?おれ、嫌いなんだよー」膨れるアリ。そんな顔は15歳の子供の顔に戻る。

 バシッ。無骨なおやっさんの手がアリの華奢な背中を容赦なく叩く。

「文句言わずにいけ」

「あ〜ァ」若干背中を丸めたアリが文句を言い言い馬小屋から去っていく。

 おやっさんはその背中に在りし日のアリの両親の面影を見た。


 アリは始終ほっかむりで頭部を隠している。

 幼い時からの習慣だ。物覚えがついた頃には既に髪が結えられほっかむりで隠されてきた。

 アリが銀髪であることはおやっさんによると絶対に絶対に絶対に隠しておかなければならないらしい。

 理由を問いただしたこと、無数。

「その髪だけは絶対に外に垂らすな!!!」それ以上の答えが返ってくることはなかった。

 成長し知恵が着いた頃になると染めようともしたが、それも阻止され。

 かえって丸坊主になろうともしてみたがそれもいけないという。

 仕方が無く整えようと髪にハサミを入れただけで、

「亡きお母さんが悲しむからどうかやめてくれ」とあの図体で泣く。

 ほんとにいい年したおやっさんがだ。

 いまは、とうとう諦めてそのままに伸ばしている。


 アリが風呂が苦手という理由もそこにあった。

 王宮付きの馬子という職業柄風呂や生活の一切は王宮の下働き用の部署での世話になるのだが、素性を一切ばらしてはいけない身の上ゆえ(これもおやっさんに問いただしたが理由は不明)、王宮の風呂は使えない。ということで市井の者が行く湯屋へ行かなければならないが。それも城下の一番離れたところに行けとおやっさんに指示されている。徒歩では片道3フォーリ《3時間》掛かる。今からではどう見ても帰ってくるのが真夜中近くになるだろう。

「おやっさんもどうしてこんな時間に行けっていうのさ」むくれあがったアリがブツブツと言いながら支度をしている。

 そういえば、とアリは心の中で手を打った。多くいる馬の中で産気づきそうな馬が何頭かいた。

 馬の出産は特に気を配らなけれないけないことの一つだ。昼夜通して人の目配りが必要になる。馬子たちは交代で寝ずの番をする決まりになっている。

 春のこの時期、馬たちも馬子たちも大変な出産シーズンを迎える。

 そして、今日の当番はおりしもおやっさんになっているらしい。

 ウン。とうなづき、外に出たアリは行き先を王宮の裏に広がる森へと変えた。

 王宮の裏には起伏に富んだ森が広がっており、深い谷や高くそびえる山がありこの時間からは入っていく者もいなくなる。反対側からは王宮側以上の谷があり、もし万が一にも他国に攻め込まれることはないという。そんな噂を聞いた。王宮の外に出たことがないアリには想像もつかないことだ。そんな森だが、誰も知らない湖があることをアリは知っていた。小さな小さな湖。泉と行ってもいいほどの広さだ。ずっと遠くまで浅瀬が続き、周りの針葉樹の林もガラス細工のように美しい。おととし偶然見つけてからたまに、暑い日なんかは水浴びにこっそり来ている。今日なんかはいいチャンスじゃない!

 アリは足取りも軽く、森の中に入っていった。

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