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第五話

 四月に入学式をするってよくできた話だと思わない?桜が咲くから入学式をやるのか、入学式をやるから桜が咲くのか、ちょっと考えてしまうよね、、、文部省が定めたことなら、なかなかのもんだね、それくらいハマってるように僕は思うんだ。あっぱれ。

 入学式の日はよく覚えている、いろいろショッキングだったしね、でも大学に限らず、入学式当日のことは小中高限らずよく覚えているんだ、、、というか、いまにして思えば、学校行事って呼ばれているものの僕の記憶力ってすごいかも。遠足や修学旅行で訪れた場所とかはあまり覚えていないんだけど、、、うん、そういうのじゃないんだ、誰とお弁当を食べたとか、どんな話をしていたのか、、、そんなことだね。例えば、小学校四年生まで、僕はずっと、うまい棒の(やさいサラダ味)を(やさしいサラダ味)だと思っていたんだ、そして初めて間違っているって指摘されたのが秋の遠足のお弁当のときだったんだよね。う~ん、(記憶している)って言い方もなにか違うな、、、遠足とか修学旅行の一場面が写真になって頭のなかにこびりついている感じ、そして頭のなかの写真を見てその日の出来事を思い起こす感じ、、、あ~、どう言うんだろう、、、パソコンにデータとしてもっているんじゃなくて、そのつど、インターネットでダウンロードする感じかなぁ、、、あぁなんかもうようわからん。

 まぁ、それは置いといて。

 僕はただ大学生になりたかった。高校生や予備校生をしていたときは、どうして大学に行きたいのかなんて知ったこっちゃなかったんだよね、君の場合もそうなんだろうけど。『この学校にしよう』なんて理由もなかったし、なにも考えていなかった、、、浅はかだよね。キリスト教の学校だと気がついたあとも、しばらく、カトリック系だと思い込んでいたんだよ、本当はプロテスタントなのにさ。あのときの後ろめたさはいまでも忘れられないんだよ。

 僕は思慮深くいかなきゃならなかった。

 トッパーは物事を深く理解していたんだ。ここがインチキだらけでどうにもならないような世界だってことを彼はいつから知っていたんだろうね。そんな風に構えていたから、僕やトモコのようにいちいちがっかりすることもなかったんだろうね。でも、トッパーは昔からそうだったんだろうか、僕は今それをすごく尋ねてみたいんだ。

 トッパーの声はいまでも僕の耳もとで波打つんだよね、こんなこと言ってたよね、「そんな深刻になるなよ、サラ金がなくなったと思ったら、パチンコ屋のCМばっか垂れ流すクソみたいな国だけどさ、なにはともあれ楽しまなきゃ損だと思うぞ。深刻ぶって手首知っても楽しくないだろ」ってさ。

 僕はトッパーに救われた。彼のくれた竹馬で僕は悠々とこの世界を闊歩し始めたんだ。最初のうちはなかなか勇気が出なかったけど、トッパーが隣にいてくれたから一歩を踏み出すことができたんだよ。僕が竹馬で、彼はロケットでサーフィンをしていたね。

僕とトモコはすごくよく似ていたんだよ。

 だからトッパーが僕を救ってくれたように、次は僕がトモコを救う番だったんだ、僕にはトッパーがいたけど、トモコにはトッパーがいなかったからね。僕がトモコの分の竹馬を用意しなきゃいけなかったんだけど、どうしても彼のように上手くできなくて、、、でも、トモコを放っておくことなんてできなかったから、せっかくくれた竹馬を降りちゃったんだ。

 それが今の僕。

 トッパーには本当に感謝している。竹馬に乗ったのは、お尻に火をつけられたようなところがあったけど、竹馬から降りたのは僕が自分で決めたことだから。のっぺらぼうの僕のままなら、自分で決めるだなんて及びもつかなかったからね。

 入学式の日に、周りとのチューニングに四苦八苦だった僕はトッパーに完璧に見透かされたんだ、自分のことなのに僕はなにひとつわかっていなかったんだよね。初めて声をかけられたときなんて本気でドキドキしていたんだから、、、あの日から、トッパーはどんどん大きな存在になっていったんだ。

とても懐かしいんだ、彼のしゃべるときの口の動きなんかよく思い出したりするんだ、時たまとんがる唇の形なんだよね。


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