第四話
夕方の五時を過ぎてもさすがに日は長い、大学の儀式から開放された新入生はこれから始まるキャンパスライフに期待を膨らませ、そのテンションは最高潮を迎えていた。テニスサークルは女子学生の容姿を厳選して声をかけているらしく、フットサルサークルはそれぞれひいきの海外クラブのレプリカユニフォームを纏って勧誘を続けていた。 どこの団体も例外なく(花見)、(新観コンパ)といった文言が強調されていた。
『新歓コンパ?新入生歓迎コンパかぁ、、、』
「ねぇねぇ、みんな友達になるのやたら早くない?今日初めてあったばっかじゃないの?」
キヨシロウはブロンドの髪の男と歩いていた。
「とゆうか、すでに知り合い同士なんだろ、内部からエスカレーターで上がってきたやつらなんだって、三割に至るらしいぞ、あれとかそうだろ」
キヨシロウは男が指差す方角に目を向けた。図書館前の芝生の上で数十人の男子学生と女子学生が大騒ぎしていた。テンションの糸はブチ切れてしまっているようで、彼らは迷惑を顧みず咆哮を繰り返す男子学生と、周囲の注目の視線をヴォーグ誌のスーパーモデルと動物園のチンパンジーとを違えている女子学生であった。
「黙るなよ。なに考えているか当ててやろうか」
キヨシロウはなにも言わなかった。
「オマエはあの連中たちのことを羨ましいと思っている、『オレも混ざりたい』ってな。まぁしかしあれだろ、(サリンジャー)だのなんだのなんかああゆうもんにいつの日か出会ってしまった、違うかい?じゃああの連中を認めるわけにはいかなくなってしまった。そこのジレンマだな、そんな風に黙ってしまうのは。折り合いがつかず、どうしたらわからないって具合さ。サリンジャーに出会わなければ幸せなキャンパスライフを送れたのかもしれないのにな、あぁ無情、、、」
「、、、」
「許してやれよ、慈愛でもってさ」
「、、、」
「オマエのことは好きになれそうだ、うん。まぁ、オレもあいつら嫌いだしな、慈愛は保留。大学生はやっぱ火炎ビンだろなぁ~」
「、、、」
「なんだよ、オマエもやるんだぞ、闘争だ闘争!」
「どうして今日はスーツ着てないの?」
「今日はスーツな気分じゃなかった、それだけ。釘バットって一度作ってみたくないか、金づちでバットに釘を打ち込むんだろ?とってもシュールすぎやしないか!」
「、、、」
「そうだオレ、トッパーってゆうんだ」
「、、、」
この男にマナーやモラルは存在しないのか、喧嘩を売っているだけなのか、ただ単になにも考えていないのか、、、キヨシロウはちんぷんかんぷんだった。いずれも可能性としては甲乙つけがたく等しいように思え、またこの男はそう見せようと意図しているようにも感じられた、この男には言動のすべてが演技ではないかという得体のしれなさであった。
ただいずれにせよ、式の間、ドリンクの容器はずっと手中にあったのだろう、、、しかし、キヨシロウの興味はもはやそこにありはしかった。