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第三話

これは遺書だ。 あの子が死んだから死ぬことに決めた。 この物語の最終話の投稿をもって、僕は命を絶つよ。いわば命日だ。 そのときがくるまでお付き合いいただければ幸いだ

 式終了後、新入生は講義の登録に関するガイダンスのため、与えられたばかりの学籍番号順にそれぞれ教室のなかに誘導された。

 (知真館一号館)は、定員四十名ほどの小教室を一階から五階まで縦横無尽に詰め込んだ校舎で、主に午前を中心に、英語や第二外国語を履修する学生で混み合う。反対に、語学の講義があまり行われない午後から夕方にかけては人影もまばらで、土曜日の三講時ともなると、その姿も稀であった。教室の造りは小中高と慣れ親しんだものと酷似しており、キヨシロウは懐かしみを覚えて入室した。

 キヨシロウは窓際の席に着席した。誘われるように左の指が窓の淵を触れた。

 ひんやりした風が教室に吹き込んだ。風に乗って一枚、さらに一枚、桜の花弁が机の上に落ちた。窓から外を覗くと、二階の教室からでは、桜はやや見下ろす形で、花のつき具合はおおむね八部といったところであった。等間隔に植えられた桜の木がキヨシロウを背後から追いかけ、後方に取り残していくようだった。やがて小さくなっていき、右に折れたところで知真館一号館に遮られ、姿を消した。

 緊張、人ごみ、睡眠不足、、、椅子に腰かけるや否や、キヨシロウを睡魔が襲った。ガイダンスが始まり、教卓から延々としゃべり続ける大学の事務員をもはや不気味に動く黒い影としか認識できなくなっていた。

『春眠暁を覚えずかぁ、、、』

 教室のなかを悠久とも思える時間が流れた。キヨシロウはそよ風のタオルケットに包まれ、桜の色の夢へと旅立とうとした。

「マクドナルドってさぁ、むかつくよな」

 自分に向かって言っているのだと思った、直感というものであろうか、そこにみじんの躊躇もなかった。あまりにも突拍子な話題で、およそ机に突っ伏す人間に振るようなものではないが、キヨシロウは自分に対して言っているのだと確信した。光の世界への帰還は急であったため、慣れるのに時間を要したが、体を起こし、後ろを振り返った。

 日本人離れした容姿の男がそこに座っていった。長くて細いブロンドの髪が小さな顔をより小さく見せていた。

「そう思わないか?かわいいキャラクター使ってありもしない夢の世界を描いて子供をだましているんだぜ、、、ほんとやんなっちゃうよな。それで客に出すもんがジャンクフードだもんなぁ、、、マ糞ナルド」

 それだけを言うと、男は、手のひらに黄色い文字でMと書かれたドリンクを満面の笑みですすり始めた。ストローの先端は噛んでボロボロになっていた。そのドリンクの容器は、式の間中、一体どのようにされていたのだろうか、キヨシロウは気になって仕方がなかった。外部から持ち込まれたに違いはないが、容器の性質上、バッグに忍ばせるのもいささか心もとない、、、そもそも、この男は手ぶらのようである。ただ、単に欠落したモラルのためだとは、これも直感であったが、キヨシロウはどうしても結論付けることができなかった。

なにはともあれ、会話を始めることを決心した。

「じゃあウォルト・ディズニーは?」

男はニンマリして応えた。

「ああ、あいつも大サギ師だよな、でもディズニーランドも大好きなんだよなぁ、、、(チーデ)がお気に入りなんだ、かわいいよなぁ~」

「ふふ、なにそれ。矛盾してない?」

「(レディオヘッド)なら話は変わってくるんだろうけど、別にオレは偉大な(トム・ヨーク)さんでもなんでもないからな、はは」

 これにはキヨシロウも噴き出さずにはいられなかった。


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