回想 recollection
姫視点 短い
戦闘状況におけるモニタリング結果。
生機融合状態、異常無し。体力、筋力、運動能力、反射神経速度、etc(運動における肉体機能、脳の反射など)に著しい向上。予想を超えたパフォーマンスを発現。以後、経過を見守る。
精神状態。特筆すべき点。洗脳操作、肉体に同調させた脳のフォーマット処置をされていないが、脳が処理を行えている。オーバーヒートを起こすような、予兆は発見できず。
冷静な判断が可能(戦闘行為について)。以前の肉体からの変化への動揺、恐慌などメンタル低下が認められず。非常に強固な精神を保有している模様。
ただし、降伏した人間に対し、この星の倫理に反する(同盟にもおいてだが)行為を確認。殺人を犯してもほぼ精神の変化無し。
この星の人間の平均と比較の結果、非常に偏りのある個体と推測。今回の戦闘における侍と呼ばれる身分の配下、忍び、草と呼称される職業と判明。だが、その精神性は異なるようだ。
彼は死体を漁り、なにやら取り出していた。それらは彼らが所持していた道具だった。クナイや短刀など持ち運びしやすい道具を選びとる。
『貴方は忍びと呼称される職業の様子』
「それがどうかしたか」
通信で彼に呼び掛ける。彼は手は休めずに、両手を血まみれにしつつ作業を続ける。
『それらは自らの身分より高い地位の方にお仕えするようですが、何故仕えておられないのです』
「斬ったからだ」
『もしや……』
いつも通りの抑揚の無い声で平然と語る。
「仕えていた主を斬った。それだけのことじゃ」
必要なものは手に入れたのか、立ち上がり川の水で両手と顔を洗う。
「森とかいう侍はどこ行きおった」
彼は眼を閉じ意識を集中させる。だが、それらしき点は見つからない。
『船内の機能が全て復元出来た訳では無いので、映らない影と言うべき場所に入り込んだ可能性があります。まずは表示されている……』
「どうした」
一瞬の沈黙を訝しむ彼。私が沈黙したのは、大きくこちらへ直進している反応が有ったためだ。半壊しているカメラやセンサーでは侵入者の行動を全てチェックは出来ない。その穴を突き、侵入者は何らかの方法で隔壁、トラップを突破したのだろう。だが、他のブロックに置いて何らかの震動が感知された。爆発物を使用したのだろうか。
『私の下へ接近している集団があります』
「確かに移動して居るようじゃ。奴のことは取り合えず捨て置け。道順の指示を……このまま上昇でいいんじゃな」
『はい。糸を使用し早急に排除を。また敵は船の武器を使用している可能性があります。十分に注意を』
瓦礫を次々と飛び越え、獣めいた動きで集団に迫る彼。
「斬った理由はな」
突如、口を開く彼。その吐息に乱れはない。
『なぜ理由を話す気に? 意味の無いことはしないのでは』
「聞きたそうにしておる」
『そんな事はありません。また、声、表情の変化が無い、識別不可というのにその予測は的外れです』
「そうか。だが儂はそう思った。だから勝手に喋らせてもらおう」
三角飛びで壁を蹴り、糸を放ち突き出た鉄骨を絡める。糸が戻る勢いで大きく跳躍する。
「儂は生まれ出でた時から忍びじゃ。物心付いた時には既に仕えておった。命令されるまま、情報を集め、主の敵を殺し、騙し、全ては主が望む事を叶える道具じゃった」
扉の一つをトンファーで切り開く。
「じゃから弑た」
『前後の繋がりが不鮮明です』
「主が望んだ。先祖からの敵が死に、本懐を遂げた。お前のお陰で何でも叶う。夢を見ているような気分じゃ、本当に現実か、と。儂は斬った。痛いでしょう。夢ではありませぬ、主の死も、敵方の死も、全て現実でございます。とな」