Fall(1)
ガタガタと荷馬車が揺れる。
何十両にも及ぶ荷馬車の群れが、宵闇の中を寂しく進んでいく。
すし詰め状態の荷台の上で、リックは膝を抱えたまま死んだように動かなくなっていた。
何が起きたのか?それを考える余裕はリックには無かった。
もうミーアには会えない。彼の頭の中はそれだけでいっぱいだった。
スラムに騎士団がやって来たのはミーアと別れてから数十分後の事だった。その時リックは、いつミーアが帰ってくるのかと部屋の中をグルグル回っていた。ただその時が待ち遠しくて、落ち着いて椅子に座っていることなどできなかった。
だが扉を叩く音と共にやって来たのはミーアではなかった。剣で脅され、他のスラムの人間と共に強引に荷馬車に載せられる。
「喜べ。お前たちは今から、大神レイグナールの御威光を世に知らしめるための、尊き犠牲となるのだ」
「お前たち不法占拠者どもを一掃し、このゲルトラントに新たな風を吹かせる。これはそのための措置なのだ」
「これはお前たち穀潰しが、お国のお役にたつことのできる最大の機会でもあるのだ。胸を張って行くが良い」
拒否権など無かった。
そして今、その穀潰しを載せた荷馬車の群れが、ゆっくりと道を進んでいく。これから自分たちはどうなるのか、気づかない者は居なかった。
だがその最期が人間によって迎えられるのかそれ以外の存在によって迎えられるのかについては、彼らの中でも考えが分かれていた。どうでもよかった。
いずれにしろ、自分たちは死ぬのだ。
「ミィちゃん」
リックが想い人の名前を呟く。そこに怒りや恨みの念は込められてはいなかった。
結局、約束を破ってしまった。
「ごめんね」
それは心からの謝辞であった。




