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ユースフルパーソン

「俺たちハンターは皆、少なからず鬼の血を引いているんだよ」


 それが鬼に対抗できる力の源だ。


 キリはそう続けた。


「だけど、稀に直接鬼の血を継ぐヤツらもいる。それがアスハとビャクだ」


 彼の視線の先では、アスハがビャクを抱えて笑い転げている姿があった。


「アスハは母親が鬼。だから体が強え。腕力とか敏捷力とか持久力がずば抜けている。逆に、ビャクは父親が鬼だ。そのせいなのか知らんが、体は弱いが魔力は強い。俺とイトは先祖が鬼と交わったって程度だから、まあ、ハンターの中では優秀な方ってくらいだな」


 最後に自分自慢が着いて来た。


 そこで、ふとした疑問が湧いて出る。


 ただ、すごく聞き難いのだけれど。


「あのさ、あの、鬼の血を引くって、その……」


 何とか上手い事聞く方法が無いかと脳を捻っていると、キリは瞬いた。


 ややもして、「ああ」と何かに勘づいたらしい。


「どうやったら子どもが出来るかって?」


 うわ。直球。


 こっちの配慮というか、思慮というか、そんなもの、彼には何の意味も為さないらしい。


 キリはずばっと言い切った。


「高位の鬼なら人間と殆ど変わらないから、ふつーにヤれば出来んだよ」


「うう…………」


 そんな生生しく言わなくて良いのに……。


 赤面して項垂れる僕に、けたけたとキリは笑い声をあげた。


「ま、あんな人間離れした化け物ばっかり見てたら変に思うのも当たり前だって」


 そう言って、ばんっと僕の肩を叩く。


 結構痛い。


「だが、高位の鬼は違う。人間みたいに出来るんだよ。……しかしな、決して間違っちゃいけないのは、ヤツらが鬼だってところだ」


 始めの方は軽快だった口調が、最後には重々しく、そして苦い様な雰囲気に変わった。


 彼は何か深い線引きをしている。そう感じた。


「キリ……」


 気が付けば、惚けた様に彼の名を呼んでいた。


「…………様」


「は?」


 そんな妙な台詞が返って来て、僕は思わず聞き返していた。


 すると、にやりとキリが笑っている。


 彼は僕の頭を抱え込んで、ぐりぐりと脳天に拳を突き立てて言う。


「キリ様、だよ。呼び捨てなんて百年早いっつーの」


「い、いたいいたい、いたいって!」


 僕の抵抗は殆ど、というか全く意味を為さず、キリの思うままにされていた。


 そこへ、どっと低い声が降って来る。


「そろそろ遊ぶのは止めろ」


 イトだ。


 切れ長の瞳が僕ら四人を映す。


「鬼刻の残りは三十分といったところだろう。それまでに大元を叩かねばならない」


 ビャクを抱えたままのアスハがにっこり笑う。


「だ、ね」


 そして少年を放して、立ち上がる。


 日本刀を肩に担ぎ上げて、ぽんぽんと軽く上下させる。


「いっそ、屋根でも伝って行く?」


 天井を見上げてそんな事を言い出した。


「屋上へはどうやって行くんだよ。元の道を戻んねえと階段無いぜ?」


 肩を竦めてキリが返す。


 それを聞いたアスハは「しまった」と言いたげに、べえっと舌を出した。


「そうだった。……あの鬼の大群の中を進んでたら時間足りないよね〜」


 首を捻る彼女を見ていて、僕はふと、思い出した事があった。


 肩に掛けていた鞄を下ろして、PCを取り出す。電源を入れると、すぐに起動したから、そのままとあるソフトを立ち上げた。


「お前、何やってんの?」


 瞳を瞬いたキリが横から覗き込んで来た。


 僕は早口で返事する。


「前に、部で学校の立体画像を作ったんだ。それを見れば、体育館までのルートを考えられるよ!」


 部というのは、その名もPC部。PC関連なら何でもやってみようという部活動だ。


 何でも、と言うからには、PCの組み立てから、2D、3D画像の作成に、ゲームの作成。結構真面目に活動しているのだ。


 その中の一つで、学校の端から端までを立体画像にするという試みをしたのだ。結構広い上に複雑な構造のこの学校はかなり作りがいがあった。十人の部員がそれぞれ担当を決めて、全員の作成分を合体して完成した時は全員で大喜びしたものだ。


 ソフトが起動すると、今度はファイルを開く。


 するとマイPCの画面の黒い背景に、水色と黄緑色のラインで学校の3D画像が表示された。


「よし。ここが現在地だから、使えそうな廊下と、渡り廊下をピックアップして……」


 マウスパッドの上に指を滑らせて、使えそうな箇所に赤いラインを引いて行く。


 ああ〜、赤外線のマウスが欲しい!


 そんな事を考えながら赤いラインを引いて行く。


 すると、見えて来た。


「そうだ、このベランダと渡り廊下を使えば!」


 全ての教室にはベランダがあって、同じ階で同じ方向に窓があれば、全て繋がっているのだ。


 そこを通り、突き当たりから二メートルの先に、体育館へと通じる渡り廊下の……。


「屋根なんだけど……」


 こ、これで大丈夫だろうか、という不安いっぱいの声で尋ねると、ハンター四人はまじまじと画面を見つめていた。


「あ〜、えっと、渡り廊下の屋根を伝って行くと、体育館の窓が一メートルくらい上にあるんだよ。そこを開ければ、中に入れると思うよ。で、その下はちょっと高いけど、三、四メートルくらいかな?」


 画面に齧りつかんばかりの勢いで見つめる四人に、僕は怖々とそう付け加えた。


「……………………」


 しばし沈黙が流れる。


 最初に動いたのは、驚いた事に、ビャクだった。


 僕を見上げて、画面を指差す。


「作ったの……?」


 この画像を、という事だろうか?


「う、うん。一人でじゃないけど……」


 頷くと、アスハがきらっきらした瞳でこちらを見つめて来た。


「すっごい! 何がどうなってるのかわかんないけど、すごいよ、シン!!」


 え、そこまで褒められると、照れるのを通り越して、どこに行けばいいのか分かんなくなるんですけど……。


 今度は頭をがっつり掴まれた。


 もちろん犯人はキリだ。


「ただの足手まといかと思ったけど、やるじゃん」


 と言って、ぐわしぐわしと頭をかき混ぜられた。


 か、髪がぐしゃぐしゃだよ!


「ふっふっふ。……これで、いいんじゃなーいの〜?」


 刀を肩に担いだまま、アスハが両腕を前に突き出して伸びをする。


 それはそれは楽しそうに叫んだ。


「さーて。ここから、再戦と逆襲の開始ねっ!」









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