表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

デストラクション

 人ならざる少女は階上へと視線を移す。


「只人では無いのう。……ハンター共か」


 探る様な目で、イト、キリ、ビャク、そしてアスハを見る。


 その奥にいる僕を見つけた時、彼女はにんまりと微笑んだ。


「その只人を差し出せば、許してやろうぞ。妾は寛大じゃぁ〜」


 すいっと上げられた指先は、真っ直ぐに僕を示していた。


 蛇に睨まれた蛙のように身動きのとれなくなった僕とは対象的に、アスハははっきり言い切った。


「お断りね。私たちはあなたみたいなのを退治する為にここにいるんだもの!」


 細剣レイピアをひゅっと鳴らして、キリが続ける。


「っていうか、お前みたいな三流の鬼風情が、偉そうじゃね?」


 彼特有の意地悪げな笑みが浮かぶ。


 それを聞いた少女鬼は柳眉を上げた。


「妾が三流じゃとっ!?」


 そして、やはり冷静にビャクの声が響く。


白磁はくじ。最下級の鬼を使役して攻撃や防御を行う、下級の鬼」


 最後の一言がやけにはっきり言われたのは、僕の気のせいじゃないと思う。


 結果としては、少女鬼の怒りを煽ることになるのは当然のことだった。


 立ち上がった彼女は、ぶるぶると肩を震わせて、こちらを睨み付ける。


「妾を、妾を下級じゃと……? ふ、巫山戯るなっ、下等な半鬼共が!!」


 ぶわっ、と白い着物の背後から膨れ上がるように白羽が飛び出した。


 

 ばちばちばちっ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞっ……


 

 凄まじい音を立ててそれらはこちらに向かって来た。


 イトがすかさず迎え撃つ。


 が、彼は楽しそうに銃をぶっ放しながら言う。


「はっ、流石にこの数は収集がつかないぞ!」


 時々取りこぼした白羽がこちらに向かって来るのを、アスハとキリが薙ぎ払う。


「こんなの本来の使い方じゃねぇ〜!」


 突く訳にもいかずに、仕方無く剣の腹で白羽を打つキリは細剣の使い方に不満たらたらだ。


「ビャク!」


 日本刀を素早く振りながら、アスハは傍らの少年を呼んだ。


 本を開いたビャクは、低い低い声で恐らくそこに書かれているであろう呪文を読み上げた。


「Vanbram Cambram Ich Hwen!」


 ビャクの髪が激しく巻き上げられ、光が本の中央から発せられた。


 ぴしり、と軋んだ音がする。


 アスハの吐く息が白い。


 僕の息もそうだった。


 そして後から寒気が押し寄せた。


 イトの銃声も止んでいる。


 妙に静まり返った空間で、ぱりんっと音がした。


 空中にいた白羽がどんどん地に落ちて、同じ儚い音を立てながら壊れていった。


 階下にいる少女鬼が、手元に落ちて来た白羽に、呆然と手を伸ばす。触れた瞬間に、解けるようにそれは消えてしまった。


「もしかして、凍らせたの……?」


 誰にでも無く僕が疑問を口にすると、アスハが少し振り返って笑った。


「ビャクは魔術の天才なの。これくらいは夕飯前ね」


 そこにキリが突っ込む。


「それを言うなら朝飯前、だ」


「だって晩ご飯の前だもん」


 少女鬼そっちのけで話し始める二人に、僕は呆れた視線を送る他なかった。


 自分の作った白羽をあっさり片付けられて、現在無視されている状態の少女鬼は、それを我慢出来なかった。


「妾を、妾をコケにしおって!」


 そう叫ぶと、一階から二階へと一気に飛び上がって来た。


 イトがすかさず銃を撃つ。


 ところが、きんっ、と甲高い音を立ててその弾が弾かれた。


「何っ?」


 戸惑うイトに構わず、少女は真っ直ぐにアスハに向かった。


 着物の袖から鋭い爪を持つ指を振りかざす。


 それをアスハは手にした日本刀で受け止める。


「あなた、硬いね」


 まだ余裕のある表情で、相対する鬼にアスハは言う。


 彼女の持つ刃は確かに少女鬼の手の平に当たっているというのに、それ以上刃先が進まないのだ。


「妾は白磁ぞ。そなたらのナマクラが通用するわけ無かろう」


 優位に立ったと思ったのか、少女鬼は嬉しそうに笑う。


 そしてアスハの刀を握りしめて、反対の手を彼女を貫く為に伸ばして来た。


 それをキリの細剣が突くが、剣身が柔らかい為にしなってしまい、少女鬼を怯ませるくらいしか効果が無かった。


「アスハ、しゃがんで!」


 ビャクの幼い声がその隙を突いた。


 素早くアスハはその場にしゃがみ込んで、愛刀を引き寄せた。


 同時にイトもバックスッテップを踏んで下がる。


「Ebeeva Stai Ich Hwen!」


 素早い詠唱の後、火炎が大気を貫いた。


 少女鬼の全身をくまなく覆う。


 柵の上あたりに居た彼女は、自分の着物が燃えているというのに、ころころと笑う。


「妾は白磁! 炎など効くものか!」


 その台詞に、僕の頭にある考えが浮かんだ。


 考え込む間も無く、僕はそれを口にした。


「アスハ、その子を噴水に!」


 彼女は躊躇い無くそれを実行してくれた。


 日本刀の峯を少女鬼の胸のあたりに強く押つけて、自分の体重で押し倒す。


 そのまま一緒に階下へと落ちて行くように見えた僕は慌てて駆け寄った。


「ア、アスハ!」


 すると彼女はひらり、と空中で一回転して床に降り立った。


 そしてこちらを向いてにっこり笑う。


「大丈夫。私、反射神経良いから」


 ほっと息を吐いた僕とは反対に、イトやキリは鋭い眼差しを少女鬼へと送っていた。


 少女は衣に炎を宿しながら真っ逆さまに噴水の流れる人工の池に落ちて行き、水しぶきを上げてそこに飛び込んだ。


 しゅうしゅうと、炎の熱で水蒸気が上がる。


 そこから体を起こすと、呪いでもかけそうな程の視線を柵の向こうの僕らに向けて来た。


「妾に、良くもこの様な真似をっ……」


 特に提案者の僕をその瞳に映すと、血走った目を大きく見開いた。


「ひっ」


 僕は身を縮こまらせる。


 その時だ。


 ぴしっ、と硬質な音が響いた。


 少女鬼の頬に亀裂が走った。


 違和感を感じたのだろう。彼女も自分の顔に指を添える。


 すると、その指先にもヒビが入った。


「わ、妾の、妾の体がっ」


 困惑をそのままに、両手を上げると、その腕までヒビが放射状に広がって行った。


「終わり、ね」


 そう言って、アスハが柵の上から飛んだ。


 愛刀を下に向けて構えたまま、真っ直ぐ少女鬼へと降りて行く。


 切っ先が鬼の額に突き刺さり、今度は弾かれることも無く、すんなりと刀はその先へと入って行った。


 額を貫き、体の中心へ。


 切る、というよりも崩す、と言った方が正しいだろう。


 そうしてぼろぼろと少女鬼の体は小さな欠片になっていった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ