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ブラックドッグ

 そんなこんなで、謎の四人組と僕は一緒に行動する事になった。


 彼らには何処か目的地があるらしいから廊下を歩いているんだけど、相変わらずキリという青年は不機嫌だ。むすーっとした顔で最後尾を歩いている。


 そしてビャクは無表情で、イトは厳めしい。


 アスハだけは朗らかに僕に話しかけてくる。


「じゃあ、シンは勉強してて遅くなったんだ。偉いね」


「……別に偉く無いよ。一応この学校は進学校だから。それだけだよ」


 そこで、アスハは不思議そうに瞬いた。


「しんがくこう、って何? 普通の学校じゃないの?」


「へ?」


 進学校を知らないって?


「えーと、あのさ。アスハって学校行ってないの?」


「うん」


 さも当然、と言った感じで頷く。


「お仕事あるもん。あ、ちゃんと勉強はしてるよ!」


 現代日本でそんな事あるんだ。何故か納得してしまう。


「仕事、『鬼退治』って言ってたよね。それって、何?」


「ん。さっき見たでしょ、鬼。あれがこの世に出て来たら退治するの」


「あの、グロテスクなやつ?」


 先ほど見たトラウマものの光景が頭をよぎる。顔が歪むのは見逃して欲しい。


 アスハは僕の嫌そうな顔に気がついて、ふふっと笑う。


「あんなんばっかりじゃないんだよ。もっと獣っぽいのとかもいるし、人と区別がつかないようなのもいる。そっちの方が厄介よ。強いから」


「……強いんだ」


「さっきのヤツは雑魚。いっぱいいたって何とかなるのよ。でも、本当に強いヤツは、四人で協力しないと難しい。だから私たちはチームで行動するんだ、け、ど……」


 アスハの語尾が不自然に止まったその時、ぴり、と四人の纏う空気が変わった。


 隣を歩く少女の顔が真摯な表情を浮かべる。


「来たぞ」


 キリが低い声で言って、後ろを向く。


 彼は腰の剣を抜いた。細い、柔らかそうな剣だ。


「フェンシング……?」


 僕の呟きに、キリは振り向いてにやりと笑った。


「ばーか。こういうのは細剣レイピアっていうんだよ」


 けれど直ぐさまその笑みを引っ込めて、廊下の奥に鋭い視線を送る。


 普段なら突き当たりまで見通せる廊下の奥に赤黒い霧が広がり、そのさらに奥から低い唸り声が聞こえた。


「二匹の獣」


 小さい声でビャクが言う。


 それに呼応するようにアスハが半身を引いて日本刀を構える。



 ぐるるるるるる…………



 低く重たい声がする。


 僕は精々自分の体の前に鞄を持って来るくらいしかすることが無い。


 徐々に、徐々に、霧の向こうから何かが姿を現した。


 黒い大きな犬だ。それが二頭。


「い、犬、じゃない?」


 涎を垂らして、目が酷く充血していて、狂犬病っぽいけどね。


 ところがアスハはけたけたと僕の言葉を笑い飛ばす。


「ざんねーん。あれも鬼だよ〜」


「僕の結界の中には人間が五人だけ。それ以外は全部鬼」


 本当に残念な情報がビャクからもたらされる。


 がっくりだよ。


 情報をくれた当人は僕に構うこと無く手に持った分厚い本を開いた。


黒犬こくけん。第三の目を持つ闇の狂い犬。雄雌一対で、幻惑見せる」


 ぼんやりとした輝きを放つ本にはよく分からない文字が並んでいる。けれどビャクには読めるようだ。


「幻惑ねえ……」


 細剣を持って、キリが楽しそうに言った。


「それって、目ぇ潰せば出せねえんだよな?」


「うん」


 ビャクが答えるよりも早く、キリは動いた。


 風の様に駆けて、左側の犬の額を貫いた。


「えっ」


 僕がそんな声をあげる間に、キリは犬の横っ面を足で踏んで細剣を引き抜いていた。


 ぎゃんっ、と悲鳴のような声が漏れるが、彼は構わずもう一方の犬に振り返る。


 何の躊躇いも無くもう一頭の額を真っ直ぐに貫いた。


「ご自慢の幻惑も使えず、ご愁傷様!」


 そう言ったキリの横顔は、実に楽しそうで、性悪そうだった。


 ぐずぐずと凝っていた二頭の犬も、やがて先程の鬼のように崩れて消え去った。


 そこに能天気な声が響く。


「あ〜! 一人でやっちゃった!! 一個くらい残しといてよ、キリっ」


 僕の隣でアスハが鞘に納まったままの日本刀を振り回しながら叫んでいた。


 いや、ぶつかる、ぶつかるって!


 対するキリは、にやにやと笑っている。


「早い者勝ちだろ」


 ぶうぶう言うアスハの足元では、本を閉じながらビャクが俯いていた。


「新しい術試したかったのに……」


 新しい術って、なんだー?!

 








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