ヒーロー志願の男は
ー某映画制作会社オーディション。
そのオーディションは次回作のアクション超大作のキャストを一般からオーディションで選抜するという斬新なものである。
だが、「斬新」といえば聞こえこそいいが、会社自体が貧乏で、純粋に有名俳優を雇うほどの金もないのが実情。それに、小さい会社だからであろうか、まったくろくな奴が来やしない。こんな現実でよくもアクション超大作といえたものだ。
そんなことを考えながらただ一人の審査員、御影 祐樹はタバコをくゆらせながら次々とくるエキストラにすらなれない変人、奇人の類のくだらない自己アピールをボーッと見ていた。
彼はそうしてやっと十数人目の男に、「はい、結果は後ほどお伝えしますのでー。お疲れ様でした~」とテンプレートな回答でさっさと帰し、残すところあと一人まで漕ぎ着けた。
ようやく帰れる。こんなくだらない、不毛なオーディションから解放される・・・。
今でこそこんなにやさぐれた男ではあるが、元々は映画を作りたい一心である有名大学を中退して入社した程の熱意溢れる男だった。
だが、現実というものはかくも辛い。「有名な製作会社でなくてもやっていけるだろう」と目論んでいた彼の夢は粉々に、それこそ原子レベルにまで分解された。
まず、そもそも金がない。有名、あるいは有能な監督がいない、スタッフも機材もなんだかくたびれていてやる気も見られない、だから映画も中途半端、で、もうからない・・・といった負のデフレスパイラルが起きているのだ。
そんな現実世界を目の当たりにした祐樹青年は、いつしか熱い情熱を失い、けだるさ溢れる立派な現代の社会人になってしまった。
「俺も悲哀ただようサラリーマンと変わらねぇな・・・」、そう思いながらもとりあえずは次の候補の履歴書に目を遣る。
その履歴書は、実に汚かった。
字だけならまだいい、何故か黄ばみやところどころが破れているのだ。
「なんだ、この履歴書・・・?社会人の常識すらわかってねーよ・・・、まぁ、ある意味では大物だろうがな」
どうせどっかの田舎からパッと出、「有名人になってやる!」とか言い残してきた古臭くて暑苦しい奴だろうな・・・、そう思い、心の中で嘲っていた。実際のところは自分の昔と大して変わっていないが。
「まぁ、何とかものになりそうなら適当に端役でもやらせておくか・・・」
そう呟き、「次の方、どうぞ~」と言って入室を命じる。
が、扉の外から返事はない。
「・・・緊張してるのか?」
こんな下らないオーディションでよくもまぁ・・・。
半ばあきれながら「次の方、どうぞ~」と繰り返す。
が、やはり返答はない。
「ったく、面倒くせぇ・・・」
祐樹は短くなったタバコを灰皿でもみ消すと、立ち上がり、扉の方へ向かう。
彼がその扉のノブに手をかけて、開こうとするとー、
「ドゥゥゥゥゥーーーッッッ!!」
ドガシャァァァッ!!
奇妙な掛け声と共に扉が蹴破られ、祐樹は破片と共に吹っ飛ばされる。
そこで候補の男は扉のあったところから数回前転して中に入り、すっくと立ち上がる。
「正義の味方、断 空牙、見っ参!!」
そこで格好よく決めポーズを作り、審査員席に振り向く。
「ん、どこにいった審査員!?」
叫びを上げ、オーバーリアクションにも程がある動きであちこちを見回す。
「・・・さては、悪の組織、「アックダー」にさらわれたな!?ええい、こうしちゃおれん、一刻も早く救出に行くぞ!!」
カメラもないのに何故かカメラ目線で壁に向かって叫び続ける彼の後ろで、祐樹はゆっくり立ち上がる。
「・・・審査員ココにいますが」
「何ぃ!?」
いちいち叫び、大げさに振り向く空牙。
「なんと、怪我をしてるではないか!?誰にやられた、アックダーか!?」
「・・・そんな安易でチープなネーミングセンスの組織じゃなくて、アンタにやられたんだよ・・・!!」
祐樹は怒りを押し殺している。できることなら今すぐにでも殴りたい気分だ。
「おお、失敬失敬!ついつい癖で扉を蹴破ってしまった!!」
「どんな癖だよ・・・」とか思ったが、面倒くさかったので祐樹は黙って審査員席に着き、新しいタバコを取り出した。こんな奴はさっさと終わらせておくに限る。
「・・・では、審査を始めるからそこの席・・・、はさっき吹き飛ばされたから、そのまま立ってて」
「おう、任せておけ!!」
親指をグッと立てる空牙を完全無視し、祐樹は淡々とすすめようと試みる。
「・・・あなたのお名前は?」
「フ・・・、よくぞ聞いてくれた!俺の名は・・・、」
そう言って、ブンッ、シュバッと腕を振り回して、最後にビシィッとポーズを決める。
「断 空牙だ!!」
「・・・はい、断さんね。では、あなたがこのオーディションに参加した理由は?」
「フ・・・、よくぞ聞いてくれた!その理由は・・・、」
そう言って、ブンッ、シュバッと腕を振り回して、最後にビシィッとポーズを決める。
「ヒーローになるためだ!!」
「・・・・・・はい、俳優志望ね。じゃあ、この映画でどんな役を演じたいので?」
「フ・・・、よくぞ聞いてくれた!演じたい役は・・・、」
そう言って、ブンッ、シュバッと腕を振り回して、最後にビシィッとポーズを決めー、
「・・・・・・・・・って、しつこいんだよっっっ!!??」
流石に祐樹がキレる。
「つか、何なの?いちいちポーズ決めなきゃ何も言えないの!?」
「いや、ついつい癖が・・・」
「だから、どんな癖だよ!?もっとマシな言い訳考えろよ!?」
「言い訳などはしない、俺はヒーローだからだ!!」
「いや、ふんぞり返って言っても全然説得力ねーよ!?」
祐樹はそこまでツッコむと、急に疲れが来たのか、ゆっくり座りなおす。
「・・・とりあえず、その毎回ポーズ決めるのやめてくれる?イライラするから」
「おう、分かったぜ!」
ビシイッとポーズを決める空牙。
「いや、人の話を聞けよ!?・・・じゃあ、とりあえずさ、台本読んできた?」
「ヒーローにそんなものは必要ない!!」
「・・・読んでないのに来たのかよ・・・。・・・まぁいい、じゃあ、このシーンの主人公のセリフを即興でやってくれる?」
祐樹が台本を開き、そのページをしめして空牙に渡す。
「任せておけ!!・・・それじゃあ行くぜ!!」
そう言って空牙は大きく息を吸い、ゆっくり吐き終えたところで始める。
「俺は・・・・、貴様を・・・・こ・・・、え・・、て・・・、み・・・せ・・・!!」
「いや、ストップゥゥゥゥ!?」
息を吐き終えた後の発音だったために、空牙は酸欠状態に陥って真っ赤な顔でセリフを言っていた。
「いやさ、深呼吸の後に少しは息吸えよ!?そんな発音の仕方してたら死ぬだろ!?」
「ヒ、ヒーローはいつでも、命がけだぜ・・・!!」
「それはいつでも命がけだろうね!?扉ぶち破ったり、酸欠状態で発音ばっかしてたら命幾つあっても足りねーよ!!」
プロの芸人ばりに祐樹が叫ぶが、空牙のほうは呼吸を整えるのに精一杯だ。
ーしばらくしてようやく復活した空牙を前に、再び面接が開始される。
「・・・それで、俳優になりたい動機は?」
半ば呆れたような感じで尋ねる祐樹。今度は馬鹿なこと言ってもツッコむまいと決めている。
「ああ、決まっている・・・・」
さっきとは打って変わって静かにそこで一拍置くと、空牙はまっすぐな瞳で祐樹を直視する。
「人々に、夢を与えたいんだ!!」
「っ・・・・!?」
祐樹は衝撃を受けた。彼の気持ちがこもっていることに、純粋まっすぐな瞳があまりにも濁っていないことに。
そして、その目は昔の熱かった頃の自分によく似ていたからだ。
「・・・俺は、小さい頃ずっと映画を見て育ってきた。映画は悲しいときも苦しいときもずっと俺を支えてくれた・・・。だから、俺は俳優になって最高の映画に華を添えて、映画にも恩返ししたいし、夢を忘れた人たちにもう一度夢を与えたいんだ!!」
祐樹は黙って聞いていた。彼は先程までの珍行が嘘のように真面目に語っている。
「・・・それが、志望動機ですか?」
静かに尋ねる祐樹。
「ああ、それだけだ!」
力強く応える空牙。
「分かった、それじゃあ、結果を今すぐ伝える」
そう言って顔を上げた彼は、既に数分前の気だるさは微塵も感じられなかった。
「・・・断 空牙・・・。合格だ」
「・・・いいのか、こんな履歴書もロクに書けない、礼儀の欠片もない俺が・・・?」
空牙自体もいささか驚いていた。自分でも流石にやりすぎたと思ったからだ。ちなみに思ったのは一瞬である。
「・・・そんなもの、最高の映画を作ることには何の関係もない・・・。早速今から撮影するから、お前のそのオーバーリアクションな演技、期待している!!」
以前のような濁りひとつない瞳を取り戻した祐樹は、そう言って彼に握手を求める。
「・・・任せておけ!」
こうして、御影祐樹と断空牙は出会ったのだった。
そして彼らのコンビの名は伝説となりー、
そこまで祐樹が脳内でナレーションしていると、急に空牙の携帯がなる。
「あ、もしもし、俺~。え、今何してるって?うん、暇つぶしにオーディションでもしてたんだよ。いや~、それはいいんだけどまさか合格するとはな~。どんだけロクな人間集まってないんだって話だよな~。今から?あ、うん暇暇~。え、映画見に行く?勘弁してくれよ~、俺すぐ寝ちゃうし~。つか今から新しくできたゲーセンに・・・」
空牙は先程とは全くの別人のように、通話しながらそのまま部屋を後にする。
祐樹のくわえていたタバコがポトリと床に落ちる。
そして彼は大きく息を吐くと、新しいタバコを取り出して火をつける。
「・・・・・・やめよ、こんな仕事」
三作目です。
女の子1人でない作品ですね。
なんでこんなネタを思いついたのか、書き上げた今となっては不明ですね・・・。




