わたしわたし詐欺
アナウンサー「さて、続いての特集です。現在、わたしわたし詐欺という詐欺行為が全国で相次いでいます。警視庁は捜査チームを立ち上げ、その実態の調査に乗り出しており、国民に対して改めて詐欺行為の周知と注意を呼びかけています」
未来の私「もしもし? 実は私、二十年後のあなたなんだけど、車で人を跳ねちゃって示談金を払わなくちゃいけなくなったの。だから急いでこれから言う銀行口座に50万円を振り込んでくれない?」
私「えーと、すみません。そんなこと言われても、分かりましたって振り込むわけないですよね?」
未来の私「その気持ちもわかるわ、だってあなたは私だもの」
私「電話切りますね」
未来の私「ちょっと待って! 冗談でもなんでもなく、本当に私は未来のあなたなの。未来ではお金を貸してくれる知人はいないし、あなただけしか頼れないの!」
私「まず未来の私だって言ってますけど、そんなこと信じられるわけないですよね。あなたが未来の私だってことを証明してくださいよ」
未来の私「ふふふ、私のことだからそう言ってくると思ってたわ。じゃあ、あなたしか知らないことを言えば信じてもらえる?」
私「たとえば?」
未来の私「中学時代、好きだったクラスメイトと結婚する妄想をしてて、結婚した後の名字をノートに書いて練習してたでしょ」
私「よくある話ですよ」
未来の私「好きな人の名前でSNSのアカウントを作って、一人二役でDMを送り合って楽しんでたこともあったっけ」
私「私が知らないだけで、みんなやってることだと思います」
未来の私「名前の練習をするだけじゃ足りなくなって、結婚式で流す入場曲とかお色直しの時の曲のラインナップを作ってた」
私「ごめんなさい。もう許してください」
未来の私「私が未来のあなただって信じてくれた?」
私「わかりました。百歩譲ってあなたが未来の私だってことは認めます。ですけど、だからといって五十万なんて金額をポンと渡せるはずないですよ。示談金なんて言ってますけど。本当に人を跳ねたかどうかなんて私には分かるはずがないじゃないですか」
未来の私「そんなこと言われても、人を跳ねちゃったんだからどうしようもないでしょ」
私「証拠もないし、信じられない」
未来の私「今払わなかったら困るのは二十年後のあなたなのよ? それに……二十年前の私はもっと素直に貸したけど」
私「そんなこと言われたって、信じられないものは信じられないです」
未来の私「仕方ないな。せっかく理由をつけて貸しやすくしてあげてるのに。私ならもっと察してくれると思ったんだけど」
私「どういうことですか?」
未来の私「あなたは私よね?私ってどういう人?」
私「えっと、優しくて、顔もよくて、頭もいいですね。色んな人からセンスがあるって言われますし、仕事もできる方だと思います」
未来の私「そうね。でも、それとは別に大事なことを忘れてるわ。それはお金が好きで、楽して稼ぎたいって思ってること。人にお金を貸したり、奢ったりなんてことも極力したくない。そんな私が本当にこんな嘘くさい話でお金をもらおうとしてるって本気で思う?」
私「確かにそれはそうですけど……」
未来の私「ここからは他に聞かれたらまずい話だから、一回だけしか話さないわ。示談金っていうのは建前。私はあなたからお金を借りたい理由は別にある。それは、二十年後に大きく株価を伸ばしている株の銘柄を買うためなの」
私「それってどういうことですか?」
未来の私「つまりあなたの時代ではまだ全く注目されてないとある企業が二十年後にはとてつもなく大きな企業に成長してるの。つまり今のうちのその会社の株を買っていれば、それで二十年後に大儲けできるってわけ。どう?お金を貸す気になれた?」
私「いい加減にしてくださいよ」
未来の私「え?」
私「そんなこと……もっと早く言ってくださいよ! 貸すに決まってるじゃないですか!!」
未来の私「さすが私! わかってる!」
私「あれ、でもだったら別に現金を渡すんじゃなくて、その銘柄だけ教えてくれたらいいだけじゃ……?」
未来の私「えーと、そんなことないのよ! 二十年後の世界ではね、いろんな法律ができてて、私が直接銘柄を教えてちゃうと色々とまずいのよ。だからお金だけもらえたら私の方で何倍も増やしてあげる!」
私「今すぐにでも貸します! どこに振り込めばいいんですか?」
未来の私「タイムトラベル銀行っていう銀行があるんだけどね、そこにお金を振り込んで欲しいの。今から細かい手順は説明する。とにかくあなたがお金を振り込んでくれたら、私は未来の知識を使ってそのお金を二倍、いや三倍にして返してあげる。そうね……一年くらい経ってからその口座をもう一度確認してみて。きっとお金が何倍にも増えてるから、あとはそこからお金を引き落として自由に使えばいい」
私「細かい話はいいですから、はやくお金を振り込ませてくださいよ」
未来の私「焦らないの。いい? 今から話す通りに携帯を操作してね。まずは、アプリストアの検索欄に隠しコマンドを入力して。そしたらそこにパスワードを入力する画面が出てくるから、それから……」
〜 1年後 〜
私「未来の私が言っていた一年が経ったし、ちょっと銀行口座を確認してみよっかな。えーと、よくわかんないアプリを入れられたからそれを開いて……。あれ? お金が全然増えてない? うーん、あんなこと言っていたけど、あんまりうまくいかなかったのかな……。でも、お金が消えたわけではないから、別にいっか」
私「増えないならこの口座に入れっぱなしにしとくのも嫌だし、引き落としたいんだけど……。どうやって引き落とすんだろ? 聞いてみないとわかんないな。ちょっと電話かけてみよ」
サポート窓口「はい、こちらタイムトラベル銀行です。どのようなご用件でしょうか?」
私「えっと、そちらの銀行に預けているお金を引き落としたいんですけど、やり方がわからなくって」
サポート窓口「承知いたしました。では、口座番号と名義人のお名前、現在電話をおかけになってる西暦をお伺いできますでしょうか?」
私「口座番号はXXXXで、名前は一条ほなみです。あと西暦? 一応今は2026年ですけど」
サポート窓口「……はい、確認が取れました。お客様の口座なのですが、引き落とし可能な時期に制限がかかっているタイプとなっておりまして、今すぐに引き落としはできず、もし引き落とすとなると結構な違約金が発生することになります。問題ないでしょうか?」
私「違約金っていくらですか?」
サポート窓口「お預けになられている金額のほとんどが消えてしまわれるかと……」
私「……ちなみになんですが、いつになったら引き落としができるんですか?」
サポート窓口「二十年後になっています」
私「それはつまり、二十年後の私じゃないとお金を引き落とせないと?」
サポート窓口「はい、その通りです」
私「わかりました。ちょっと考えさせてください」
サポート窓口「はい。またのご利用をお待ちしております」
私「……」
私「……」
私「……」
私「え? あれ? これってつまり、騙されたってこと??」
アナウンサー「さて、このわたしわたし詐欺という新手の詐欺行為について、専門家の小林さんをお呼びしております。小林さん、ご解説をお願いいたします」
小林「はい、これは電波や音声といった波形データを過去に送信することができるという部分的タイムトラベル技術の発明によって生まれた新しい詐欺行為と言えます。この技術が登場すると同時に、あらゆる違法行為が想定および対策されたのですが、まさにその抜け穴と言えるでしょうね」
アナウンサー「なるほど。昔の人に歴史的事実を伝えたり、為替情報を伝えるといった行為はかなり厳しく取り締まられていて、とても重たい刑罰が課されているというのは聞いたことがあります。ですが、確かにこのわたしわたし詐欺についてはそれらのどれにも当てはまりそうにないですね」
小林「ええ、過去の自分に対して嘘や儲け話を持ち出して言葉巧みに金品を要求するという行為は、直感的には詐欺行為だと言えます。ただ、これの興味深い点はですね、加害者も被害者も自分だということです。法的に、これはそもそも犯罪行為なのかというところから議論が行われており、昨今の法学分野ではホッとトピックになっています。そして、まだそのような状況だからこそ、このような詐欺行為が広く行われていると言えるのでしょう」
アナウンサー「知らない他人からのそういった怪しい話は信用しない人でも、相手が自分自身だと信じやすいですし。そういった騙しやすさも背景にあるのかもしれませんね」
小林「ええ、まさにそう言った法的、心理的な盲点をついた詐欺行為だと思われます」
アナウンサー「解説ありがとうございます。ちなみに小林さんは、二十年後の自分から怪しい儲け話を聞いたら、信じてしまいますか?」
小林「私ももう歳なので、二十年後には死んでると思います」
アナウンサー「確かにそうですね」
アナウンサー「それでは次の特集に移ります。来年2047年は香港の一国二制度の期限となっており、その対応に向けて日本政府および米国政府の実務者協議が行われ……」




