卒業パーティーは波乱の幕開け
「ユリア、婚約を解消してくれ」
本日は第1王子ランスと生徒会で開催された卒業記念の夜会である。入場時から生徒会役員らと入場するランス殿下の隣には婚約者ではない令嬢がいた。その為、今回の夜会に参加した貴族らは嫌な胸騒ぎがしている。それとは対照的に瞳を輝かせているのはランスらと共に卒業した令嬢令息達である。
ユリアは生徒会ではなかった為、入場は別であった。またユリアの両親も諸用にて到着が遅れている為に会場内でも1人であった。
ダンスが始まる前、元生徒会長であったランス王子が挨拶をする為に壇上に上がり皆に告げたのは、婚約者へ婚約解消を求める言葉であった。
そして、冷静に婚約者ランスとの関係を振り返るユリアはそっと瞳を閉じる。
始まりは、2学年の時だ。クリスティーナと言う元平民の女性が転入してから学園内とユリアの人間関係は変わった。
平民出身の彼女は他の令嬢とは違う行動と言動で目立っていた。また、愛らしい顔に大人の女性のような身体付きであり、学園で目立つ存在となるのに時間はかからなかった。異性との距離感が近く、気安く身体に触れる為に数多くの令嬢らから婚約者との関係が悪くなったと相談されていた。そこで、ユリアはランスの婚約者としてクリスティーナに令嬢としての振る舞いや、男女の距離感……特に婚約者がいる相手に対する行動を改めよと何度も進言していたのは間違いではない。
チラリと瞳を開けて壇上の2人を見ると、こちらを睨みつけている。
3学年となると、ランスはクリスティーナと過ごす時間が増えてきたのだ。そして何故かクリスティーナやランスの一部の側近からの度重なる嫌がらせや陰口が日常茶飯事となっていた。心の中では、そんなにクリスティーナがいいなら婚約解消をしないのかと思っていた。しかし、まさか卒業の記念夜会にて婚約解消を告げられるとは思ってはいなかった。この場には生徒だけではなく保護者も参加している、例え想い合っていても、あくまで婚約者はユリアである。
クラスメイトの皆様はランス様とクリスティーナ様の仲を応援し協力していたのだから何も不服には思わないわね。
「ランス様、理由は?」
静かに尋ねるユリア。
「私は、クリスティーナを愛してしまった。彼女も同じ気持ちだ。さぁ、愛しのクリスティーナこちらへ」
ランス殿下の色を纏う1人の令嬢が卒業生の声援に手を振りながら嬉しそうに壇上に上がる。そして、涙を浮かべユリアに伝える言葉は。
「ランス殿下、ユリア様……申し訳ありません。私なんかが王子であるランス様を好きになってしまい。そして想い合い、あなたからランス殿下を奪う形になる事を許してください」
以前から噂となっている2人だ。会場内にいる同じ学園の生徒は羨望の眼差しで壇上の2人を見つめる。
会場内からは卒業生からの祝福と拍手が起こる。それを無理矢理静止させる両親らである。
ユリアは少しだけ安堵した。この婚約が王命であった事を皆の両親は状況をわかっていると判断したからである。
ユリアはゆっくりとランスを見つめる。
「では、ランス様はクリスティーナ様との不貞を認め、婚約の破棄をしたいと?」
「おい……ユリア。私とクリスティーナは真実の愛で結ばれているのだ。君はいつも口煩い、そしてクリスティーナに嫌がらせをしていただろう。私の隣にはクリスティーナの様に優しく笑顔の絶えない女性が相応しい」
冷めた目で壇上の2人を見て言う事は1つね。
「ランス様、浮気する同士ある意味お似合いですわね」
その言葉に騒めく会場をぐるりと見渡し壇上の2人に言う。
「私が口煩いですか? 婚約者である私に自分達の不貞現場をただ見ていろと言うのですか」
「違う……私達は――――」
ランスはクリスティーナとの出会いや、泣いていた事、一緒に過ごすうちに惹かれ合ったなどと惚気話を始める。
「ランス様、クリスティーナ様のした事は間違いではなかったと言うのですか? 婚約者のいる令息に気安く触れる行動に間違いはなかったと? 不安となった令嬢達の代わりに彼女に行動を改めよと確かに言いました」
「クリスティーナは怖かったと言っていたぞ」
「何故、クリスティーナ様は私の婚約者であるランス様に泣きながら助けを求めたのですか? それをきっかけにランス様とクリスティーナ様は共に過ごすようになりましたわね。何かにつけ彼女を側に置き、私との時間よりも彼女との時間を優先してましたわ。しかも他の令嬢達は自分の婚約者にクリスティーナ様が近寄らなくなり安心したのではなくて?」
ユリアからの苦言をきっかけにランスとクリスティーナとの距離は一層近づき、周囲の皆も『真実の愛』であると2人を祝福していた。かつてユリアに相談してきた令嬢達ですら2人の愛を応援する側にまわっていたのだった。
「それは……学園生活に慣れないクリスティーナを守るのが生徒会長としての役目だ」
「そうですか。しかし、私はランス様の婚約者ですわ。私より優先する意味は何でしたの? 令嬢達に代わり彼女に苦言を言った私の行動が間違っていたのでしょうか」
会場内は、かつてユリアに婚約者とクリスティーナの関係について相談したおかげで今の婚約者との関係があったと今更ながら思う。
「ユリア……お前は私の愛がクリスティーナに移り、嫉妬にかられ何度も苦言を言い、クリスティーナは苦しんでいたと泣いていて……」
「嫉妬? 婚約者が自分以外の女性と仲睦まじくしている所を静観するのが婚約者の勤めだと言うのですか? それなら、令嬢達が私に相談する事も間違いでしたわね」
ニコリとランスに笑顔を向けると顔を赤く染める。その隣に顔を歪めるクリスティーナが見える。
「ユリア様、私の何がいけなかったの。ランスは私を守ってくれていたのよ」
泣きながら訴えるもユリアは気にしない。
「わからないのね。まあ、平民出身とはそういうものなのね」
ユリアはくるりと方向を変え1人の騎士の元に向かうのだった。
「ユリア様?」
ユリアが何をしようとしているのかわからない騎士。
「さて、騎士団長様。彼らが学園でしていたのはですね」
声を掛けたのは騎士団長である。騎士団長の息子はランスの側近候補である。ユリアはニコリと笑いかけ、行動にうつす。
「うわっ、何をする」
ユリアは騎士団長の腕に絡まり身体を寄せる。周囲の視線を気にせず騎士団長に微笑むユリアであった。
「ユリア様。離れて下さい。私には妻がいるんだ」
グイグイとユリアを押し返す。そこに参入するのは騎士団長の妻である。騎士団長は息子の保護者として夫婦で夜会に参加していた。
「ユリア様、冗談が過ぎます。私の夫ですよ」
反対側から夫人は騎士団長の腕を引く。そこにランスの側近であり騎士団長の息子がやってくる。
「おい、ユリア。父上から離れろ」
ユリアを力尽くで引き剥がそうとする騎士団長の息子を見てパッと離れるユリア。
「私の婚約者であるランス様とクリスティーナはいつもしてましたわ」
会場は静まり返る。
「私も婚約者がいますが許されるのですよね。皆様は婚約者にクリスティーナ様がこの様にしていた事で婚約者との関係が悪化したと訴えてましたのにね」
会場内のクラスメイトを見つめると令嬢らは視線を逸らすのだった。
「皆様は、ランス様とクリスティーナ様の場合は微笑ましく見つめ、応援してましたわよね。私とランス様が会わないように口裏を合わせ、『真実の愛』の逢瀬の協力をしてましたわ。おかしいと思いませんか?」
令嬢らは両親からの厳しい視線を受け必死に誤魔化してる。
「まぁ。今更どうでも良くてよ」
ユリアはそう言うと会場内の男性達を見渡す。その視線はいつもの冷静沈着な落ち着いた表情ではなく、まるで獲物を見定める女豹である。目が合う男性はゴクリと唾を飲む。
再びユリアは騎士団長を見つめ、髪に触れ頬を撫でる。
「やはり。騎士団長様が素敵ですわ」
そこに再び夫人の声。
「ユリア様。いいかげんにしてください。私の夫です」
ユリアは夫人を見つめ言う。
「ランス様とクリスティーナ様は学園で同じ事をしてましたわ。最初はこんな感じでしたわ。いずれ『真実の愛』になるやもしれませんわね」
騎士団長はジッとユリアを見つめる。
ドシンッ。
会場内に響く音はユリアが尻餅を着いた音だ。そこには顔を赤くし怒る騎士団長の息子がいた。
「ユリア、父上に触るな。母が悲しむだろ。お前は黙って婚約解消を受け入れればいいんだ」
息を切らしユリアを攻め立てる息子を見て父である騎士団長は息子を殴るのだった。
「父上……?」
「バカもん。お前が怒っているのは何故だ」
「父上は母上の夫だ。嫌に決まっているだろ」
「ユリア様だって嫌だろ、婚約者の不貞を見てきたのだ。この婚約は王命だ。ユリア様から解消など言える訳がないだろ」
「しかし、ランスとクリスティーナは……」
ゴニョゴニョと真実の愛だと言う息子に向かい騎士団長は怒る。
「何が違う。ユリア様にとっては不貞だぞ。私達は育て方を間違えた様だな。帰るぞ、その前にユリア様に謝罪しろ」
「嫌だ……俺は悪くない」
そこにドレスを直し近づくユリア。
「痛いですわ。私はこの様な2人の姿を見ても我慢したのよ。ずっと……誰も助けてくれなかったわ。殿下の側近であるはずの貴方は2人に協力し逢瀬の時間をもたせてましたわ。何故、浮気する2人を見せられていたのですか? それなのに騎士団長に近いた私を怒るのは何故?」
夫人の手は震えていた。そして、ユリアを見る。
「ユリア様……すみません。息子が申し訳ありません。息子は貴方を傷付けた……本当にすみません」
ユリアは夫人を見つめる。そこには妻を気遣う騎士団長と夫人達がいる。
そして、夫人らはユリアがポロポロと涙す姿に驚く。
「羨ましいですわ。貴方には側に寄り添い、手を差し伸べる方々がいますのね。騎士団長様、奥様すみませんでした」
会場内は静まり返る。
「夫人……何故、私はこの様な大勢のいる場で婚約解消を告げられるのですか? 10歳から王妃教育を受けていたのです。殿下と共によい国にしようと思い努力し、クリスティーナ様と自分の婚約者の距離が近いと相談してきた令嬢達の為にクリスティーナ様には行動を改めるように言っただけ」
ユリアは、王妃教育と殿下を支えてきた8年間の意味は何か。自分よりクリスティーナを優先するランスの行動への不安と嫉妬をするのは間違いなのかと問う。
夫人は深呼吸し、ユリアの手を取り伝える。
「ユリア様……すみません。貴方の気持ちや行動は間違いではありません。間違えているのは殿下の側近である息子が不貞の協力をしていた事と婚約者を蔑ろにし婚約を解消もせずに不貞を冒す2人を応援していたクラスメイト達です。1番は……」
チラリと壇上の2人を見て、夫人は再びユリアに頭を下げたのだった。それを見てクラスメイトの両親も同じく頭を下げたのだった。
「私だって愛されたかった。男女の愛ではなくても家族……そして同じ道を目指す同士として共に歩みたかったの。夫人に不快な思いをさせてすみませんでした。しかし、私は2人を応援していたクラスメイト達を許す気にはなれませんので、ご了承ください」
顔色の悪い夫人を夫である騎士団長は会場の壁際へと連れ出すのだった。
「倒れたいのも泣きたいのも私ですわ」
ポツリと溢した言葉にその場にいた大人達は、ユリアの未来を想像する。王妃教育を終え結婚する直前の令嬢の婚約解消……つまり彼女の次の嫁ぎ先である。王族の事を知るユリアは他国や自国の貴族にも嫁ぐことは出来ない。王家を知りすぎた女性の末路は年老いた王族の後妻か幽閉……最悪は毒杯。
参加した卒業生の両親はユリアが不憫に思えた。しかもその最悪の結果に子供が協力していたのなら尚更である。
壇上のランスとクリスティーナは悲劇のヒロインと守るヒーロー気分なのであろう。ランスは、立ち尽くすユリアを見て得意気な表情を浮かべる。ユリアは昔から優秀であった。クリスティーナは勉学の方はイマイチであった。何処にも嫁ぎ先がないと分かれば、ユリアが泣いて縋れば、クリスティーナを側に置く事の許可をとり、ユリアとは結婚し公務だけをさせようと思っていたのだった。
「ユリア、お前が謝るならば許してやろう。その代わりクリスティーナを側に置く」
大声で冷たくユリアに言い渡すのであった。
「そうですか……このままランス様の妻となり、クリスティーナ様を側に置くのですね。私は何の為にランス様と結婚するのですか?」
「お前は、公務をしていればいい。このままでは、お前はキズモノだ。貰い手もないだろう。優しいクリスティーナが側妃で良いと言っている」
「そうですよ。私はどのような形でもランスの側にいられればいいの」
グズグズと泣き出すクリスティーナを慰めるランス。
「幸せな2人と未来ある方達の前に私は不要です」
「このままでは、お前は年老いた王族の後妻だぞ」
「……ランス様、私の事を今更気に掛けてどうするのですか? クリスティーナ様とは一年前からの関係ですよね。半年前から私は王族として裏の事を学び始めました。その時、国王様に婚姻の意志があるのかを問われましたわよね。貴方は最初からこの様な事を考えていたのですか?」
「…………」何も言わないランス。
「あら、私が謝り婚約を継続してほしいと泣いて縋る場面を皆に見せたかったのですか? 皆様、趣味が悪い」
ユリアはランスに頭を下げると会場の出口へと向かう。その姿は婚約者に愛されない惨めな令嬢ではなかった。
歩きながらかつてのクラスメイト達を眺める。助けを求めた彼女らは婚約者と幸せに暮らしていく。自分だけが無駄な時間を過ごしたと思いながらも、自分には関係ない事だと割り切る事にした。
その時、夜会会場の入り口のドアが勢いよく開くのだった。
「ユリア……すまない。色々とやる事があり遅くなった。いや、殿下にくだらない要件を頼まれ会場入りを阻止されていた」
扉を開けユリアへと声を掛ける1人の男性はクラスメイトのジャスティンである。
「ん? おかしな雰囲気だが、ユリア……何があったの……泣いたのか?」
「ジャスティン……ランス様に婚約解消を告げられたの。彼は私に謝罪を求めたわ。私とは結婚してやる代わりにクリスティーナ様を側に置きたいみたい。バカバカしいから……出て行く事にしたの」
ジャスティンは、悲しそうな顔をし、目元を腫らすユリアを見て、抱きしめるのだった。その姿に会場は騒めく。
ユリアを抱きしめるジャスティンは壇上のランスとクリスティーナを睨みつける。
「殿下……いやランス。私の到着を遅らせている間にユリアに何をしたのだ? お前らは学園でも堂々と浮気していた。そして、皆も真実の愛を邪魔する悪女だとユリアを虐げていた。まさか、この場でもユリアを悪者にしていたのですか?」
ユリアは、ジャスティンのスーツの袖を掴み、自分に注意を向かせる。
ユリアはジャスティンに先程までの経緯を伝える。
「ジャスティン……いつもの事だから平気よ。でもね……私は卒業記念の夜会だったのに、騎士団長夫婦を巻き込んでカオスな状況にしてしまったわ。きっと両親にも苦情がはいるわ」
ジャスティンと呼ばれる男はユリアらとも同級生だ。王弟の息子でランスとは従兄弟である。引き締まった体型に涼しげなアイスブルーの瞳は鋭いが令嬢からも人気である。また、生徒会のメンバーでもあった事から、ジャスティンは何度もランスとクリスティーナの行動に苦言を言い続けてくれた。ユリアにとっては、唯一の味方だった。
そのジャスティンはユリアを抱きしめ、いつもの鋭い目元は慈しむようにユリアを見つめていた。
「そうか。それなら、私も一緒に君の両親に叱られるとしよう。でもユリア、私の見ていない間に団長の腕に絡みつくのは良くない。団長の息子が1番ユリアに嫌がらせをしていただろう。息子は不貞に寛大なようだから両親も同じかもしれないだろう? 騎士団長が若く美しいユリアに惹かれたら私が困るから2度としないと約束してくれ」
近くにいた団長夫婦には聞こえていたのだろう。一層顔色を悪くする夫人がユリアには見えた。
「大丈夫よ。私を虐める人の父親に恋心を抱く程バカじゃない」
「息子のしていた事が親の元に返ってきた事だから不問にしてくれるだろうが、ユリアは少しやりすぎだよ」
尻餅の際に乱れた髪を優しく直すジャスティンに向かい伝える。
「ごめんなさい。とても恥ずかしかったわ」
へにゃりと笑い謝るユリアを腕の中に囲うのだった。
「おい、何があった」
そこに登場したのはジャスティンの両親と国王夫婦である。
目の前のジャスティンに抱きしめられるユリアと、壇上で令嬢を抱き寄せるランス王子の姿を見る2組の夫婦と国王に頭を下げ妻を支え退場する騎士団長、そして異様な空気と化す会場を見渡す。
「何だ、この雰囲気は……一体何があったのだ」
近くにいた、顔色の悪い護衛騎士を手招きし状況を説明させ、頭を抱える国王であった。そして共に状況を聞いたジャスティンの父親は王弟であった。
ジャスティンは父親らの元に行き頭を下げる。
「国王様、父上。私は本日限りで殿下の側近を辞めます。父上、責任を取りますので除籍を命じてください」
「おい……ジャスティン落ちつけ」
「父上……そして母上。私は、ユリアと共に生きて行きたい。その為に文官の試験も宰相の息子ではなく、個人の実力で合格した。平民となってもユリアを養っていける……と言いたい所ですが……私も王族です。私もユリアと同じ対応を願いたい」
そこで声を上げるのはランス殿下である。2人の元に駆け寄り尋ねる。その後をクリスティーナも付いていく。
「ジャスティンとユリア。婚約者の私に隠れ、お前らは浮気していたのか?」
「そうよ。私達は『真実の愛』よ。ユリア様だって浮気していたじゃない」
クリスティーナもここぞとばかりに話し始める。
ユリアはジャスティンを見つめ微笑んだ後にランスとクリスティーナを見て伝える。
「ランス様、浮気はしてませんわ。お2人が『真実の愛』ならば、私とジャスティンは……そうね『堅実な愛』かしらね」
その言葉を聞いてジャスティンは驚く。
「それは、私の事を……」
ユリアは驚くジャスティンを見つめ頷く。そして王妃を見つめて伝える。ランスとクリスティーナは、生徒会の仕事をジャスティンと生徒会のメンバーではない自分に押し付け逢瀬を重ねていた事と、試験の予想問題を作れと言われ、課題をやらされる日々。王城での王妃教育は自分の糧となる事ばかりだったが、心も身体も限界であった事を伝え、期待に応えられなかった事を謝罪した。
ランスを睨みつける王妃。
「いや……お前……それは私の婚約者だから」
焦るランスは言葉に詰まる。それに対して冷めた視線を向けるユリア。
「『真実の愛』だから浮気を許せと言うのですか? 私は保護者ではなくてよ。堂々と浮気するランス様は私に何をしてくれましたか? ジャスティンは、辛い時に支えてくれたのよ。恋に落ちてもいいじゃない。貴方は彼女の優しく、自分に向ける笑顔に惹かれたのでしょ。私は、誠実で冷静に判断し支える彼に惹かれたわ」
落ち着きのないランスとクリスティーナ、その隣には平民となる覚悟を決め将来を見据えて行動していたユリアとジャスティンの姿があった。
国王は静かに話す。
「ランス。何を考えていたのだ? どこに婚約者の浮気を許す女性がいるのだ? そちらの令嬢は自分がユリアより相応しいと自信を持って言える事があるのか?」
「国王様、私は彼を支えて……ユリア様では彼を癒せないから」
国王は溜め息をつく。
「ランス、彼女には王族としてのマナーや学力はあるのか? 国を代表し、各国を訪れて堂々としていられるのか? 妻にする気があるなら他にする事があるだろう。1人の女性を大切にできない者が国民を大切に出来るはずがないだろう」
「それは……これからクリスティーナに学んでもらう」
その言葉に驚くクリスティーナ。クリスティーナとしてはランスの側で愛されるだけの妻となりたかったのだ。
ランスは、ジャスティンが昔からユリアの事を目で追っていたのを知っていた。ジャスティンが望んでも唯一手に入らないユリアを自分が手にしている優越感に浸っていたのだった。しかし、現実はクリスティーナとの逢瀬の間にユリアとジャスティンもまた互いに信頼を寄せ合っていた事を知る。
「それならば、2年やるから王族として相応しい令嬢にしろ。出来ないなら……彼女に相応しい身分となれ。『真実の愛』なら問題ないだろう。それに、お前は既にユリアの婚約者ではない。半年前に婚約を白紙にしジャスティンと婚約してもらったのだよ」
国王は参加している卒業生徒に伝える。
「皆の学園生活は、一部を除き随分と楽しかったようだな。卒業後は厳しい現実が待っている。今回の騒動は他の貴族や就職先の上司らの耳にも入るだろうから心してかかれ。卒業おめでとう。私からは以上だ」
「父上」
「ほら、お前主催なのだろ。『真実の愛』と応援していた者らで楽しめ。さて、ユリアには、すまない事をした。君の両親に合わせる顔がない……それ以上に嬉しそうなコイツが憎らしく思う」
国王は、隣で嬉しそうにしている王弟夫婦と寂しそうな王妃の姿にため息をつくのだった。
「まぁ、国王様。優秀な令嬢が王族を支える一員となるのに変わりはないのだ。ユリア、息子を頼む。我儘を言わない息子の初めての我儘だ。しかし、喜ばしい我儘だったぞ。ジャスティン、殿下に代わりユリアを支え大切にしろ」
その言葉にジャスティンは驚く。
「父上……除籍に」
「するわけないだろう。卒業後は私の元で働いて辺境でも使える様にしてやるから、覚悟しろ」
「はい……よろしくお願いします」
ジャスティンは父に頭を下げる。そしてユリアを見つめる。
「ユリア、これからは堂々と街歩きもできます。貴方を守ります。悲しませる事はしません。だから私の側で笑顔でいてくれませんか?」
「ジャスティン、私で良ければ」
「君しかいらないよ」
手を取り合う2人は微笑む。
その時、会場内に低く地響きのような声が響く。
「おい、ジャスティン。娘から離れろ」
「…………あ、お義父さん」
「まだ、お、お前のお義父さんになった覚えはない。ユリア、卒業おめでとう。到着が遅くなってすまないな」
優しく頭を撫でるユリアの父親の元に向かい、ジャスティンは伝える。
「あの……ユリア嬢と正式に……結婚を見据えた付き合いをしたいと思ってます。父の元で学び辺境へと向かいますので」
ユリアの父である辺境伯は考える。
「もしユリアを悲しませたらタダじゃおかない。ユリアよ、2年やるから王都でやり残す事のない様にな」
「パパ?」
「離れていたら、浮気されるかもしれないだろ」
「私は……ランスとは違いますよ」
その後、ランスはクリスティーナに王妃教育を受けさせるも上手くいかず、期限の2年を前に諦めたのだった。理由は、クリスティーナは厳しい王妃教育に耐えきれず、王城に出入りする商人と駆け落ちしたのだった。そしてランスは隣国の王女の元に婿入りする事となった。
「ユリア……すまなかったな」
「ランス様、お元気で」
「ユリアは、前からジャスティンの事を?」
「貴方の為に頑張ってきたの……でも貴方は私を1人の女性として見ていなかったわ」
「お前はジャスティンの事が……いや、もう終わった事だな」
ランスを乗せた馬車は王都を去る。馬車が見えなくなるまで見送るユリアとジャスティン。
「ユリア……やはりランスの事が?」
「ん? 初恋は貴方よ。あの時、貴方との婚約は叶わなかったわ。ランス様は……そうね。出来の悪い弟……かしらね」
「そうか、それならいい。私の初恋もユリアだ、遠回りしたがやっと手に入れた」
2人は手を繋いで歩きだす。
「ジャスティン、あのね。もうすぐ貴方はパパとなるわ」
「……本当か」
「えぇ、でも私達はまだ婚約者なのよ。パパに怒られるわよ」
「……一緒に怒られてくれるか?」
「勿論よ」
「ユリア。結婚しよう、大切にすることを誓う」
「はい、喜んで」
王都には優しく春の心地よい風が吹く。
数年後、辺境へと来たユリアとジャスティンは仲睦まじく暮らしていくのだった。
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