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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

遺書

作者: 曲春
掲載日:2026/01/17

血の繋がりのない弟に好意を向けられる玲。

だが彼は教師として、兄としてその好意に応えることはできなかった。

だから彼は逃げることを選んだ。

私は今から自害しようと思っている。


この日のために頑丈な縄を用意した。

この日のために家族も恋人も…全員の連絡先を切った。

この日のために1人で森に来た。


それもこれも私が弟のように思っていた彼を愛してしまったためである。


彼と出会ったのは私が小学4年生の頃。母と仲が良かった隣人が出産をし、是非息子にあってほしいという連絡を受けてお祝いの品を持って家にお邪魔した時の事だ。

リビングには柔らかそうなクッションの上に寝かせられた自分よりも小さな生き物がいた。それはくしゃりと顔を歪ませて大きな声で泣いた。そのときに、私は幼いながらもこの小さな生き物を守らねばと使命感にかられた。

母と一緒に隣人の育児を手伝う中で、この子はスクスクと成長し、いつしか私たちは兄弟のように共に育った。

彼は「玲兄、玲兄」と私の後をついてまわった。

成長したあともそれは変わらず、むしろ悪化した。何処に出かけるにも彼は付いてきた。そして私に似合う服や小物を買い与えてきた。「一人暮らし祝い」「仕事頑張ってるからご褒美」などと取ってつけたような理由をつけて私に貢いできた。

一人暮らしの家にはいつの間にか彼の私物がチラホラ増えてきていた。

パジャマ、部屋着、寝具、歯ブラシ、洗顔、箸、茶碗、コップ。

高校生で親の言いつけも緩くなった彼は夜遅くまで私の家で過ごしては「帰るのめんどくさい」と泊まることが多かった。

それでさえ彼はサボり癖が目立った。

私は養護教員として、彼は生徒として同じ学校で過ごしているが、気づけば彼は保健室のベッドで寝ていた。授業には度々出席はしているようだが、真面目に授業を受けている印象はない。だが、なぜか成績だけはいつも一番だった。

「玲ー、今日も泊まっていいー?」と保健室のベッドの上から話しかけてる彼は制服のシャツのボタンを上まで閉めず、ネクタイはしてくる気配がなかった。「昨日も一昨日も泊まったでしょ」と断っても「じゃあ今日泊まっても変わらないね」と屁理屈。


彼はとてもモテた。成績が優秀だからという理由もある。だが、それ以前に顔がいい。ストレートな髪に少しピンクがかったブラウンの髪。そして甘いフェイス。さらにはスパダリな性格。モテないはずがない。

そんな彼は誰の告白にもなびかず、ずっと私に好きだと伝えてくる。

「玲、いつになったら振り向いてくれるの?」

「振り向かないよ」

「なんで?」

「なんでも」

この会話も何回目か分からない。

何度断っても彼は諦めずに伝えてくる。

「玲しか見ない」

「玲さえいればそれでいい」

「玲からの愛がほしい」

「玲の一番になりたい」

と言い方を変えて何度も口説いてくる。

それでも私は彼を“好きじゃない”と自分に言い聞かせながら断っていた。

もし好きになればこの夢だった教員生活もおわる。

双方の親からの信頼も失う。そして何より、これから続く彼の人生の負い目になってしまう。

だから私はずっと断り続けていた。


でも。

でもある日。

初めて彼が自分以外の人と出かけているところを見てしまった。


楽しそうに笑いながら歩いている。女の子の荷物を持って、車道側を歩いて。時折、彼女のほうに耳を傾けて話を聞いていた。

その表情があまりにも幸せそうで。

願ったり叶ったりなはずなのに、。

その顔は自分だけに見せてほしかったなんて。

そんな醜い感情が顔に出ていたのだろう。

数多の人の中から私を見つけた彼はひどく驚いた顔をしていた。そして焦って、彼女になにか断りを入れて、こちらに向かって走ってきた。


嫌、来ないで


私は迫ってくる彼から逃げるように走った。わざと人混みのなかに紛れ、いつもは通らない道を通り、家に帰った。

家に帰っても電気はつけず、でも鍵はかけて。スマホは電源を切って。まるで家には帰ってきていないように見せかけた。

外の廊下で足音が響く。

息が荒い。ドアノブに手をかける音。良かった、今日はスペアキーは持ってないようで開けてこない。外からクソっ、…という声が聞こえた。そして次第に遠のく足音。

音が聞こえなくなった瞬間、初めて息をした。

心臓はバクバクと、今にでも体のうちから飛び出してきそうなほど高鳴っている。そして改めて自覚した。

私は彼のことを好きだと。

でもそれは許されないことだと。


街で見かけた彼と彼女はそこら辺にいる幸せそうなカップルそのものだった。

それが彼のあるべき姿だと思った。

こんな歳上よりも同年代の、柔らかくていい匂いのする女の子のほうが彼にはお似合いだ。頬を伝う涙は次第に量を増した。

自分が彼の隣りに相応しくないと分かった以上、こうしては居られない。すぐに離れなければ。


翌日、目の腫れを抑え、学校に向かった。

いの一番に、教室ではなく保健室にきた彼は息を切らしながら昨日のことを説明しだした。あれは友人の彼女で、彼氏の誕生日プレゼントを一緒に選んでいただけだ。彼女ではない。誤解をさせたと必死に話してくれた。


だから私は「もういいよ、分かってるから気にしないで」


呆気にとられた彼をよそに、私は彼を授業へ送り出し、仕事を進めた。


そして久しぶりに実家へと帰り、少しでも親孝行をした。

隣人へも挨拶へいき、昔馴染みとも遊びに行った。

そして一人ずつ連絡先を消した。アパートも解約した。職場も退職した。

これで準備はできた。

何度も家に来た彼はいつの間にか変わった家の鍵に驚いていた。

理由を何度も尋ねられた。そのたびに適当な理由を言った。

何も言っても納得しないのは知っていたから。


そして今日、私は1人で死ぬことを選んだ。

彼の人生の重荷にならないように。

彼の人生の邪魔にならないように。

彼の人生が少しでも真っ直ぐ進むように。

彼が私以外を好きになれるように。

できる限り、私という存在を消してきた。実家のアルバムも、隣人のアルバムも。

思い出の品も。2人で過ごしたアパートの思い出も。すべて消してきた。

だから

もう

安心してしあわせになっていいんだよ


ごめんね、好きにさせちゃって

ありがとう、愛してくれて。


少し悲しい2人の話を少しづつ更新しようと思います

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