三 少女
少女と呼ぶのがふさわしい感じのかわいらしい顔と純真無垢な瞳がこちらを見つめる。
「あなた、見たことない人ですね。何歳ですか?」
あ、最初に聞かれるの年齢なんだ...。
「高三の十八です。最近、というか昨日引っ越してきたんで。」
「高三で引っ越しですか、大変ですね...。というか、同い年ですね!」
「えっ」
思わず驚きを声に出してしまう。
正直年下だと思っていた。
立ってるところ見てないけど背も多分ちっちゃいし。
「じゃあ、明後日から同級生かもですね?このあたりに高校は一つだけですし。」
「せっかくですし同じクラスになれると良いですね。全く知らない人だらけよりも少しでも知ってる人がいた方が安心ですから。」
まぁこの少女について何か知っているというわけではないのだが。
しかし少女の方を見れば少し気まずそうに俯いている。
何か気に触る話題だったか?
疑問には思いつつも別の気まずさに耐えられず別の話題に移る。
「あなたはよくここに来るんですか?」
少女は空を見上げて微笑み、「えぇ。幼い頃から、ずっと。」と言ってこちらを見る。
「でも、ずっと私一人だったんです。静かに星空を眺めるのも良いですけど、こういう風に誰かと話しながらって言うのも良いですね。」
そう言って上を見上げる少女の顔には、哀愁が漂っているように見えて。
なんとなく無言になって、俺も星空を眺めていた。
その星空は、ここに来るときに見た星空よりも美しく澄んで見えた。
まるで、俺たち二人の出会いを祝福するかのように。
しばらくの間、そうして星空を眺めていた。
このまま朝が来てしまったら良いのに。
ここで見る日の出もきっと綺麗なんだろうな。
彼女とは初対面のはずなのに、何故かそう思えた。
しかしそんな心地よい時間もつかの間、 「そろそろ家に帰らなくては。あなたもご家族が心配しているのではないですか?」という少女に現実に引き戻される。
確かに、しばらく歩いた上にここに長いこととどまってしまった。
かなり遅い時間になっているかもしれない。
急いで出てきたせいで時計を持っていないから正確な時間は分からないが、まぁおそらく家に着く頃には日付は変わるだろう。
...やっべ。
普通に親父に心配かけてるわ多分。
ただこのままこの少女とお別れというのも少し名残惜しく、「ここには毎日来てるの?」と尋ねる。
少女は少し躊躇いを見せるかのように俯き、「ここは、家みたいなものですから。」とだけ答えて「では、また機会があれば会いましょう。私は毎日、ここにいますから。」と言ってこちらに手を振り、山道をゆったりと下っていった。
さて、俺も帰らなければ。
後を追うように山道を下り、少し急ぎ足で自宅へと向かう。
自宅まではそこそこ近く、体感20分程度で家に着く。
果たして今は何時だろうか。
親父に心配をかけるような時間じゃないと良いが。
玄関の扉を開ける。
親父が玄関に仁王立ちしている。
そっと扉を閉める。
見間違いであることを信じて目を擦り、頭を振り、頬をつねって再度扉を開ける。
親父が玄関に仁王立ちしている。
...。
まず無言で玄関に入り扉を閉め鍵を閉める。
そして親父の方に向き直る。
無言の時間。
...。
「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」
沈黙に耐えきれずそう叫んで土下座する。
親父は少し声を震わせて「馬鹿野郎」と怒鳴り、俺に顔を上げさせる。
「お前、少しは親のことを考えろ。嫁と父母を亡くしてすぐなんだぞ?息子まで失ったのかと思わせるんじゃない。」
そう言い終わるか終わらないかのところで親父が泣き出す。
確かにその通りだ。
だが何て声をかけて良いのかも分からず玄関で泣く親父を目の前にただ呆然と突っ立つ。
少し経って落ち着いた親父は、「お前、どこ行ってたんだ?」と尋ねる。
...どこっていえばいいんだ?あの丘。
「...星が見える丘?」
自分でも疑問形でしか答えられない。
だが親父はため息をついて、「あぁ、じいちゃんと同じか...。」と頭に手を当てる。
「そういうことならもう心配はしない。ただ、絶対に帰ってこい。そしてちゃんと寝ろ。それだけ約束してくれるなら星を見に夜外出するのは許す。今日はもう寝なさい。」と言って親父は二階に上がっていった。
少し困惑はしたが、そう言ってくれるならそれに越したことはないので今後はお言葉に甘えることにしよう。
二階の自室に戻り、なんとなく窓の外を見る。
見えるのは当然ながら真っ暗な空だけ。
あの丘で見た星空と同じ空を見ているはずなのに、と不思議になる。
街灯が照らしているから、が実際の回答だがあの少女がここにいたらここでも星空を見れたりするのかな、なんて考えてしまう。
...こんなこと考えるなんて、寝不足かな。
今日はもう寝よう。




