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二 出会い

 一階に降りると、親父が1つの段ボールを前にして待っていた。

 「これが最後の荷物だ。せっかくだしラストは二人でやろう。引っ越しが終わったのを感じるためにな。」

 ...これが粋な計らいというやつと認識して問題ないだろうか。

 「じゃあ、せっかくだし俺が開けていい?」

 親父に許可を取り最後の段ボールを開ける。

 その中から出てきたものは梱包材に包まれていた。

 親父が「おぉ、これがラストか」と感慨深そうに言っているのを耳だけで聞きながら梱包材を剥がす。

 姿を現したのはステンドグラス。

 生前の母の趣味だったものだ。

 「持ってこれたんだ。」

 とは言っても俺は特に興味を持っていなかったせいでこのステンドグラスには母の面影を感じることはないのだが。

 ステンドグラスを見る俺の横ですすり泣きの声が聞こえるので余計なことは言わない。

 無言のままステンドグラスを開封していくと、1つのステンドグラスで手が止まる。

 青地に黄色の斑点、奇しくも星空を想起させるものだった。

 これを見た俺は、思わず「親父、これ貰っていい?」と尋ねた。

 懐かしさと悲しみに覆われている親父は解釈がそっち方向に偏っているのか更に顔をくしゃくしゃにして「あぁ、良いぞ」と俺の頭をなでてくれた。

 なんかすごく申し訳ない。

 俺がこれが欲しくなったのはただ星空に似ていただけだからなのに。


 親父は一旦そっとしておくことにして、俺は二階の自室に戻る。

 まだ自室という感覚は無いが、これから俺の私物が増えていくことで慣れていくだろう。

 その第一歩として、カーテンを開けてステンドグラスを窓に吊すことにするか。

 手のひらサイズである以上教会とかみたいに窓に成り代わることは出来ないが、そんなことしたら近所から悪目立ちするだろうしそうする気も無い。

 窓にステンドグラスを吊そうと夜に初めてカーテンを開ける。

 下を見下ろせば窓越しに広がる閑静な住宅街。

 上を見上げれば...漆黒の闇。

 まぁ当然と言えば当然だ。

 窓を開ければ何か道具を使えば届きそうなくらいすぐ横に街灯がある。

 というか普通に設計ミスだろこれ。

 街灯と窓が近すぎる。

 カーテンの遮光性能が高くなければ眩しくて寝られないところだった。

 そんなことを思いながら吊す前に夜空にステンドグラスをかざす。

 横からの明かりでステンドグラスが輝き、まるで自分の手のひらの中に星空が広がっているかのように錯覚させられる。

 そう感じてしまったらいても経ってもいられなくなった。

 ステンドグラスを机の上にそっと置き、一応窓をしっかり施錠してから一階に駆け下り「ちょっと出かけてくる!」と声を上げて親父の返事も聞かず外に飛び出す。

 この町で星空が見える場所を探そう。

 遅い時間になる前に帰らないとな。

 そうは思いつつもはやる気持ちを抑えられず夜の街に駆け出した。


 街を走ってしばらく経つ。

 だが一向に星空が見える気配は無い。

 何故かって?

 ここがバカみたいに田舎な場所にあるくせに普通に市街地だし明るいからだよ!

 安全で素晴らしいなおい!

 少し疲れてきたし落ち着いてきたので一旦立ち止まり辺りを見回す。

 見渡す限り明るく閑静な市街地。

 ってかこの街広くないか?

 それは良いとして、よく考えれば街の中心方向に向かったら街が続くのは当たり前だ。

 こんなことにも気がつかないほど冷静じゃなかったのか。

 だが冷静になった今、一度街の中心部に背を向け街の隅の方に向かって歩き始める。

 そして街の隅についたところで家とは逆方向に歩き始める。

 こうすればもし見つけた場所までの道が分からなくてもとりあえず街の隅に出て言えと逆に歩けばたどり着くようになるし比較的道を覚えられない俺でも安心だ。

 まぁそちらに展望スポットがあるかどうかなんて運次第なのだが。

 そんなことを考えながら、良い感じの場所が見つかることを祈りつつ辺りを見回しながらのんびり歩く。

 更にしばらくすると、この道の続く先が漆黒の闇に飲まれていることに気がつく。

 よく見ると空にまでその闇は少し浸食しているように感じられる。

 小高い丘、とかだろうか?

 あそこなら星空を見ることが出来るかもしれない。

 期待が胸を覆う。

 少し足早になりながらその闇に向かって歩いた。

 程なくしてその麓にたどり着いた。

 道は少し上に曲がりくねりながら上っていっている。

 その道を上っていく途中で何か看板が書いてあるようだが暗くてよく見えなかった。

 鬱蒼と木々の茂る森の中を上っていくと、すぐに視界が開けた。

 やはりここは小高い丘だったようだ。

 頂上付近らしいここは平坦にならされており、ベンチがいくつか置かれていた。

 ただ俺はろくすっぽそっちに目をくれることなく空を見上げた。

 そこで俺の目に映ったのは、昨夜俺を魅了した満天の星空そのものだった。

 丘を登る道を上りきってすぐの場所で立ち尽くすように上を見上げる俺。

 端から見れば不審者と大差無かっただろう。

 しかし、そんな俺の耳にか細く「あ、あの...」という声が聞こえた。

 ビクッとして辺りを見回してみれば、一番遠いベンチの方に座る人影が見える。

 ここにいるってことはこの人も星を見に来てるのだろうか?

 だったら色々教えて貰えるかもしれない。

 そう思って「はい、なんですか?」と返事して駆け寄る。

 よく考えたら初対面どころじゃない、赤の他人にそんな返事をして駆け寄るのは頭がおかしいかコミュ力お化けかの2択だろう。

 ...コミュ力お化けが頭おかしいって言ってるんじゃないぞ。

 俺がただコミュ力が無いだけだ。

 まぁ、近くに行ってから挨拶するのでいいか、と思いながら隣のベンチくらいで立ち止まり改めて声の聞こえてきた方を見る。

 そこに座っていたのは...お化け?

 いや違うんだろうけど。

 白っぽいワンピースに色白な肌、長い黒髪に華奢な体つき。

 そして日も出ていないのに被ってる黒いキャップ。

 ...見た目から人柄がつかめないな、キャップが全てを破壊してる。

 見た目で人を判断するのは良くないけども。

 「あの、私はここによく来るんですけど。他に人が来てるのを見たことがなかったので、それで声をかけてしまいました。あなたはここに何をしに来たんですか?」

 そう声をかけられる。

 顔は帽子のつばのせいでよく見えないが、声を聞けば分かる。

 絶対この子かわいい。

 そう考えてしまったら勝手に緊張してしまう。

 「あっ、俺は、星を見に。」とだけ返し、居心地が悪くなって周囲を見回す。

 するとその子は「私もなんです。この街、明るいですもんね。ここくらいでしか星空なんて見られなくて。」と返してくれる。

 やっぱり星が見られる場所ってそうそう無いのか。

 偶然この場所を見つけられて本当に良かった。

 そう安堵していると、「良ければお隣どうですか?せっかくですからお喋りしませんか?」と声をかけられ心臓が跳ね上がる。

 「え、良いんですか?」

 釣られて俺も敬語になり、この子が少し反対側によってくれて空いたスペースに遠慮がちに座る。

 すると距離を詰められ、下からのぞき込むようにしながら帽子のつばを上げてこちらを見上げる。

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