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僕とばあちゃんと、僕の名前  作者: つなかん


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第三十三章「母・茉莉花の気づきと、ばあちゃんの笑顔」

畑からの帰り道、

僕と凛さんは並んで歩いた。


話す言葉はいつも通りなのに、

胸の奥の鼓動はさっきから落ち着かない。


風が吹くたび、

凛さんの髪が揺れて――


(……きれい)


そんな言葉が自然と浮かぶ自分に、

ちょっと驚いた。


集落が見えてきて、

母の家の屋根が見えると、

凛さんがぽつりと言った。


「今日……ありがとうございました。

 畑、すごく楽しかったです」


「僕も。

 凛さんと一緒に作業するん、なんか……よかった」


言い終えてから照れくさくなり、

視線を逸らした。


凛さんは少し驚いたように瞳を揺らした後、

ふわっと優しく笑った。


「……そう言ってもらえたら、嬉しいです」


心臓が跳ねた。


胸の奥が、

じんわりと温かくなる。



玄関の戸を開けると、

母――茉莉花がエプロン姿で顔を出した。


「おかえりー。

 あら、二人とも顔赤ない?」


「えっ!? べ、別に……」


「そ、そんな……!

 わ、私全然……!」


凛さんと僕が同時に慌てたせいか、

茉莉花は「ふぅん」と意味深く笑った。


「なにそれ。

 まあええわ、中入って。

 ばあちゃんも待ってるで」


胸がドキッとした。


(母さん……気づいてるんか……?)


凛さんも、

エプロン姿の茉莉花にぺこりと頭を下げた。


「ただいま戻りました」


「なんやのその丁寧さ。

 もううちは凛さんの家みたいなもんやで」


「え、ええっ……!?」


茉莉花は笑いながら台所へ戻った。



居間へ行くと、

ばあちゃんが座布団で待っていた。


「おかえり、大樹。

 凛さんも、ありがとな」


「こちらこそ……楽しかったです」


凛さんがにこっと笑うと、

ばあちゃんの皺の深い目尻が

さらに柔らかくなった。


「ほんま……

 あんたの笑顔、家が明るくなるわ」


その言葉に、

凛さんは照れたように頬を染めた。


僕の胸は、

その瞬間だけ少しきゅっと締めつけられた。


(……凛さんの笑顔、

 僕も好きや)


自然とそう思った。



畳の匂い、

ばあちゃんの煎餅を焼く音、

茉莉花が台所で味噌汁をかき回す音。


家の中に

人の気配と温度があって、

胸がすごく落ち着く。


(こんな時間……

 久しぶりやな)


凛さんは僕の隣に座り、

ばあちゃんの話を熱心に聞いている。


「あんた、えらい手際よかったって大樹言うとったで」


「えっ、わ、私そんな……!

 大樹さんが丁寧に教えてくれただけで……」


「ほぉ〜」


ばあちゃんがじろっと僕を見る。


「教え方、優しかったんやろ?」


「そ、そんなことないって」


耳が熱くなる。


凛さんも視線をそらしながら、

頬を赤くしていた。


茉莉花は二人のやりとりを見ながら、

うっすら笑っていた。


(やっぱり……

 母さん気づいとるんや)


その笑いは、

茶化すようでもあり、

どこか安心しているようでもあった。



ばあちゃんが

お茶をすする音だけが響く静かな時間。


ふいに、

茉莉花が言った。


「ねえ凛さん。

 あんた……

 大樹のこと、どう思ってる?」


「っ!!」


凛さんが椅子から転げ落ちそうになった。


(母さんーーーー!?)


僕も思わず咳き込んだ。


「な、な、な、なんで急にそんな……!」


茉莉花はケロッとしている。


「いやぁ、気になってなぁ〜。

 最近の大樹、

 えらい顔が柔らかいし。

 あんたとおる時、

 ほわぁ〜って笑うんよ」


「ちょ、母さん!!」


顔が熱い。

耳まで真っ赤や。


凛さんは両手をぶんぶん振りながら、


「えっ、えっと……

 あの、その……

 大樹さんは……

 すごく……優しい人で……」


そこまで言って、

言葉を飲み込んだ。


ばあちゃんが優しく笑う。


「凛さん。

 ゆっくりでええんよ。

 急がんでええ」


凛さんは深く息を吸って、

小さく頷いた。


「……ゆっくり、考えます」


その言葉は、

すごく丁寧で、

まっすぐで。


胸の奥に、

じんわり広がるものがあった。


(……好き、なんかな)


僕の心は

ゆっくりと、確かに揺れていた。


(第三十三章 了)


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