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僕とばあちゃんと、僕の名前  作者: つなかん


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第三十一章「ばあちゃんの願いと、凛さんの手」

朝の光が障子の隙間からのぞき、

部屋の中をほんのり照らしていた。


昨日の夜の余韻がまだ胸に残ったまま、

僕は居間に降りた。


ばあちゃんは座布団に座り、

湯飲みに口をつけていた。


「おはよう、大樹」


「おはよう、ばあちゃん。

 体調どう?」


「ぼちぼちや。

 昨日より楽やで」


その言葉に胸が少し軽くなった。


母――茉莉花は台所で朝食を作っていて、

味噌汁のいい匂いが部屋に満ちていた。


(……なんか久しぶりに“家”って感じするな)


そんなことを思いながら、

座布団に座る。


すると、

ばあちゃんが僕の顔をじっと見つめた。


その目は穏やかやのに、

奥に静かな強さがあった。


「大樹。

 昨日……父さんの手紙、読んだんやろ?」


僕は小さく頷いた。


「うん……母さんからも色々聞いた」


「そうか」


ばあちゃんは目を細めた。


「辛かったな」


その一言で、

胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


昨日の涙の記憶が、

また少し蘇る。


「……でも、読んでよかった。

 父さん……弱かったけど、

 僕のこと……愛してくれてた」


「当たり前や」


ばあちゃんははっきり言った。


「どんだけ弱い人でもな、

 愛することはできるんよ。

 それを受け止められるあんたは、

 ほんまにええ男になっとる」


胸が少し熱くなる。


そして――

ばあちゃんは、

湯飲みを置いて僕を見つめた。


「大樹。

 ここからは“ばあちゃんの願い”や」


心臓がどくっと鳴った。


(願い……?)


ばあちゃんは手を膝の上に置き、

小さく息を吸った。


「大樹……

 あんたには幸せになってほしい」


「……僕?」


「せや。

 お母さんやうちらのためやなくて……

 “あんた自身の幸せ”を選んでいってほしい」


父の手紙と同じ言葉。


重なるように響く。


ばあちゃんは続けた。


「人生はな、

 『誰かのために生きる』だけやないんよ。

 『誰かと一緒に生きる』ことも幸せなんや」


僕は息を飲んだ。


(……誰かと一緒に……)


頭の中に浮かんだのは――

昨夜、僕の肩にそっと触れてくれた

凛さんの手 だった。


ばあちゃんは僕の心を見透かすように微笑んだ。


「大樹……

 いい子、そばにおるやろ?」


「っ……!」


鼓動が跳ねた。


耳が熱くなる。


(ばあちゃん……気づいてたんや)


「ばあちゃんはな、

 あの子……ええ子やと思うで」


そのとき――

玄関で軽いノックの音がした。


コン、コン。


「……大樹さん?」


凛さんの声だ。


胸が一気に熱くなる。


ばあちゃんは笑いをこらえながら言った。


「ほらな?」


「ばあちゃん……!」


僕は立ち上がり、

玄関へ向かった。


扉を開けると――

凛さんが小さな籠を持って立っていた。


「おはようございます。

 これ……朝に焼いたパンなんですけど……

 食べられるかなと思って」


柔らかい笑顔。

少し赤い頬。

ほんのり温かい籠。


僕は胸の奥がきゅうっとなる。


「ありがとう、凛さん。

 めっちゃ嬉しい」


「よかった……」


ほっとしたように笑う凛さん。


その時だった。


凛さんが籠を渡す手を離そうとした瞬間――

僕の指が

凛さんの指先に触れた。


一瞬。


でも、

時間が止まったみたいに

その“触れた感覚”だけが胸に残った。


凛さんも気づいたようで、

すっと頬を赤くして視線を逸らした。


「あ……ごめんなさい、

 急に……」


「いや……僕が、

 あの……」


言葉がつまる。


変に意識してしまう。

でも、胸はあたたかかった。


凛さんは微笑みながら言った。


「大樹さん。

 今日も……一緒に過ごしましょうね」


その声が優しくて。

胸の奥で、ばあちゃんの言葉が重なる。


――“誰かと一緒に生きる”ことも幸せなんや。


僕はゆっくり頷いた。


「……うん。

 一緒に、過ごしたい」


その言葉は、

嘘のない“僕自身の言葉”だった。


(第三十一章 了)


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