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僕とばあちゃんと、僕の名前  作者: つなかん


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第二十七章「鍵の引き出しと、父の影」

夕方の部屋は、

窓からの光がだんだん薄れて、

影が長く伸び始めていた。


ばあちゃんは昼寝をしていて、

母は買い物へ。


家は静かだった。


(……今なら)


僕はゆっくり立ち上がり、

箪笥の前に立った。


古い木の匂い。

少し欠けた取っ手。

幼い頃からずっと見てきたはずなのに、

今日だけは違うものに見える。


中には、


じいちゃんのこと

母のこと

そして――父のこと


ばあちゃんが言った言葉が、

胸の奥で静かに重なった。


(開けるんか……俺が)


小さく息を吸う。


「僕の人生、僕のために生きなさい」


ばあちゃんの声が

ゆっくり、確かに響いた。


僕は鍵穴に指をのせた。


(開けるべきなんか……まだ早いんか)

(怖い……でも知りたい)

(俺、どうしたい……?)


心臓がどくんと大きく鳴る。


その時――


コン、コン。


玄関をノックする音がした。


驚いて振り返る。


「……誰?」


引き戸を開けると、

そこに立っていたのは――


凛さんだった。


「だ、大樹さん……!」


買い物袋を両手に抱え、

少しだけ息が上がっている。


「今日……様子見に来たんです……

 あれから、元気あるかなって……」


胸がきゅっと掴まれた。


(なんでこんなタイミングで……)


凛さんは僕の顔を見て、

すぐに気づいたように眉を寄せた。


「大樹さん……

 泣きそうな顔してます」


「……してへんよ」


反射的にそらした視線。


「大樹さん」


呼び方がいつもより深くて、

逃げ場がなくなる。


「どうしました?

 なんか……あったんですよね」


胸の奥の重さが、

一瞬だけ揺れた。


「ちょっと……

 大事なもん見ようとしてた」


「大事なもの?」


僕は迷った。


けど、

隠しても仕方ない。


凛さんには――

なぜか“隠したくない”と思った。


「……父さんのこと。

 書いてあるかもしれんもんが、

 そこに入ってるんよ」


凛さんの目が、

驚きと同時に、深い優しさを帯びた。


「だから……

 開けるの……怖かったんやね」


その一言で、

胸の奥がじわっと熱くなった。



凛さんはそっと靴を脱ぎ、

居間に入ってきた。


僕の隣に座り、

箪笥と鍵の引き出しを見つめる。


「開けたい気持ちがあるなら……

 大樹さんは、もう“進んでる”んですよ」


「進んでる……?」


「はい。

 本当に避けたいなら、ここにすら来てません」


胸の奥が静かにうずいた。


(……確かに)


鍵の前に立っている時点で、

僕はもう逃げていなかった。


凛さんは小さく笑い、

僕の方を向いた。


「……開けるの、怖いなら」


喉の奥で息を整えるように言った。


「私、ここにいます。

 結果がどんなものでも……

 ひとりで受け止めんでいいから」


その言葉が――

堰を切ったように胸に流れ込んできた。


僕は、

震える息を吐いた。


「……ありがとう、凛さん」


声が掠れた。


凛さんはゆっくり頷いた。


「一緒に……開けましょうか」


箪笥の前に二人で向き直る。


影が二人分重なる。


心臓が鳴っていた。

でも、

さっきより少しだけ強くなっていた。


僕は引き出しの取っ手に手をかけた。


「……開けるで」


凛さんはそっと答えた。


「はい」


僕は――

ゆっくり引き出しを開け始めた。


古い木がわずかに軋み、

埃の匂いがふわっと広がる。


中には、

細い箱、

封筒、

古い写真、

そして茶色いノートが入っていた。


(父さんのこと……?


 これか……?)


手を伸ばした瞬間――


「大樹?」


背後から声がした。


振り返ると、

母が驚いた顔で立っていた。


その目は、

引き出しと、

凛さんと、

僕の手元を交互に見つめた。


部屋の空気が

一瞬にして張り詰めた。


(第二十七章 了)


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