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僕とばあちゃんと、僕の名前  作者: つなかん


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第二十三章「ばあちゃんの言葉、そして大樹の決意」

病院の朝は、

昨日より明るい光が差し込んでいた。


窓際のカーテンの隙間から、

やわらかい日差しが

ばあちゃんの顔を照らしている。


僕と母が病室に入ると、

ばあちゃんは少し上体を起こして、

もたれかかるように座っていた。


目の色が違った。

昨日より、もっとしっかりしてる。


「……ばあちゃん、調子ええん?」


母が聞くと、

ばあちゃんは微笑んだ。


「おかげさまでな。

 息も楽になってきたわ」


その言葉に、

胸がふっと軽くなった。


(ほんま……よかった)


母は看護師と話すために廊下へ出ていき、

病室には僕とばあちゃんだけが残った。


ばあちゃんは、

少しだけ首をかしげてこちらを見た。


「……大樹」


その呼び方だけで、

心臓が少し鳴る。


「今日な……

 あんたに言うつもりでおったこと、

 言わせてもらおか」


胸がきゅっとした。


(ついに……)


何度も途中でやめていた言葉。

その続きを、

今日やっと聞ける。


僕は椅子を引いて、

ばあちゃんのそばに座った。


「……うん。聞かせて」


ばあちゃんは、

少し目を伏せてから話し始めた。



「大樹……

 あんた、ほんまに優しい子や」


突然の言葉に、

思わず息が詰まった。


「ばあちゃんが倒れたときも、

 しんどい顔ひとつ見せんで……

 病院連れてってくれたやろ」


「そんなの……当たり前やん」


そう言った僕の声は、

少し震えていた。


ばあちゃんはゆっくり首を振った。


「当たり前なんかちゃう。

 あんたは人の痛みに、

 人の寂しさに気づける子や。

 そんなん、みんなができることやない」


僕はうつむいた。


胸が、

じんと熱くなる。


「……僕、そんな立派ちゃうよ」


「立派やないで。

 “優しい”んや」


その言葉は、

胸の奥にゆっくり沁みていった。


ばあちゃんは続けた。


「これからな、

 あんたに一番欲しいもんは……

 “自分のこと大事にする心”やと思ってるんよ」


僕は顔を上げた。


ばあちゃんは、

僕の目をまっすぐ見ていた。


「大樹はな……

 人のためなら動ける子や。

 せやけど“自分のため”やと、

 ちょっと怖がる」


図星だった。


息を吸うと、

胸の奥がきゅっと痛む。


「……怖いよ。

 失敗も、人の目も、

 全部……」


その瞬間だけ、

“僕”ではなく“俺”の声がにじみ出た。


ばあちゃんは、ふっと笑った。


「ええねん、それで。

 怖がってええ。

 でもな――」


ばあちゃんは

僕の手をしっかり握った。


その手の温度が

胸にゆっくり広がる。


「“怖くても進む”って決められたら、

 大樹はもっと強なる」


僕は喉が熱くなり、

返事がつまった。


「ばあちゃん……」


ばあちゃんは続けた。


「せやからな……

 あんたに言いたかったんはこれや」


一度息を吸い――

ゆっくりと、はっきり言った。


「“あんたの人生、あんた自身のために生きなさい”

 ……それだけや」


胸に何かが落ちる音がした。


静かで、

でも強くて、

心の奥まで届く言葉だった。


僕は唇を噛んで、

やっと声を出した。


「……ありがとう。

 ばあちゃん」


その声は

自分でも驚くほど静かで、

でも確かだった。



ちょうどその時、

廊下の向こうから母の声がした。


「大樹―? 面会もうすぐ終わりやでー」


「はーい」


返事をして立ち上がると、

ばあちゃんが僕を呼び止めた。


「大樹」


「ん?」


「これから、

 あんたの心が“進みたい”って言ったときは……

 進みなさい」


その言葉は、

凛さんとのことを

静かに胸に浮かばせるような響きだった。


僕はゆっくり言った。


「……うん。

 僕、進むよ」


その返事に、

ばあちゃんは安心したように笑った。


病室を出る頃、

胸の奥に灯る火は、

昨日より少し強くなっていた。


(第二十三章 了)


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