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僕とばあちゃんと、僕の名前  作者: つなかん


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第二十二章 ひとりの夜と、小さな約束

病院からの帰り道。

夕闇が町の屋根の上に薄く広がり、

自動販売機の光だけがぽつんと見える。


家に帰ると、

母は台所で荷物を片づけていた。


「あんた、帰ってきたん?

 ばあちゃん、どうやった?」


「うん。安定してるって言われた。

 熱も下がりつつあるって」


言いながら靴を脱ぐと、

母がちらっと僕の顔を見た。


「……あんたの顔、少し軽なったな」


「え、そう?」


「うん。

 昨日より……息しやすそうな顔しとる」


その言葉に

胸がじんとした。


(……凛さんのおかげ、かもしれへんな)


ばあちゃんのことが不安なのは変わらない。

言いかけてやめた“あの言葉”だって、

心にずっと引っかかっている。


でも――

凛さんの涙。

凛さんの声。

凛さんの「頑張りすぎんといてくださいね」の言葉。


あれが胸の奥で、

静かに灯り続けていた。



風呂を済ませ、

自分の部屋に戻る。


畳の匂い。

遠くで鳴る虫の声。

薄い月明かりがカーテンのすき間から入り込んでいた。


布団に横になると、

まぶたの裏に浮かぶのは、

凛さんが涙をぬぐった瞬間だった。


(……なんで泣いたんやろ)


自分のことなのに、

まるで誰か他人の苦しみを見たみたいな顔で泣いていた。


心配されて、

胸が痛くて、

嬉しくて――


どれも初めての感情だった。


(……俺のこと、そんなに……?)


考えれば考えるほど、

胸が熱くなる。


気づかれへんように、

そっと布団を握った。


そのとき、

スマホが静かに震えた。


画面には――

「凛さん」


胸が跳ねた。


メッセージは短かった。


『今日は、帰り道、泣いてしまってすみません

 でも……大樹さんの声、元気になってて良かったです』


指が止まる。


しばらく見つめてから、

ゆっくり文字を打った。


『泣いてくれたの、嬉しかった

 ありがとう』


送った瞬間、

胸が熱くなった。


数分後、返信が届く。


『じゃあ……また電話してもいいですか?

 怖いときでも、嬉しいときでも』


その文だけで、

胸の奥がきゅっとなる。


僕は少し笑いながら返した。


『俺のほうこそ、話したいときはかけていい?』


送信ボタンを押したあと、

反射的に肩が熱くなった。


“俺”が自然に出てしまった。


でも――

これでよかったのかもしれない。


すぐに返信が来た。


『はい。

 約束、ですよ?』


短い言葉なのに、

心の奥に静かに響いた。


(……約束、か)


布団に潜り込みながら、

胸がぽかぽかしていた。


ばあちゃんの回復。

母の支え。

凛さんの涙。


全部がつながって、

僕の今を支えてくれている。


月明かりが畳に薄く落ちて、

その光の中で、

僕はゆっくり目を閉じた。


明日は少しだけ、

昨日より優しい日になる気がした。


(第二十二章 了)


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