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僕とばあちゃんと、僕の名前  作者: つなかん


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第二十一章「ばあちゃんの秘密と、凛さんの涙」

病院の面会時間が終わる頃。

窓の外には少し赤い夕日が落ちかけていた。


母が帰ったあと、

僕はひとりばあちゃんのそばに座っていた。


ばあちゃんは目を閉じていたが、

呼吸は昨日よりずっと落ち着いている。


花瓶の野花が、

カーテン越しの光で優しく照らされていた。


しばらくして、

ばあちゃんがゆっくり目を開けた。


「……大樹」


「起きたん?」


「うん……ちょっとだけな」


ばあちゃんは僕をじっと見つめた。

弱っているのに、

その目だけは穏やかで温かかった。


「……話したいことがあってな」


胸がきゅっと鳴る。


(また……昨日の続きか)


僕は静かに身を乗り出した。


「なんなん?

 聞くよ」


ばあちゃんは、

息を整えるように一度目を閉じた。


そして――

ふと笑いながら言った。


「……言うたら泣くかもしれんから、

 やっぱ今はやめとくわ」


「なんやねんそれ……」


軽く笑ったつもりだったのに、

声が少し震えた。


ばあちゃんは僕の手を軽く握り、


「もうちょい元気になったら言う。

 楽しみに待っといてな」


そう言って、

静かに目を閉じた。


不安と期待が入り混じった、

奇妙な感覚が胸の中を占めた。


(元気になってから……か)


その約束を、

僕は胸にしまって病室をあとにした。



外に出ると、

夕方の空気が少しひんやりしていた。


病院の入口に向かって歩いていると、

背後から声がした。


「大樹さん?」


振り返ると――

凛さんが立っていた。


買い物袋を片手に、

呼吸が少し上がっている。


「凛さん?」


「お母さんから聞いて……

 今日、来てるんやろって」


頬が赤いのは、

走って来たからだけじゃないように見えた。


凛さんはゆっくり歩み寄ってきて、

僕の表情を覗き込むように見た。


「……泣きそうな顔してます」


「え、してへんよ」


思わず目をそらす。


凛さんは少しだけ眉を寄せた。


「大樹さん、

 “してない”って言うときほど……

 本当はしんどい時です」


胸のどこかに

そっと触れられた気がした。


「ばあちゃん、

 良くなりはじめてるんですよね?」


「うん。

 でも……言いたいことがあるって言いかけて……

 またやめて」


「……怖いんですか?」


凛さんの声は、

とても静かで優しかった。


「怖い……な。

 めっちゃ……」


その瞬間だけ、

“僕”ではなく“俺”の声が滲んだ。


凛さんは気づいたように

目を少し見開いた。


僕は言葉を続けた。


「ばあちゃんが言いたかったこと……

 もし悪い話やったらって考えたら……

 怖い」


凛さんはそっと近づき、

僕の横に並んだ。


夕日の残りが病院のガラスに反射し、

二人の影が長く伸びた。


「……大樹さん。

 怖いって思えるのは、

 本気で大事にしてる証拠ですよ」


僕は息を吸い、

小さくうなずいた。


そのときだった。


ふと横を見ると、

凛さんの目にうっすら涙が浮かんでいた。


驚いて声が出る。


「え……凛さん?」


凛さんは目元を慌てて指で押さえた。


「ごめ……ん……

 なんか……勝手に……」


震えた声。


「大樹さん、ひとりで……

 頑張りすぎやから……

 見てたら……胸が……ぎゅってして……」


僕は、

胸が熱くなるのを感じた。


風が少し吹いて、

凛さんの涙が光を受けて揺れた。


「……ありがとう、凛さん」


その言葉は

涙を受け止めるみたいに、

そっと落ちた。


凛さんは小さく笑いながら言った。


「大樹さん……

 ほんまに、よかったですね。

 おばあちゃん、生きてくれて……」


その一言で、

胸の奥に溜まっていたものが

静かに解けていくのを感じた。


僕は、

泣きそうな凛さんの横顔を見つめながら

ゆっくり言った。


「……ばあちゃん元気なったら、

 ちゃんと話聞くわ。

 その日まで……僕も頑張る」


「……はい」


凛さんは涙の跡を指で拭い、

小さく、でも確かに微笑んだ。


病院の外の風が、

二人の間を優しく通り抜けた。


(第二十一章 了)


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