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ついに、その日がやって来た。

リヴェンは黒のスーツを身にまとい、いつもよりも一層引き締まった表情をしていた。

黄金の髪は丁寧に後ろへと撫でつけられ、頭には黒い帽子が乗っている。その姿はまるで若き貴族のようで、誰が見ても息をのむほど整っていた。


階段を下り、屋敷の中庭へ向かうと、そこにはすでに父と弟のハダッシュが待っていた。

ハダッシュもまた立派なスーツに身を包み、誇らしげに胸を張っている。


「遅かったな、リヴェン。」

父の低い声に、リヴェンは微笑みを返すだけだった。


彼らが乗り込んだのは、一頭の飛行キュマイラ(空を翔ける霊獣)が引く馬車だった。

翼を大きく広げ、風を切って空高く舞い上がると、眼下には広大な世界が広がっていく。


リヴェンは窓の外を見つめながら、胸の奥がわずかに高鳴るのを感じていた。

キュマイラ馬車は賑やかな市場を越え、空を突くような巨大な建物の間を抜け、

黄金色の麦畑を通り過ぎ、やがて果てしない緑の草原へと飛び出した。

この世界の美しさに、思わず息を呑む――。


長い旅路の果て、ようやく彼らはキタル家の領地へと到着した。

ここもまた人々で賑わい、街の活気が空気に溶け込んでいる。


キュマイラの馬車が着陸場に降り立つと、見物人たちが一斉に歓声を上げた。

「うわぁ、すごい! あれは貴族の乗り物じゃないか?」

人々の驚きの声に、リヴェンは軽く帽子のつばを押さえ、無言で歩み出た。


父は以前から親しくしていた太った中年の男――アレンにキュマイラを預けた。

アレンは朗らかに笑いながら、「まかせてください、旦那様」と頭を下げる。


「今日はせっかくだから、少しこの街を見て回ろう。」

父の提案に、リヴェンの瞳が輝いた。ハダッシュもまた、心なしか興奮した表情を浮かべている。


キタル領の中心街は、リヴェンが想像していた以上に活気に満ちていた。

空に浮かぶ水晶塔、風の力で動く浮遊商船、街角には歌う魔道楽器。

香ばしい香りを放つパン屋の前には長い列ができ、露店では光る宝石や魔法の指輪が所狭しと並べられている。

街の中央広場では、炎を操る大道芸人が観客を魅了していた。


「すごい……まるで夢の世界みたいだ。」

リヴェンが呟くと、父は微笑んで「この世界には、まだお前の知らぬ美しさがある」と言った。


一方、弟のハダッシュは少し違うことを考えていた。

(……おかしいな。あいつがこんなに楽しそうにするなんて。最近のリヴェンは、どこか違う。

 頭の回転も速くなってるし、前よりずっと……強くなったように見える。)


その違和感が、ハダッシュの胸に小さな棘のように刺さっていた。

彼は無意識に拳を握りしめ、兄の背中を睨む。

(何があったんだ、お前に……リヴェン?)


父は三人のために高級宿を予約しており、その夜はそこに滞在することになった。

窓からはキタルの夜景が一望でき、空を漂う光の魚や、星屑のように瞬く街灯が輝いていた。

リヴェンは静かにその景色を眺めながら、心の奥で何かがゆっくりと動き始めているのを感じていた。

すみません、試験勉強で忙しいので、今から来週末まではおそらく1話しか投稿できませんが、その後は毎日少なくとも1話は投稿します。

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