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成功したサプライズ(2)

 

 ***

 

 城に帰ってから、ディードリヒに夕食は庭でどうかと誘ってみると、すぐに了承の返事が来たので夕食は庭で摂ることに。


「実は渡したいものがあるんですの」

「渡したいもの?」


 リリーナはそう言って使用人の一人に声をかける。するとその使用人は一度離れ、すぐ贈答用に包まれた何かを持ってきた。

 リリーナはそれを受け取ると、そのままディードリヒへ差し出す。


「こちらですわ」

「…これは?」


 不思議そうなディードリヒに、リリーナはにこりと笑う。


「開けてからのお楽しみですが…今開けるとおまけがあります」

「おまけ?」


 状況が掴めないままディードリヒは包みを開ける。中には水色のドレスに薄い金の細いリボンが飾られたクマのぬいぐるみ。昼間リリーナが街で買ったものだ。


「…」

「私の髪色と同じ色でしたので買ってみました。部屋にでも飾ってみたらいかがかしら?」


 ぬいぐるみの着ているドレスはいつかのドレスを思い出させる水色で、嫌味のない金のリボンはリリーナの瞳の色を意識したものだろうか。


 リリーナなりにディードリヒが寂しくないようにとプレゼントしたものではあったが、相手は放心したようにぬいぐるみを見つめたまま放心している。


「ぬ、ぬいぐるみは少し子供っぽかったでしょうか…」


 今更ではあるのだが、気がついたら恥ずかしくなってきた。しかし返事のないディードリヒにリリーナは少しばかりむくれる。


「も、もう! なんとか言ってくださいませ!」

「あ、あぁ…」


 むくれたリリーナの声を聞いて、ディードリヒはわずかに我を取り戻したのか口を開く。


「その、こんなサプライズもらえると思ってなかったから…ちょっとびっくりしちゃって」


 その言葉に、リリーナは嬉しさで表情を明るくした。そこから得意げな顔で相手にふふん、と笑って見せる。


「ほら、知らないことも時には悪くないでしょう?」


 ディードリヒがいつミソラから話を聞いているのかは知らないが、狙った通りサプライズは成功であった。これは勝ち誇った気にならないでいられない。彼のこういう表情が、彼女はみたかったのだから。


「はは、そうかもしれないね…こんなに嬉しいんだから」


 ディードリヒはへにゃりと笑う。いつも緊張感はないはずなのだが、今日はより一層それを感じさせない笑顔だった。

 しかしそれを満足げに見つめているリリーナははっとあることを思い出す。


「そうですわ。少しだけそれを貸してくださる?」

「え? うん、いいけど…」


 リリーナはディードリヒからぬいぐるみを受け取ると、懐からいつもの香水を取り出した。そしてぬいぐるみに二、三度噴き付けけてから返却する。


「おまけと言ってもこのようなものですが、貴方ならこちらの方がいいと思いまして」

「…!」


 リリーナは覚えているのだ、ディードリヒがリリーナに抱きついて何をするかなど。それならば体臭…は流石に嫌だが香水くらいなら、と思い至ったのである。


「香りが薄れてきたらまたしてあげますわ」


 優しく微笑むリリーナにディードリヒは今日一番に表情を明るくした。


「ありがとうリリーナ! 大事にするね!」

「そうしてください。私を扱うように繊細にしてくださいませ」

「もちろんだよ!」


 そう言って笑うディードリヒにつられるようにリリーナも笑う。結局解散になるまで、いやなっても、ディードリヒはご機嫌であった。

 

 ***

 

 就寝前の時間である。

 自室で今日もらったぬいぐるみを眺めるディードリヒは、また緊張感もなくにへへ、と笑った。


 彼としてはプレゼントそのものがまず嬉しいが、以前リリーナに贈った香水と繋がっているような気がしたのが殊更嬉しい。


「本当、好きだなぁ…」


 もらったクマの毛並みを撫でながら言う。

 そんなことをしていると、以前デートをした時にリリーナが言っていたことを思い出した。“何にでも嫉妬していたら、プレゼントの一つもままならない”、そう彼女が言っていたのを思い出す。


 どう足掻いても、共にいない時間は耐えられないのでストーキング行為を止めることはできないが、それでもたまにはこんな日があっていいと思わないこともない。いつも報告はリリーナが寝た後に聞いているので、本当にたまたま、と言った具合なのだが。


「でもやっぱり…一緒にいたいな…」


 それでも彼女を手元に置いておきたい欲望が尽きることはない。リリーナの期待に応えようと何かと己に我慢を強いているが、やはり飛ぶこともできず、縛られたまま、自分に依存して甘えて、うっとりと自分だけを見る彼女を…想像するくらいは許されたい。

 彼女の、折れた翼の、その果ての姿の一つとして。


「あれ? でもなんで急にプレゼントなんか…?」


 よく考えたら嬉しさのあまり訊くのを忘れてしまった。近々訊いてみようとは思うが、まずはミソラに話を聞いて、必要であれば調査をしなくては。


 浮気の誤魔化しなど考えたくもないが、そうであったら、やはり考えたくもない。

 調査は入念であるに越したことはないようだ。


この作品は「中世」というよりは「近代」にちかい世界観設定ですが、「現代」における機器の数々を手に入れたらディードリヒくんのストーキングはどこまで過激になるんでしょうね?


「面白い!」と思ってくださった方はぜひブックマークと⭐︎5評価をお願いします!

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