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成功したサプライズ(1)

 

 

 ********

 

 

 その後も何度かアンムート宅を訪問し、毎度ソフィアが対応してくれるので彼女と世間話をすることが増えた。


 リリーナとしては知らない農民や平民の情報が入ってきて大変助かるのだが、アンムートはいつも狙ったようにその場にはいない。


 しかしリリーナの最大の懸念はいつだってディードリヒである。ここまでアンムート宅に通っていて何もアクションを起こしてこないのはいっそ背筋が冷えていく。


 もしかしたらミソラからほとんど妹のソフィアとしか話していない旨が知らされているのかもしれないが、予定が詰まってお茶会程度でしか会えていないのに何も言ってもこないというのはやはりおかしい。


 しかし目の前のことは進めなくてはならないので、今日もアンムート宅へ行った。今はその帰りに貴族街でミソラを連れたままフラフラしているところである。お茶会まで時間が空いたので紅茶に合わせる菓子でも買って帰ろうという算段であった。


「これは…」


 そう言って、リリーナはあるものに目を惹かれ立ち止まる。

 それはクマのぬいぐるみだ。ただ毛色がリリーナと同じピンクブロンドなのが気になり視線を送る。


「…」


 今日もアンムート宅に通っておいてなんだが、やはりディードリヒが心配でないと言ったら嘘になってしまう。自分が近くにいないだけでいつも崩れたように項垂れる彼のことだ、執務で忙しいという点も含めてまた精神がズタボロになっているに違いない。

 そういう意味で言ってしまえば、必ずいつかしっぺがえしが来るだろう。


「…看板?」


 しばらくクマを眺めていると、横に何やら看板があることに気づいた。看板には“クマさんたちの着るお洋服、お店で決められます”と書かれている。


 そこでリリーナは、ふむ、と少し考えた。


「ミソラ、中に入りますわ」

「かしこまりました」


 ミソラを連れて中にはいると、店舗の中にいた店員が丁寧に頭を下げる。


「あの、外に飾られているクマが欲しいのですけれど。いただけるかしら?」


 リリーナの問いにに店員は再び丁寧な態度で言葉を返す。


「あの子そのものはお売りできませんが、同じものでしたら在庫がございます」

「構いませんわ。それと看板に書いてあった服って…」

「あぁ、それでしたらこちらのカタログをご覧ください」


 そう言って店員はレジスターの置かれた棚から一冊のカタログを取り出した。レジスターのすぐ脇のスペースにカタログを置くと、ゆっくりと中身を開きリリーナに差し出す。


「こちらに書かれているものでしたら在庫がございます。三つまででしたらお好きに組み合わせていただくこともできますし、もちろんお一つでも構いません」


 カタログの中にはリボンやボンネット、 ドレスのように装飾されたワンピースやタキシードを纏うクマたちが値段ともに記載されていた。

 クマの毛色を指定してオーダーメイドすることもできるようで、その場合は応相談と書かれている。


「たくさんありますわね…」


 リリーナはカタログを眺め、ゆっくりとページを進めていく。一通り見終わると振り向いて後ろにいたミソラに声をかけた。


「財布が欲しいわ。現金で決済します」

「小切手をお切られになっても問題はないと思いますが」

「プレゼントでしてよ。自分で払ったほうがいいではありませんか」

「かしこまりました」


 確かに小切手での支払いの方がそれらしいが、それを使ってしまうと最悪金の流れでバレてしまうかもしれない。それでは彼女的には意味がないのだ。


「店員さん」

「はい、お呼びでしょうか」

「先ほどの毛色のクマに、この服を着せて欲しいのですけれど」


 リリーナはカタログを開き服を一枚してする。


「こちらですとリボンをお着けしても映えるかと思われますが、いかがなさいますか?」

「なら服に合わせてこの色がいいわ。あとはプレゼント用なので包んで欲しいのだけれど」

「かしこまりました。すぐご用意できますので少々お待ちを」

「えぇ」


 店員は商品を準備するために裏へ入っていく。

 それを待っていると、ミソラが再び店内へ入ってきた。


「お待たせいたしました」


 ミソラは持っていた財布をリリーナに渡す。これは馬車で待機していた侍従が預かっていたものだ。


「ありがとう。あまり大きな店舗ではないから助かったわ」


 あまり大人数が来ることを想定してないのか、店内はとても狭い。大人が四人も入ったらいっぱいになってしまいそうだ。

 その壁はいくつかの棚になっていて、そこにも見本のようにクマのぬいぐるみが飾られている。


 贈答用なのだろう、ウェディングドレスとタキシードを纏ったセットのクマや、大きなボンネットに薔薇のドレスを纏ったクマ、シンプルにリボンだけのクマなど、たくさんの商品が飾られていた。


「お待たせいたしました」


 かけられた声に振り向く。どうやら裏へ行っていた店員が帰ってきたようだ。

 店員はレジスターの横に注文したクマを置いて、贈答用の箱を用意している。

 クマはリリーナの髪の色と同じピンクブロンドで、彼女が指定した服を身に纏っていた。


「こちらの商品でお間違い無かったでしょうか?」


 店員の声にリリーナは答える。


「少し持ち上げて確認しても?」

「えぇ、問題ありません」


 店員に断ってぬいぐるみを手に持つと、ぐるりと一周させて確認する。縫製もしっかりしているし、特に不備はないようだ。


「大丈夫そうですわね、こちらをいただくわ」


 リリーナは以前買おうとしたドレスの縫製が甘かったことがあり、それ以来服や何かは確認するようにしている。


「ありがとうございます。お支払いは?」

「現金で」

「金貨三枚、銅貨五枚でございます」


 しっかり財布から支払いを済ませると、贈答用に包まれたクマをミソラに託し店を出た。


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