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意外といえば意外

 

 

 ********

 

 

「よろしかったのですか?」


 薄暗いあの部屋でミソラはディードリヒに問う。

 ディードリヒは今日も写真を片手にミソラと目を合わせることはない。


「何が?」

「リリーナ様がディードリヒにお頼りになるのをお待ちになるとのことでしたので」


 おそらくリリーナが受けていた嫌がらせの件を指しているのだろう。それ以外にも彼女がすぐにオーバーワークになる件も含まっているのだろうが。


「それね…有り体に言ったら『降参』ってやつだよ」

「…」

「リリーナは思っていたよりずっと人に弱みを見せられないんだろうね…。僕が出家でもしたら変わったかな?」

「それは…わかりかねます」


 リリーナに心配してもらうために、いや弱さを見せてもらえるように、牧師にでもなったほうが良かったかもしれない、などとディードリヒは皮肉を言う。


「まぁ、そういうことだからこれ以上は待てなかった、ってだけ。嘘をつけば道化になれるわけじゃないしね」

「私は…一昨日のリリーナ様には少しばかり安心しました。緊張のほぐれたご様子は随分と久しぶりでございましたので」


 やはりディードリヒの行うめちゃくちゃな行動が、リリーナの緊張をほぐし本来の彼女を引き摺り出すのかもしれない。ディードリヒの前が一番、彼女は泣き、笑い、怒り、弱みを見せる。


「そういう役回りはいつだって僕でありたいところだよ。いつまでだって、何があったって、リリーナの唯一は僕だ」

「…」

「そんな顔しなくたって、リリーナのやりたいことを優先するのは変わらないよ。例外がなければね」

「例外、ですか」

「正直母上の言ったことも、それこそ新しい侍女なんていらないと思うんだけどね。あまりこちらに踏み込む人間は増やしたくないし」

「…やはり珍しいですね、変わらずですか」


 正直、ミソラはすぐにでも耐えられなくなるだろうと考えていた。それがここまで保つとは。


「打算だよ。短い破滅は魅力的だけど、彼女が望むのは永い永遠だから」


 そこでディードリヒは一つ深呼吸をする。


「リリーナがどうあったら僕を長く見てくれるかでしかない」

「…」

「…滑稽だろ。僕はリリーナが人形でも愛してるのに、何してるんだろうね」


 ディードリヒの瞳は少しずつ濁っていく。虚の中で絶望していく彼が考えていることなど、いつだって愛しい女のことだ。


「それはディードリヒ様が一番おわかりなのでは?」

「…何が言いたい」


 光のない瞳はミソラの凜とした顔を睨みつける。しかし彼女がそれに反応することはない。


「リリーナ様の美しさは、彼の方が飛び立つことでしか現れないと」

「…」

「違いますか?」


 ミソラの言葉にディードリヒは一つため息を落とす。


「…そうだ。悲しいほどに、その姿こそ彼女は最も美しい」


 ミソラは応えなかった。

 少しの沈黙があって、ディードリヒが口を開く。


「…今日は帰っていいよ。リリーナとのお茶会が復活するとところまで漕ぎ着けたわけだから、会う機会も増える」

「かしこまりました、失礼致します」


 ミソラは音もなく影に消えていった。


「…」


 ディードリヒは、一枚の写真を手に取る。

 写真に映るリリーナは凜とした横顔で歩を進める最中であった。

 そして彼はそっとその写真を机に置いて、祈るように泣きそうな自分を抑える。


「リリーナ…どこにもいかないで」


 張り詰めた声を、彼女に知られたくはない。

 知られてしまったら、もう抑えきれないから。


リリーナはミソラとの関係を“ビジネスライク”と感じていると以前書きましたが、本当にビジネスライクなのはこの二人です


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