再びの視線
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ディアナとのお茶会から一日経って、リリーナは図書館にて本を探している。
書棚の区分けを示すプレートには“法律”と書かれていた。リリーナはこの国において新しい店舗を出す際の資格や法律についての書籍を探している。
それに付き従うミソラは内心で大きなため息をついた。本来リリーナ自身がこんなことを勉強しなくても専門家を雇えば済む話ではある、ということもそうだが、何よりリリーナがまた余計なプレッシャーを抱えることになった現状を嘆いている。
確かに好きなことをやるのはいいことだろう。本人の息抜きになるのは確かだ。
しかしディアナが期待をかけてしまったせいでリリーナの“結果を出そう”という精神にスイッチが入ってしまっている。これでは意味がない。
しかしこのまま声をかけたところでリリーナは聞く耳を持たないだろう。なぜなら期待をかけてきた相手がディアナ…ディードリヒの母親と来ている。なんとしてもリリーナは結果を残し、期待に応えようとするだろう。
目的の本を見つけたのかいくつか手に取ってミソラに渡し、座れる席を探すリリーナについていきながら、この現状をどう変えたものかとミソラは考えている。
そこでふと視界に入って人物に目を移すと、どこかで見た顔がこちらを不思議そうに見ていた。
その正体はファリカ。何か用があったのか彼女もまたなにやら本を持って立っているのだが、視線が明らかにこちらに向いている。
ミソラがそちらに視線をやるとファリカは何事もなかったかのように去っていったが、あのようにあからさまな視線を向けるのはやや気がかりだ。
しかしこのままリリーナを置いて追いかけるわけにもいかず、仕方ないので追いかけずにリリーナの傍につく。
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「ごきげんよう、ルーベンシュタイン様」
急にかけられた声に反応したリリーナが見ていた本から頭を上げると、そこにはファリカの姿があった。
「ごきげんよう、アンベル伯爵令嬢」
急に何事かと思いつつ挨拶を返すとまたファリカはじっとこちらを見ている。
「何をお調べになっているのですか?」
そう訊かれて簡単に事情を説明すると、ファリカは「ここに腰掛けても?」と問い、それに肯定すると机を挟んだ向かい側の椅子に腰掛けた。
「私でよければなにか役に立てるかもしれません」
「そうなんですの?」
「うちは元々商人上がりの家系なので、未だにこういう法律や何かは習わされますから」
ファリカはリリーナが開いていた本を預かると、少し間を置いてリリーナに向け直してから二人の間に置く。それから持っていた紙とペンを持ち出すと本に書いてあることを解説し始めた。
そのままリリーナもファリカの話を聴き始め、自分の紙とペンも動かし始める。
一通り話が終わる頃には夕方になっていた。
「ありがとうございました。とてもわかりやすかったですわ、教えるのがお上手ですのね」
礼を述べるリリーナに、ファリカはややばつの悪そうな苦笑いで応える。
「私、貴女のことを勘違いしていたようです」
「?」
「ずっと外国から来る貴女のことが気になって見ていたのだけど、ここ数日でとても真面目で勤勉な人だって気付きました」
「いえ、そんなことは…」
謙遜するリリーナだが、ミソラは内心で同意した。少し彼女の内面に触れればわかることだが、リリーナは真面目“すぎる”ほどである。
「城の中では色々と噂も飛び交っていたので、踊らされていたみたい。お詫びをさせていただけませんか?」
「お詫びだなんてそんな、お気になさらないで」
「今度お茶会をするのは如何かしら? もしルーベンシュタイン様がよろしければ二人きりで」
「構いませんが…」
「ではそうしましょう。お詫びになるかわかりませんが、とびきりの茶葉をご用意します」
そう言って一つ頭を下げるとファリカは去っていった。同時に彼女は「予定はまた追って連絡します」と言っていたのでそれを待つしかないだろう。
一先ず持ってきていた本を書棚に返して、後で復習をしようと紙を丸めてから図書館を出た。
いい子なんですよ、ファリカ
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