おやすみなさい、また明日
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どんなに非日常があったところで、変わらないものは変わらないわけで。
「どうして貴方がまたベッドにいるんですの!?」
「やだなぁリリーナ、今更だよ」
今日も今日とてディードリヒは当たり前のようにリリーナのベッドに潜り込んでいる。
「今更も何もありませんわ!」
「いいじゃん。僕らは結婚するんだから」
ディードリヒは爽やかに笑って見せるが現状では火に油を注ぐだけであった。
「そもそも婚前の男女が寝所を共にするのが一番おかしいとあれほど言ったでしょう!」
リリーナは相当お怒りである。しかし今日のディードリヒもめげない。
「じゃあリリーナは僕の温もりがなくて眠れるの?」
「えぇ、当たり前でしょう」
「…」
ここでディードリヒは強行手段に出た。起き上がっているリリーナにしがみつくと彼女を布団に押し倒し、その横に平然と寝転がる。
「な、なんですか!」
「僕はリリーナがいないと眠れないのに…酷いよ…」
「子供ですか貴方は!」
「…まぁ、違う意味で眠れなかったりするけど…」
「眠れなくなるくらいでしたらご自室にお戻りください」
冷たく接するリリーナだが、それでもディードリヒは諦めない。
「やだ! 今日は特別だもん!」
「…特別でなくてもベッドに潜り込んでくる人間がよく言いますこと」
暴れるディードリヒをリリーナは容赦なく切り捨てた。それでも彼は言う。
「今日はリリーナがいることを噛み締めて寝るって決めてるんだ!」
「!」
「数え切れないくらい万が一を考えて過ごしたんだ…もう離さない。君が空を飛ぶなら僕だって飛ぶ」
「…」
リリーナは、ディードリヒの言葉に小さく笑った。そして彼と向き合うように体を回転させると、その髪を優しく撫でる。
「ふふ…それはよく言えましたわ」
「!」
「少しは私といる覚悟がついたようですわね」
優しく自分を撫でる声に、ディードリヒは不安をこぼす。
「…でも、今ほど自由には飛ばしてあげられないよ」
「ここにくる前の生活に戻るだけですわ。自分の自由は自分で見つけるものです」
ここまできても彼女は強い。
それ故に不安は募る。
「うーん…複雑。やっぱり不安かも」
「あら、私について来られないのであれば捕まえることもできませんわね」
「じゃあ捕まえていい?」
「何を言っているのです。ついて来れるのであれば共に飛べるではありませんか」
「!」
さも平然と、彼女は彼と共にいることを考えているのだ。いつだって前へと彼を連れていく。
「貴方は彼の方とは違いますわ。せいぜい手を離さないでくださいませ」
「リリーナ…」
「その代わり私も離しませんから」
そう言って彼女はまた少し微笑んだ。
「さ、わかったら寝ますわよ。明日から大忙しですわ」
リリーナはやれやれといった様子で枕元の明かりを探す。
「え、一緒に寝ていいの?」
「仕方なくです。今日までしかこんな自由はききませんから…ご褒美ですわ」
ランプの紐を見つけた彼女はパチリと電気を消し、ごそごそと布団に戻る。
「貴方、少し位置を下げれます?」
「? いいけど…」
よくわからないまま体の位置を下げたディードリヒ。それを見たリリーナは、その頭を抱き抱えた。
「!?」
「少しは落ち着きなさい」
「こ、これもご褒美…?」
「そうです。せいぜい私の心音でも聴いていつかみたいに私の生を実感なさい。そうすれば眠れるでしょう?」
「リリーナ…」
「ありがたく思ってほしいものですわ」
ディードリヒはそろりと腕を伸ばし、彼女の体を引き寄せる。耳を澄ませれば確かに彼女の静かな心音が聴こえて、心地よさを感じた。
「…うん、眠れる気がする」
「やっとですか、手がかかりますわね」
そうして二人は、そっと目を閉じる。
「ありがとう、おやすみ」
「えぇ、おやすみなさい」
続
ということで一巻分の掲載が終了しました
二巻分をこのまま継続で掲載予定です
ちなみに一巻、二巻は私がそういう単位で話を書いているという基準の話です
ここまでご愛読ありがとうございました。引き続き二巻でお会いしましょう
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