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美女と野獣…?

 

 ***

 

「お二人とも、ここに居られましたか」


 リリーナとディードリヒはオイレンブルグ公爵とその妻グリゼルダへの挨拶を終え、席を外していると聞いたヒルドを探している。その最中、ある男が二人に話しかけてきた。

 ディードリヒよりも少し高い背に短く癖を持った黒髪、意志の強そうな切れ長の目元に光る銀の瞳と常に不敵な笑みを浮かべているように見える口元…この嫌でもよく見知った姿は、正しくラインハート・グレンツェ伯爵である。


 ラインハートは見かけたリリーナたちに向かってにこやかにそう言うと、そのままやや早足に二人の元へ歩いてやってきた。

 そして彼は、流れるようにリリーナとディードリヒに向かって静かに頭を下げる。


「殿下、そしてリリーナ様、本日は光さす祝福のお迎えされましたこと誠におめでとうございます。本日お呼びいただきましたことは我がグレンツェ伯爵家に置いて至高の名誉であり、今後ますますの活躍によってお二人にお応えさせていただくことを誓いましょう」


 やや大袈裟な挨拶はさも流暢に彼の口から二人へと向けられているが、そのわざとらしさともとれる言葉に嘘がないのがラインハート・グレンツェという男であった。

 気づけば彼は、初めて会ったあの狩猟会での出来事が嘘であったかのように自分達に…特にディードリヒに懐いている。そのくせゴマを擦るようなことはなく、自分達が彼を構うことがあればその度に彼は嬉しそうに笑いながら時折こちらをおちょくってくる…まるで彼はこちらに畏怖の念などかけらもないように。

 そしてその嘘のなさとある意味で気の抜けた関係、何より“今後の活躍で”自分達に応えるという彼らしい言葉にリリーナは今日も毒気を抜かれてしまう自分がいた。


「相変わらず長い舌だな」

「はは、これでもご婦人には好評でございます」

「本当か? 馴れ馴れしい犬とでも思われているとしか思えん」

「無いとは言い切れませんなぁ」


 ディードリヒがラインハートと会う度、ディードリヒは彼に嫌味しか言っていないのではないかと思うほど棘のある言葉ばかりを飛ばしているが、ラインハートがそれを気にしている様子をリリーナは見たことがない。

 ラインハートはいつもディードリヒの尖った言葉を笑って流し、時に逆手に取ってディードリヒをいじり始める。果たしてそれは勇気があるのか、馬鹿なのか、はたまたある意味ありのままの姿を見せるディードリヒに気づいているのか…いずれにせよ、無駄な胆力があることは間違いない。


(それにしても…やはりご婦人には人気があるんですのね…)


 先ほどラインハートが発した一言についてなんとなく考えるリリーナ。

 基本的に挨拶は位の高い人間や客人から行い、そこに友好関係は介在しない。なので伯爵家の人間であるラインハートは当然後回しになるわけだが、挨拶周りの中でリリーナはふと何気なく視線を向けた先である瞬間を目にしている。

 そこではご婦人や令嬢達がラインハートを囲み、彼女達に向かって彼が爽やかな笑顔を返していた。


 確かに一見すれば見目麗しい男性であることに変わりはないだろうし、普段の彼はディードリヒが絡まない限り紳士的で言葉選びが上手い。となれば女性達に人気が出るのも不思議ではない…が、しかし至近距離で接した彼にそのような優雅さは存在しないのが現実である。

 特に剣とディードリヒが関わったら最後、一瞬にして彼は遊べ遊べと駆け寄ってくる大型犬へと変貌すると言っていい。なんとも残念な男である。


「今日は感謝しますわ、グレンツェ辺境伯。それにしてもここまで姿を現さなかったということが少し意外に思えますが」

「これでも一応、それなりの教育は受けておりますのでご安心ください。とはいえご婦人方が離してくださらなかったのも事実ではありますが」


 ははは、とラインハートはリリーナの言葉に対して軽い調子で笑いながら言葉を返す。しかし彼の言葉を聞く限り、彼が頻繁に首都に顔を出さないのはあのような扱いを本人が嫌っているからかもしれない、と言葉にはしなくとも考えた。

 こういった首都でのパーティはおろか、大きな催し事であろうともグレンツェ辺境伯本人であるラインハートが顔を出したところをリリーナは見たことがない。それこそ狩猟会がグレンツェ領で行われることでもない限りその姿を拝むことはできないとも言われているほどだ。


 辺境周辺の安全管理についてリリーナは詳しくないためてっきり伯爵として席を置いているグレンツェ本人は管理や警備で忙しく、代わりに前伯爵である彼の両親が内政に関わっているのだと思っていたのだが、存外それだけではないのかもしれない。

 今日の式と披露宴こそリリーナが名指しで彼を招待したので両親共々この場に顔を見せているが、よく考えてみればそれもややおかしなことだ。

 だが毎度顔を出した席であぁして囲まれていればやがて辟易もするだろう。そう思えば、首都での仕事は両親が行なっている以上自分が無理をすることはないと彼が考えそうだと想像するのは容易い。


「囲まれるのが面倒なら適当に婚約者でも立てればいいだろう。いくら辺境といえど陸の孤島じゃないんだ」

「それにつきましては所謂ロマンチストな性分タチでございまして、これでも“運命”というものを信じているのでございます」

「嘘をつけ、もう恋人は決まっていることへの方便だろう?」


 今しがたディードリヒの言った“恋人”とは剣技の道のことを指している。確かにディードリヒから見ればラインハートの言葉は全て方便に聞こえるのだろう、彼はげんなりと嫌気のさした様子でラインハートを軽く睨みつけるが、その姿にラインハートはわざとらしく声を上げて笑うと不敵に微笑みディードリヒの視線に応えた。


「いやはや、殿下に隠し事はできませんな。しかし嘘はないのでございます、俺は砦の皆に怯まぬ気骨ある女性と出会えることを信じておりますので」

「そういえばそんなことを言っていたな…簡単に見つかるようには思わんが」

「運命が本当にあるのであれば、自ずと巡り合うのでしょう。婚姻に必ずしも階級は必要ありません」


 さらりと出てきたラインハートの言葉に二人は素直な驚きを見せる。しかしその後で、確かに彼の言いそうなことでもあると思い直した。

 剣技と仕事に誇りを持つ人間が、貴族階級という肩書きに価値を見出しているとはとても思えない。


「確かにそれは、貴方らしいですわね」

「重要なのは人間性ですので。我が家は“融通の利く”家ですからどうとでもなるでしょう」

「ま、相手が見つかればだがな」

「はは、それを言われてしまいますと返す言葉もございません。俺もお二人のよう夫婦になれる方を見つけたいものでございます」


 軽い調子で笑いながらディードリヒに反応するラインハートの言葉を、リリーナは嘘とも本当とも取ることができないように思った。

 その言葉に含まれているのは嘘の仮面を被った興味のなさが半分と、それでも本当に“運命”の二文字を信じているように見える気持ちの二つがうっすらと透けて見える。


 もし、今自分が感じた彼の感情が本当ならば、確かに彼は自分で名乗った通りロマンチストの傾向があるのだろう。

 思い返せば、グレンツェ領を訪れた際に伯爵邸で開かれたディナーでのテーブルセッティングはいつも温かな蝋燭の光が部屋を照らし、薔薇を中心とした花束が花瓶に生けられ机に飾られていた。料理も季節感を重視した食材の中で食用花が盛り付けに添えられていたりと華やかなものであった記憶が強い。デザートもフルーツを使った香り豊かなものが多かった。

 農業が盛んな土地でありながら、養蜂の関係で花々の栽培や出荷も行なっているグレンツェ領ならではの演出なのかと思っていたが、いくらか彼の趣味が含まれていたのではないだろうかと今ならば思える。


(薔薇はありがちな私のイメージでもてなしているのかと思っていましたが…)


 リリーナをもてなす貴族の中で薔薇を装飾に用いる貴族は多い。なんでもリリーナの華々しさには薔薇がよく似合うそうだ。

 確かに薔薇は好きだが、正直なんともベターが過ぎて心がこもっていないと思うようなもてなしを受けたこともいくらかあるので、そういった意味ではリリーナの中でほんのりと苦手意識のある花でもある。


 しかしその薔薇も、グレンツェ邸ではラインハートの趣味だったのかもしれない。剣技と砦の仲間や領民を大切に思い、なにかと戦いを求めているイメージの強い彼がわかりやすいロマンチストというのは些か意外にも思えるが、友人の意外なギャップを知れるのは嬉しく思う。


「あらリリーナ! 探したわ!」


 しかしそんなことを呑気に考えていると、何歩か離れた場所から聞き慣れた声が自分を呼ぶ。リリーナが声の方に反応すると、声の主であるヒルドがこちらに向かってなんとも優雅な早足でやってくる。


「ヒルド! 探していましたわ」

「ごめんなさい、少しお化粧を直しに行っていて…あら、こちらの方は?」


 ヒルドとリリーナが互いの手を軽く触れ合い再会を確認していると、ヒルドがふとラインハートに目を向けた。するとラインハートは流れるようにヒルドに向かって頭を下げる。


「お初にお目にかかります、オイレンブルグ公爵令嬢様。自分はラインハート・グレンツェ、しがない辺境領地の領主でございます」

「あら、細かい挨拶はいらないみたいね。改めてヒルド・オイレンブルグよ、よろしくお願いするわね」


 互いに軽い挨拶の後、ラインハートが頭を上げた。しかしその姿を見たヒルドは、何かを見定めるように彼の頭からつま先までをじっと見つめ、最後に「ふぅん…」と一つこぼす。


「…貴方、もしかして噂に聞く『辺境の貴公子』様かしら?」

「…」


 ヒルドの放った一言の意味がわからなかったのか、ラインハートは困惑した様子でその場に固まった。

 対してリリーナは聞いたこともない噂話に困惑しつつも興味を示し、ディードリヒは噴き出すのを堪えるように口元に手を当てる。


「なんですの? その珍妙な二つ名は」

「一部のご婦人の間で流れる噂話よ」

「聞いたこともありませんが…」

「まぁ古い噂だものね。なんでも『とある辺境領には見目麗しい黒髪の貴公子がいて、彼はとても紳士的で優しい青年だそうだけど、体弱くて社交に現れることがない』…なんて言われているらしいわ」

「はぁ…」


 初めて聞いた噂話に、リリーナは怪訝さを隠さず眉間に皺を寄せた。そう、まるで『信じられない』としか言いようがないかのように。


「とてもグレンツェ辺境伯に当てはまるとは思えない噂ですわね…」

「そうなの?」


 未だ笑いを堪えているディードリヒ同様、ラインハートを知っている人間からすればとても信じられない噂話だ。

 確かに彼は首都での社交に顔を出さないが、それでも彼の性格は活発、健康的、そして好戦的でやや人をおちょくる癖があると…どう考えても噂の対極にいる人間としか言えない。


 確かに一見見目麗しいのは事実なので、黙っているか先ほど女性たちに囲まれていた時のように猫を被っていればそう見えなくもない…のかもしれないが、病弱だなんだなどと噂が立つこと自体懐疑的になってしまう。


「でも黒髪の辺境伯だなんて私はグレンツェ前辺境伯しか知らないもの。それでその息子ときたら…ねぇ?」

「まぁ、遠目にみれば多少顔は整っていますが…」

「え? リリーナこいつの顔好きなの?」

「まさか、興味のない美術品と同じでしてよ」

「お二人とも、本人がここにおりますのでもう少しご容赦いただけませんか」


 ラインハートの話をするリリーナとディードリヒに遠慮など存在しない。一見かわいそうに思えなくもない光景ではあるが、ある意味自業自得なのではないだろうか。


「ふぅん。でもそうね、あまり繊細そうな方には見えないわ」

「“繊細”はこいつから最も遠い言葉だな」

「同感ですわね」

「…俺自身も同感ではありますが、もう少しばかり手心をいただけますと」


 珍しくしょぼくれるラインハート。いつもならば意志の強さを感じさせる吊り目がやや垂れて、眉も八の字に寄ってしまっている。

 しかしそんな彼に向かって、ディードリヒは迷うことなく怪訝な表情を表した。


「手心? 冗談は寝て言え」

「猫を被るのはご婦人相手になさい」

「おや? バレてしまいましたか」


 リリーナとディードリヒの呆れた反応に対して、ラインハートはけろりとした笑顔を返す。その笑顔を見た二人はさらに不快そうな表情で眉間の皺を深め、眉間に皺の寄ったままリリーナはヒルドに顔を向けた。


「ヒルド、グレンツェ辺境伯はこういった方でしてよ」

「そうだオイレンブルグ。こいつにあるのは図太さと健康と剣の腕だけだ」

「あらそうなの、じゃあやっぱり噂は噂なのね。それがいいと思うけれど」


 自ら噂の話を持ち出した割にヒルドは真偽には興味がないように見える。だがそれも無理はない、基本的に普段から耳に入るような噂など所詮眉唾ものであることが定石ゆえに、真偽など気にするだけ無駄なことだ。

 今回ヒルドがこの話題を持ち出したのも、浅い興味と見知らぬ人間と話すために丁度良さそうな話題を引っ張ってきたに過ぎない。


「殿下! 俺の剣の腕を認めてくださるのですか!?」

「あぁもううるさい! 言ってやるんじゃなかった!」

「そのお言葉は俺をフォローしてくださったと…!? このラインハート、感激でございます!」

「めんどくさいんだよお前は、一々大袈裟で!」

「そればかりは本心でございます故お許し願いたいと…!」


 リリーナとヒルドの会話の裏で、ラインハートがディードリヒに向かって飛び付かんばかりに何かを喜んでいる。会話の内容から察するにディードリヒが先ほど放った言葉の中に要点があるのは明白だが、それがなんの言葉だったかをわかってしまったリリーナとしては若干いけすかない話であった。

 しかしディードリヒとラインハートのじゃれあい…もとい言い合いを眺めていたヒルドはくすりと一つ微笑むとその妖艶な笑みのまま口を開く。


「グレンツェ伯は随分殿下と仲がいいのね」

「おぉ、オイレンブルグ様はそのように見てくださるのですね!」

「オイレンブルグ…お前目が腐ってるのか?」


 戦慄といった様子で、ディードリヒはヒルドの言葉に震える。しかし“まるで理解できない”と彼女の発言に身の毛もよだつ思いをしているディードリヒをヒルドは一瞬睨みつけると、すぐにラインハートに向かって笑顔を作り直した。


「殿下の戯言は置いておいて…私、グレンツェ伯にお願いがあるの。初対面で無礼なのはわかっているけれど、貴方にしか頼めないのよ」


 ヒルドは企むような笑顔を隠さずラインハートに向ける。一方でディードリヒからはガヤのように「無視するな」という発言が飛んできていたが、悲しくも会場のざわめきに飲まれていった。


「貴女のお申し出を断れる男がこの世のどこにいましょう? 俺でよろしければ何なりと」


 挨拶程度のリップサービスにヒルドはくすりと一つ笑う。それから彼女は、ずっと三人の様子を伺っていたリリーナの肩に優しく両手を置くと寄り添うように隣に立った。


「私、リリーナととても大切な話があるの。だけど貴方にもきっと殿下と積もる話があるんじゃないかと思って。だから…それぞれで時間を分け合えないかしら?」

「ふむ…」


 ヒルドの提示してきた“お願い”に、ラインハートは敢えて考える仕草を取る。

 しかし、彼の答えが決まっていないはずなどない。


「素晴らしい提案でございます、オイレンブルグ様! 殿下とは幾度交流を重ねても新しい発見があります故、是非その素敵なご提案に乗せていただきたく! さぁ殿下、参りましょう!」

「誰が行くか! オイレンブルグ、お前も何を言っているんだ!」

「何よ、私がリリーナと大切な話があるのは本当だもの。殿下は素晴らしい殿方ですし、私がリリーナと時間を取る意味だっておわかりでしょう?」

「察しがつくから時間を取らせないの間違いだ。僕がリリーナから離れることはない」


 はたから見ればディードリヒがヒルドとラインハートに散々と茶化されているように見えるが、本人たちは終始本気である。

 だからこそ、『このままではいけない』とリリーナは口を開いた。


「ヒルド、その話でしたら後できちんと時間を作りますわ。ですから…」

「だめよ。私は“ここで”貴女と私の友情をはっきり示したいの。だって貴女たちったら私を“賓客”としてここに呼んだのだもの」


 限られた友人をブライズメイドやアッシャーとして式の間そばに置くことは、相手が信頼にたる友人であることを示している。

 お飾りで表向きの友人と言う肩書きではなく、本当の意味で“自分を守り支えてくれる存在である”と、貴族間では当人同士の関係性を周囲に示すためのものにもなっていた。


 しかし今回の式ではディードリヒが原因とはいえ、リリーナがブライズメイドを置かずに式を進行したことにヒルドは拗ねてしまっている。

 彼女は“自分は客ではなくリリーナと信頼関係を築いている存在なのだ”と周囲に知らしめないで今日を終われないと言っているのだ。


「それは本当にごめんなさい…事情は、あるのですが」

「わかっているわ、貴女が原因でないことくらい。大方原因も予想がつくわ。でもベストマンはおいているわよね?」

「ベストマンはシュヴァルツヴァルト公爵が担ってくれていますわ。どうしても指揮と進行を任せられる人間は必要でしたから…」

「あら、なら他にもアッシャーは見繕えたように思うけれど」

「ディードリヒ様が彼しか認めなかったのです」

「なんと!? それは俺では殿下のお役に立てないということでございますか?」

「当たり前だろ。そもそもミイルズは僕の秘書で、お前は遠く離れた辺境領の領主なんだ。最初から立っている場所が違うんだよ」


 やいのやいのとまたディードリヒとラインハートの言い合いが始まる。その姿を眺めながらヒルドは「ふぅん…」と鼻を鳴らした。


「殿下にしては珍しいわね、シュヴァルツヴァルト公爵ってそんなに信用なる方なの?」

「私も最近お話しするようになったばかりですので詳しくはありませんが…ディードリヒ様が信用なさっている人間は少ないですが居ないと言うわけでもありませんので…」


 ここでリリーナの言っている“ディードリヒが信頼している数少ない人間”というのはミソラのことを指す。しかし名言しないのはミソラの“影”という本来の職務を気にしてのことだろう。リリーナの侍女として彼女のそばにいるミソラをディードリヒが信頼しているとなれば、周囲から見た時にどうしても矛盾が生まれる。


「こんなところで出すような話題じゃないだろ…僕はリリーナ以外にそんな話はしない」

「あら、それならリリーナに今度こっそり教えてもらおうかしら?」

「そのようなことは致しませんわ。ヒルドもわかっているのではなくて?」

「残念。もしそこに私や…それこそグレンツェ伯の名前があったら面白いと思ったのだけれど」


 言いながら、ヒルドは悪戯に微笑みラインハートに視線を向けた。しかし彼女の視線の先にいたラインハートはとても落ち着いた様子で静かに微笑んでいる。


「貴方は気にならないの?」

「いいえ、そういったことではございません。ですが俺が望むのは殿下へ変わらぬ忠誠を誓えることであり、褒美を求めているわけではない故やもしれません」

「へぇ…」


 ラインハートの言葉に、ヒルドは『つまらない』と言いたげな表情で目を細めた。そんな彼女の姿にラインハートは気を害してしまっただろうかと口を開いた。


「オイレンブルグ様…」

「いいわ、気にしないで。そんなことより貴方なら話してみても面白そうね」


 しかしヒルドは少しばかり狼狽えたラインハートの言葉を遮るとそのまま彼との対話を提案する。その言葉にラインハートは驚いて少し固まるも、何かを含むように見せかけて裏表の感じられない彼女の不思議な笑みにゆっくりと頭を下げた。


「ありがたきお言葉でございます。ヒルド・オイレンブルグ公爵令嬢様」


 ラインハートの姿を満足そうにヒルドは一瞥する。それから彼女はリリーナに向かって顔を向けた。


「そういうことだから次に行っていいわよ。この男は面白そうだわ」

「貴女がそういったことを口にするのは珍しいですわね?」

「そうね…貴女のことが気になった時以来かしら? そういう意味でもリリーナのそばは飽きないわね」


 楽しげにくすりと微笑む彼女を見て、リリーナもまた小さく微笑む。しかしヒルドの表情はすぐにむくれたものへと戻ってしまった。


「だけどお話はしたいからちゃんと時間は作ってちょうだいね?」

「僕が今日リリーナを手放すと思うのか?」

「何を言っているの? 今の発言では今日の中で時間が欲しいとは言わなかったけれど。何を勘違いしているのかしら?」

「お前な…!」


 先ほどまでの会話も踏まえてディードリヒはヒルドの発言に反応するが、それを『勘違い』と煽られる。止まらぬ子供じみた嫌味の応酬にリリーナは色々な意味で頭を抱えた。


「二人ともやめてくださいませ。埒があきませんわ…」

「はっはっは、リリーナ様の心中お察し致します。とはいえ、これはこれで素晴らしい光景に俺は思いますが」

「…何を言っていますの? 王族と公爵家が歪みあうなど笑い話にもならなくてよ」

「このような小競り合い、小鳥の囀りに過ぎないことはリリーナ様もお気付きと思いますが、如何でしょう?」

「…」


 リリーナは敢えて視線を逸らしながらの沈黙で答える。そしてそんな彼女を見たラインハートは、実に楽しげに笑うのであった。


「俺としましては、皆歳も近いようですし是非輪に加えていただきたいものですな。天上の存在たる皆様ですが、こうしてお話ししてくださいますので」

「…好きになさい。私から言うことはありません」


 少し不貞腐れたような様子でリリーナはぽつりと言葉を返す。

 リリーナ本人としては今の空気の心地よさを感じているが、それはそれとしてラインハート相手に素直になるのも癪に障るのだろう。


「おぉ、ありがたき幸せ。本日は誠に良い日でございますな!」


 ラインハートはそう言って今日一番の笑みを見せた。そして機嫌のいい様子のまま、彼は迷うことなく言い合いの止まらないディードリヒとヒルドの元に向かう。

 しかし新参者の言葉に二人が耳を貸すわけもなく、ますます熱を上げていく二人の言い合いにリリーナは少し困ったように微笑んでから三人に喝を入れるため前に出た。


ようやっとこの四人が揃いましたね。以前この四人で書きたいな〜(要約)みたいなことを言いましたが、書いてみてもぎゃーぎゃーわーわーやかましかったので作家は大変楽しいです。人数の多い場面は話は膨らみやすいしセリフでのキャラ分け大変だしで毎度苦労しますがそれはそれ

それにしても、いつかのどこかに「ヒルドとラインハートは挨拶程度の仲(※要約)」と書いていたんですが挨拶からスタートしましたねあの二人。言うて互いに顔覚えてないだけとかありそうですが


相方に「今回の話のタイトルどうすっか〜」とぼやいたらこのタイトルが出ました。ヒルドとラインハートを示すには大変言い得て妙という意味で個人的には好きなのですが、ラインハートはもう野獣と言うよりはただの大型犬になってしまっているので(身内限定)野獣とは…?

しかし犬というのは狼を源流にした種族ということもあってめちゃくそ強いんでね、案外あいつにはあってるかもしれない。

相方に「(ラインハートが犬だったら)犬種なんだと思う?」と問うてみたらアイリッシュ・ウルフハウンドと返ってきました。名前に源流である狼に近い遺伝子をもつ証である“ウルフ”が入っていたり優しい性格らしいだったりと納得が出来すぎて笑ってしまった


ラインハートは出てくると喧しいので書き分けやすいと言う点で大変楽なキャラなんですが、ケーニッヒが現れると話し方が似ているので面倒になりそうだなぁ〜〜〜〜と白目を剥いております(ばか)

しかしディードリヒのポーカーフェイスをぶち抜いてやかましくできる人間も数が少ないので(そう見えないのは作家が人間関係描くの下手くそなだけです)、ラインハートには今後も暴れ回って欲しいですね

それにしてもラインハートは勝手にキャラが変わっていったのでおもしれー男だと思っています


やきもち焼きヒルドかわいい〜〜〜〜〜〜〜とか思いながら書いていました。本当にヒルドはリリーナが大好きで大変よろしいのですが、作家の頭の中で彼女にリリーナへの恋愛感情はないです。それに似た激重感情はありますが「いい? 友達、つまり本物の友情は世界で最たる財産だって決まってるの。わかる?」とか言いそう

あとヒルドがラインハートとくっつくこともないです。彼らは(ある意味で)同志なので

ヒルドについては他にもいくつかありますが、いつか彼女が言っていたシュヴァイゲン領の次男に会う話は書きたいですね


とにかく二人がいてくれるとリリーナもディードリヒも等身大でいてくれるので書いていて楽しいですね。この四人はもっとわちゃわちゃさせたいのですが、いかんせんラインハートは自領に引きこもっているので接点がない

この四人で単発1話書きたいですね〜


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