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君と歩いていくために僕がやりたいと思ったこと(1)

 

 

 ********

 

 

 王城内、ディードリヒの私室に置かれた隠し部屋に今日は一つの変化があった。

 普段であれば彼が写真の現像をするために薄暗い赤いライトが部屋を照らしているが、今日は本来取り付けられている白い照明が部屋を照らしている。

 その中で、ディードリヒは部屋に積まれた木箱を開けては中身を選別する作業を繰り返していた。


 この長年の積み重ねで増えていった木箱は十箱以上部屋に置かれ、その中には山のように何かが入っていて、彼が作業をしているテーブルにも分厚い本の様なものが何冊も積まれいる。

 ディードリヒはその中の一冊を手に取るとその中にある一枚のページに昨日撮影したルーベンシュタイン一家との写真を丁寧に貼り付けた。


「…僕も、覚悟を決めないと」


 彼の細くふしくれだった指が写真の縁を撫でる。その中で呟かれた一言には少しばかりの震えが混ざっていた。

 テーブルの上に置かれた本たちは何冊か開いたままテーブルに置かれている。そしてその全てにリリーナの写真が敷き詰められるように貼り付けられまとめられていた。

 だがその殆どが写真機に目線が向いておらず、また写真として残すには少し離れていたり画角がずれていたりと奇妙な写真ばかり。そしてそのアルバムと化した本たちに収まらなかった写真たちが、木箱には納められている。


 ディードリヒの作業している机の奥にある壁にはもう一つ机が置かれているが、そこにはフィルムや遮光のできる薬品瓶に入った現像液にその他道具丁寧に整えられてが置かれていた。

 部屋に置かれた本棚には敷き詰まる様に本が置かれ、そこにはアルバムだけでなくミソラの手紙や報告からリリーナの一日をまとめ直し、自らの所感や観察点を書き記したものやリリーナがディードリヒの元に来てから彼女が何を行ったのかを事細かに書いたものを本にまとめたものなどが置かれている。


 特にリリーナがディードリヒの元にやってきてからの記録はミソラからの報告も含め一日も欠かさず書き記されており、日付を初めリリーナが寝起きにまずなんの言葉を発したのか、各時間での食事の内容や食事量の変動、ミソラから予め聞いている予定ど通りに行動が進んでいるかなどを初め、いくつかの部屋に隠し置かれている録音機から回収した内容の書き起こしなど、たった一日“リリーナが何をしたのか”を書き記しただけで何枚もページを使っている本が何冊も詰め込まれていた。


 何年も何年も、賽の河原で石を積むようにリリーナへの憧れを募らせてきた全てが詰まったこの部屋で、彼は1番新しいアルバムに貼られた最も新しい写真と、半年前リリーナと共にパンドラを訪問した際の写真を交互に見つめてから一つの覚悟を新たにする。


「一歩…まずは最初の一歩を踏み出さないと」


 もう一つ呟いたその言葉でディードリヒは広げられたアルバムの一冊を閉じた。そこから再び木箱を開けると、もう一度中にはいった山のような写真を選別し始める。

 

 ***

 

「ごめんねリリーナ、待たせちゃったね」


 大切な結婚式が明日に迫った今日、リリーナは予めディードリヒから呼び出しを受けていた。

 ディードリヒが言うには“今日やることに意味がある”ことをするということで、彼の希望で郊外まで向かうことからある程度歩くことのできる服装にしてほしいと言われいるリリーナは、今集合場所に新しい彼女の秘密基地である例の一軒家で過ごす時のようなラフな服装で集合場所にきている。

 そして待ち合わせ場所である裏門に置かれた、貧相ではあるが荷運び用に作られた馬車の前にディードリヒは約束の五分ほど遅れてやってきた。


「いいえ、そこまで待っていたわけではありませんから」


 普段であれば待ち合わせの五分前には集合場所にいる彼が遅れてくるのは珍しいとは思いつつも、本心で言葉を返す。

 集合場所にやってきたディードリヒは着古した雰囲気の平民のようなシャツとスラックスで現れたので、リリーナは自分の判断は間違っていなかったようだ、とも感じた。


「積み込む荷物が多くて支度してたら遅くなっちゃって。それじゃあ行こうか」

「荷物、ですの…? いえ、今日は何をするのか聞いてもいないのですが…」

「まぁ、ここで話すのはちょっとね…でも怖い話じゃないよ、大丈夫」


 リリーナの疑問に答えたディードリヒは彼女の髪を撫で柔らかく微笑む。しかしリリーナには彼の笑みがいつもと違うように見えた。

 嘘をついている様に見えるというわけではない。だが何か、彼の中の何かが変わったように見える。

 彼の中で何かがあったのだろうと思うには容易い。だが彼が「ここでは話せない」というのならば、それだけ彼の秘密に関わる話なのだろう。


「…わかりました、参りましょう」


 ならば今は考えても仕方がないとリリーナは一度思考を切り替える。


「うん、ありがとう」


 リリーナの返事を聞いたディードリヒは彼女に手を差し伸べ、彼女はその手を迷いなく取る。そして二人の乗り込んだ馬車は、貧相な御者に変装をしたミソラの手によって走り出した。

 二人の座る空間の奥に置かれた、大量の木箱と共に。


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