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神は人まで堕ちれない(1)


 

 ********

 

 

 一月、平和が訪れた。


「…」


 リリーナももうこの光景には慣れてしまったのが我ながら悲しくなっている。


「おはよう、リリーナ」

「…おはようございます」


 今日も今日とてディードリヒは自分のベッドにいるのだ。本当に悲しい、朝一番に顔を合わせるのがディードリヒだと言うことが。


 最初はどちらかと言うと気持ち悪さが感情としては先行したが、最近は違う。正しく身なりをを整えた姿で「おはよう」と言いたい気持ちが高まっているからだ。


 もう寝起きを見られることなど今更なのだが、わかっていても好きな相手に身なりを整えないのはやはり恥ずかしい。


 なので、ふと訊いてみた。


「…貴方、どうしてこう毎朝ベッドにいるんですの?」

「んー?」


 などと言いつつ寛いでいたディードリヒは起き上がると、そのままリリーナの頬にキスをする。


「寝姿も見たいけど、何より朝一番に『おはよう』って言いたいからだよ」


 そしてそのまま朗らかに笑うのだ。


「…ー!」


 朝からそんなふうに笑われてしまうとどうしても弱い。そもそも好きな相手にそこまで言われて心が揺れないリリーナではなく、顔を赤くして黙りこくってしまった。


「どうしたのリリーナ、顔赤くして。かわいい」

「か、かわいいなどと、そんなことはありませんわ! ほら、今日は秘密基地に行くのでしょう! メイドが来る前にお帰りになって!!」


 リリーナはディードリヒを無理矢理ベッドから追い出して、それでもまだ顔は赤い。ディードリヒはその姿を楽しみながら、また頬にキスをして部屋を去っていった。そうは言っても所詮隣の部屋なのだが。


「〜〜〜〜っ」


 自分が一番最初に「おはよう」を言う人間でありたいなどと、嬉しくないわけがない。最近ではもう何かと慣れてしまった点も含め何かと許してしまいそうだ。こんなのはしたないとわかっているのに。


 枕を抱きしめ顔を赤くするリリーナの元に数人のメイドが現れる。彼女らは朝の支度を手伝いに来たのだ。それに気づいたリリーナは一つ深呼吸をしてから、気持ちを切り替えるように支度を始める。

 

 ***

 

 秘密基地でお茶をするのは何度目かだが、二人が思いを通じ合わせてからは初めてのことであった。

 それ故にだろうか、その提案はぽんと飛び出たように現れる。


「膝枕してみたい」

「な…」


 膝枕、それはロマンス小説でも少なからず出てくる恋人同士の行動。

 リリーナも知ってはいるが、勿論やったことはない。


「だめ?」

「そ、そうですわね…」


 また強請るような瞳のディードリヒに良心のようなものを突かれるが、今回はそこに対する感情ではないところで少し悩んだ。一つ深呼吸をして、逸る心臓を抑えてから言う。


「い、いいでしょう」

「やった!」


 許可をしたリリーナの顔はやや赤いが、それを指摘すると膝枕が撤回されそうなのでディードリヒは黙った。

 大布に座るリリーナの太ももに寝転がるディードリヒは、そのままうつ伏せになって彼女のももを撫で始める。


「はぁ、これがリリーナの太腿…柔らかい、いい匂いがする…絹のドレスとよく合うね…」

「あんまり妙なことしてると辞めますわよ」

「やだ」


 腰をがっしりと掴まれた。

 しかし動けないからとあきらめてしまった自分にこれでいいのかと感じはする。このままでは自分は予想より早く変態行動を受け入れてしまう。


 ため息をつきそうになった時、ざぁ、と一つ風が吹いた。


「…いい風」


 風に罪はない。受け入れると爽やかな心地よさが体を抜けた。


 なんだかんだとここは屋根もないのに一番気兼ねがない場所に感じる。裏庭だからか普段は使用人もいないので、そういう部分かもしれない。秘密基地なんて大仰な名前をつけているせいか、本当に誰もいない、二人だけのような、そんな場所。


 ゆるく吹く風を楽しんでいると、ディードリヒがこちらを見つめていることに気づいた。


「あら、如何しまして?」


 そう彼に問うリリーナは笑っていて、ディードリヒはその頬をそっと撫でる。


「この笑顔が僕のものなんだなって…まだ嘘みたいだ」

「!」


 かぁっと頬を赤らめるリリーナ。急にそんなことを言われるとは思っておらず、この関係にまた一つ確かな現実味を感じてしまう。


「好きだよ、リリーナ」

「わ、私も…ぁ、う…言わせないでください!」

「言ってくれないの? また言うって言ってくれたのに」

「…っ」


 久しぶりに恥ずかしさで頭から火を吹きそうになっている。しかし、“自分から愛を伝える”と約束したのは自分で、逃げ場がない。

 リリーナは諦めて一呼吸すると、膝枕に寝転がっている彼を被っている帽子で隠すようにして顔を近づける。。


「あ…愛して、います」


 辿々しい愛の言葉は二人を繋いで、ディードリヒは少しばかり起き上がるとその柔らかい頬にキスをした。


「!!」


 驚いて顔を上げてしまったリリーナに気の抜けた笑顔を見せる。


「へへ、嬉しかったからキスしちゃった」

「〜〜〜〜っ!」


 頬を押さえて顔を赤くしたままの彼女を幸せそうに眺めたまま、それでも、それを考えてしまう。


「あぁでも…やっぱり翼は折ってしまえたらな」

「…まだ諦めていらっしゃらないんですの?」

「だって、もし、もしリリーナが飛べなくなったら、僕がぐずぐずのどろどろになるまで愛してあげれたのに」

「それは何が起きていますの!?」


 予想もしてないタイミングでの狂気的発言に上体が飛び退く。しかしその様子を見て、ディードリヒは含むように笑った。


「…なんだと思う?」

「ひぃ…っ」


 とても恐ろしくて訊くことはできそうにない。かといって想像もしたくないのでリリーナは聞かなかったことにした。

 ひとまず気を取り直してリリーナはディードリヒの肩を軽く叩く。


「流石にそろそろ足が痺れてきましたわ」


 リリーナの言葉に「あぁ、ごめんね」と言いながらディードリヒはゆっくりと起き上がる。それに合わせるように、彼女はゆっくりと脚を伸ばした。


「思ったより痺れるものですわね…」

「本当? 触っていい?」

「絶対にお断りしますわ」


 指をわきわきとさせて期待を見せるディードリヒをリリーナは全力で睨みつける。ディードリヒは「ちぇー」と残念そうに眉を下げた。


「でもありがとうリリーナ、わがままきいてくれて」

「このくらいでしたら構いません」

「本当?」

「こっ…恋人なのですから、このくらい」

「リリーナ…!」


 何かと照れが残ってしまうと反省しているリリーナに勢いよく抱きつくディードリヒ。これ以上ない愛情表現だが、この後を考えると放置するようになってしまったのは絶対によくない。


「すぅー…」

「…」


 ほらきた、と考えてしまう。


「はぁ…久しぶりのリリーナの匂い…最高…落ち着く…癒される…」

「どさくさに紛れて吸うのやめてくださる?」

「やだ」

「…」


 リリーナの顔は完全に呆れきっている。

 ディードリヒはまた城へ向かっていたため一週間ほど不在ではあったが、かといってリリーナとしてはこの行いを許す気はない。



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