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叔父さんはこれでも応援がしたい(3)


「なんとまぁ…」


 ディードリヒの話を聞いたエドガーは、少し困った様子で椅子の背もたれに背中を預ける。それから天井を見上げ気分を整えるように一つ深呼吸をしてからディードリヒに向き直った。


「それ君たち幸せになれる? 大丈夫?」

「意地でも幸せになってやりますよ。リリーナがそれを望む限り」


 彼女がその願いを望む限り自分も諦めるつもりはない。彼女が自分に向き合ってくれる分だけ、自分も彼女に向き合いたいから。

 リリーナに自分の願いを叶えてほしいから、自分はリリーナの願いを叶え続ける…それは確かに両立できるものだ。


「僕にだってありきたりな幸せに対する願望はありますから、心配ご無用です」

「大丈夫かなぁ…おじさんは心配だよ。長続きするものかが一番心配だよ」

「長続きさせたいから、今あくせくやっているわけです。本当に、本当に…死んでも一緒にいたいんですから」

「なるほどね…」


 ディードリヒにしては珍しく強い意志のこもった言葉に何か納得した様子を見せるエドガー。少なくとも今の甥は自分が思っているより自発的に考えて行動しているようだ。


「まぁ、考えがあるならいいんだけどね。大事な甥っ子の結婚となれば力を貸したいと思うのが叔父という立場だよ。そこで話を戻そう」

「話を…どこまで戻そうと?」

「君に要求があるのかどうか、という話まで。まぁ正確には“提案”なんだけど…」

「提案?」


 急に最初の方まで戻った話に戸惑うディードリヒ。確かに弱みを握られたのではと未だ思っている故に“提案”という言葉に少し眉を顰める。


「君たちの新婚旅行の行き先が決まってなかったら、僕はレーゲンを売り込みたいんだ」

「…なぜレーゲンを?」


 確かに提案ではあるが、急な話なのも事実だ。しかし実際、ディードリヒは未だリリーナに新婚旅行の話をしていない。

 二人で行き先を決めるのが理想的なのは確かなのだが、リリーナの場合彼女に任せるとどことも知らぬ海外に飛び出して行きそうなほどの好奇心と行動力を持っているので、せめて候補を上げてから話をしたいというのがディードリヒの本音故である。


「ディードリヒ、君の話を聞いている限り君は新婚旅行での行動でリリーナさんと一緒に楽しめてかつ安全は確保したんじゃないかな?」

「! それは」

「ならレーゲンを僕は推したい。国内旅行でつまらなくないならね」


 確かにディードリヒとしては、エドガーの言う通り彼女と共に楽しむことができて安全が確保できることが最低条件であった。

 やはり海外となると、言葉の壁は勿論だが慣れない場所でリリーナが飛び出した時のことを…考えたくもない。そういった意味では確かに魅力的だ。


「レーゲンなら貿易港だからルーベンシュタインさんにはいい刺激になると思ったんだ。パンドラには海がないからそもそも海が珍しいだろうしね。それでいて、僕が管轄しているところだから安全面も協力してあげることができる」

「ふむ…」


 叔父の魅力的な言葉に少し悩むディードリヒ。

 レーゲンであればリリーナが興味を引きそうな品の数々に出会うこともできるのは確実な上、リリーナは海を見たことがないとミソラから報告を受けているので、その時点で彼女は楽しんでくれるだろう。

 国内でも最も大きな貿易港である以上自分も何度か訪れており多少は地理も覚えている。その上で領主であるエドガーがバックにつくとなれば、安全面も概ね安心してよさそうだ。


「うちの子たちが二人に随分懐いてるみたいだけど、今回は水を差さないよう言いつけておくし…どうかな?」

「確かにありがたいお話ですが、少しうますぎませんか。こちらには何もお渡しできるものもありませんので」

「うーん、こっちとしては純粋な好意のつもりなんだけどね。そういう人間不信なところは変わらないな」

「こればかりは僕の人間性ですので」


 きっぱりとそう言い切るディードリヒにエドガーはやれやれ、と肩をすくめる。そしてどうやら甥が信用しているのはまだ恋人だけのようだ…と内心でため息をついた。


「あぁでも、人間不信って所から考えると今日は君の知らない部分が見れて新鮮だったかな。そうやっていっそ無愛想な方がウケがいいと思うよ」

「そういったつもりでは…リリーナの話をされてしまうとどうにも、失礼しました」


 軽い咳払いで場を誤魔化すディードリヒ。どうやら自分は思っていたより感情的になっていたようだ、と内省していると叔父がまた軽い調子で小さく笑う。


「嫌な思いはしてないよ。なんでもない君のほうが僕は好きだって話。それにレーゲンに来てほしいのにも本当に裏はないんだ」


 そう言ったエドガーは、手に持ったワイングラスの向こうを見つめ遠い日に思いを馳せる。


「いつか君と兄上と、父上も連れてみんなで釣りに行ったのが楽しかったなぁと…君たち二人を見ていたら思い出したんだ。それでエリシアに話をしたら『いいんじゃない?』って言ってくれたから」

「叔父上…」

「まぁ、警戒させちゃったみたいだし取引にする方が楽なら…そうだな、今日見れた君の新しい一面が僕に対する対価ってことで」

「叔父上!」

「あはは、冗談だよ。でも本当に取引にしたいなら何か用意するけど、どうする?」


 少し遊ばれたと困惑するディードリヒに向かって、改めてエドガーは提案を持ちかけた。

 しかしディードリヒは叔父の言葉に対して静かに首を横に振る。


「いえ、そのご好意をありがたく頂こうと思います。リリーナも喜んでくれると思いますので、是非に」

「そうかい? 嬉しいよ」

「ただ…式の後にも予定が詰まっておりまして、直近に予定を組むのが難しい状況ですぐには…」

「僕も人のこと言えないけど君も大変だな…大丈夫、こっちは連絡さえくれればいつでも歓迎するから。その時は良いホテルを押さえさせておく」


 ディードリヒの謝罪に対しエドガーは気前よく微笑んで返した。その笑顔にディードリヒもまた不器用に本心から微笑んで返す。


「お気遣いありがとうございます。当日が今から楽しみです」

「僕もだよ! それじゃあ、話がまとまった記念にもう一度乾杯といこう」

「喜んで」


 嬉しそうなエドガーのグラスにディードリヒが三杯目のワインを注ぐ。それから彼は自分のグラスにもワインを注ぐと、本日二度目の乾杯の音色が部屋に響いた。


エドガー叔父さん腹黒になっちゃった…

本当はこんなに腹の黒い男にする予定はなかったんです。もうちょっとこう、ルーエを大人にしたみたいな落ち着いてるけど人当たりのいい感じにしたかったんですよ

でもディードリヒくんをこう、上回れるとなると…っていうかずる賢い商人たちの中でそんな天然でやっていけるわけないだろ、ってプロットの途中で思ってしまい結果こうなりました。個人的に説得力のある理由ができてしまったのがしんどいです。この話腹黒の割合多いので…

まぁ貴族や商人というのは話術で相手の上を取りより利益を得ないといけないので仕方ないといえばそうなのですが。対になるようにヴァイスリリィの従業員である平民組となぜかファリカとイドナはいい子ですしね。ラインハートはアホな大型犬ですあいつは

ですがこれでまともに喋ってないフレーメン一族はエドガーの妻であるエリシアだけになりましたね。色々とどうすっかな


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