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私の役目と立ち位置(2)


「…それ、何するつもり?」


 ディードリヒの怪訝な視線に、リリーナはさも当たり前のように返す。


「私が自らスパイを行うことにも意味がありますでしょう?」

「は?」


 そしてリリーナから出た一言に、ディードリヒは怒りで表情の温度を下げた。見開いた目にはリリーナへの強い独占欲と怒り、そして仮想であれリリーナがスパイをする相手への恨みで満ちている。


 リリーナが自らスパイ活動を行うなどという危険を犯すということは、身の危険は勿論ディードリヒとの不仲を敢えて噂に流し潜入先の人間に甘い言葉をかけるかもしれない。

 未だ自分の腕に抱きついて離れないこの愛おしい存在が、誰ともしれない他人と腕を組み往来を歩いて嘘でも笑い合うなど、


「それは相手を殺したほうが早いんだよ、リリーナ…」


 考えたくもない、その字面すら見たくもない、聞きたくもない。

 そして静かに、静かで怒りと恨みに満ち大きく目を見開いた彼の表情を見て、声音を聞いて、何より自分を撫でていたはずの手に血が出そうなほど要らぬ力が入っているのを見て、リリーナは一つ大きなため息をついた。


「…貴方がそうなるのはわかっていますから、そのようなことは致しませんわ。元より私も貴方から離れるつもりも、そうでなくともそのようなことが決行できるとも思っておりませんもの」


 そもそもそんな行動が、ディードリヒにバレないなど無理な話である。ミソラが黙っていたところで他の何かから嗅ぎつけるに違いない。


「そんなことになるくらいなら、初めから『リリーナは僕のだから下手なちょっかい出すな』ってその辺の奴らには言っておこう。それがいい、どうして今まで気づかなかったんだろう」

「…貴方の立場を考えますと、あまりいい手段には思えませんが」

「そう? このくらいなら僕がどれだけリリーナを愛してるか伝わるだけだと思うけど」

「一見そうかもしれませんが、周囲から見て“独裁”の気配を与えるのではないかと思いまして…」


 確かに一見しただけではただの溺愛のように見えるかもしれないが、中には“ディードリヒは思いの通りにいかないことは強引に進める人間だ”と思われかねないのではないだろうか。リリーナから見てそれがいいことだとは思えなかった。


「言いたいことはわかるけど、流石にそれは考えすぎだよ。それともそんなに反対するなんて、やっぱり二人だけで生活したい? 君を閉じ込めていい? “ずっと僕といる”っていう愛情表現プロポーズと受け取っていいのかな?」

「言ってませんわ。そのようなことをせずとも私は貴方の私でしてよ、貴方にだけはわからないなどとは言わせませんわ」

「それはそれ、これはこれ。リリーナが僕以外の目に触れるのも嫌なのわかってるでしょ?」

「それで貴方が私の宿願が叶うと言い切れるのであれば、喜んで受け入れましょう。“誰から見ても貴方を幸せであるように努める”という私の宿願が」


 リリーナは射抜くような視線でディードリヒを見る。そしてディードリヒは、その視線を受けて拗ねたようによそを向いた。


「ちぇ…わかってる。リリーナが僕のために考えてくれたことを無碍にするわけないでしょ」

「貴方のそういったところは信用していますわ」

「…意地悪」

「先に意地の悪いことを言い出したのはどなただったかしら?」


 リリーナからすればこの話は喧嘩両成敗といったところである。ディードリヒは時折こうしてリリーナの覚悟に甘い誘惑を囁いてくる故に、リリーナからすれば多少の文句をつけたくなる時もある、という話だ。


「まぁ、真面目に話してもリリーナのそれは考えすぎだと思うよ。僕がこんなにこだわるのもリリーナだけだし、誰かが疑っても結果を出せば何も言わなくなる」

「確かに、そうしてものをそつなくこなせてしまうのも貴方ですから…タイミングを見れば問題ないかもしれませんわね」

「そう思うでしょ? そうなるために頑張ったんだから」


 リリーナの言葉に対してディードリヒが拗ねたようにそう発言すると不意に隣から伸びた手が彼の髪を撫でる。


「知っていますわ。貴方は私が認めた大切な方ですもの、貴方の道のりを否定する輩が現れたら私が平手を入れます。安心なさい」

「…っ!」


 そう言って微笑むリリーナは、まるで母親か何かのようだ。優しく髪を滑る手は温かく、紡がれる言葉は本当にこちらを認め労う優しいものだと伝わってくる。


「〜〜〜っ、それは卑怯だよリリーナ…」

「? 事実を言ったまでではありませんか。何をそんなに動揺しているんですの?」

「はぁ…自覚ないんだもんな…」


 ディードリヒは爆音を立てる心臓を抱えながら大きなため息をつくも、リリーナは何が何だかといった様子で彼を見ていた。

 彼からすれば、いつかに彼女が言っていた「私はずっと貴方のものでしょう」という発言といい、天然な彼女の側面も他人の目に彼女を晒したくない理由なのだが、リリーナが理解することはないだろう。


「まぁその、リリーナの方から交友を断つより、僕が一言言ったほうが波風も立たないだろうからそうしようよ」

「ふむ…」


 確かに、リリーナの側から交友を絶ってしまうと周囲からいらない詮索をされかねない。だがディードリヒが“リリーナとの時間を増やしたい”などの理由で周囲に一言言う分には納得する者もいるだろう。

 その上で、ディードリヒが普段通りに仕事をすれば文句を言われる心配は少ない。

 リリーナのやっている、社交という彼以外の他人に合うような行いそのものを彼が良しとしているとはとても思えないので、むしろ彼なりに平和的な解決を提案しているとも言える。


「確かに貴方の言う通りですわね…ご迷惑をおかけしますわ」

「迷惑なのは周りの人間であってリリーナじゃないよ。僕からリリーナとの時間を奪う奴は全員敵だから」

「誰も奪ってなどいませんわ。それに貴方にもお仕事があるではありませんか」

「うん、仕事辞めたい」

「続けてくださいませ」


 リリーナの発言にあからさまにしょぼくれるディードリヒ。一応彼なりにリリーナが返す言葉は想定しているのだが、それでも辛いものは辛い。


「いやだ…リリーナから離れたくない…」

「式が終わるまでは難しいですわ。流石に諦めてくださいませ」

「無理…死にそう」


 考えただけで心がスカスカになっていく…と萎びていくディードリヒだが、そんな彼をぎゅっと抱きしめる存在があった。


「し、式が終われば、寝室は同じにするのでしょう? そうすれば毎夜共に在れるではありませんか。それに“あの”時間も…」


 そう話すリリーナは震え声で顔を真っ赤にし、視線も逸らしてしまっている。だがソファに座ってから今まで、彼女はディードリヒの腕に抱きついたままだ。


「リリーナ…!」

「ですから! 今そのようなことは気にしていても仕方がありませんわ。おわかりでしたらこのまま抱きしめられていてくださいませ!」

「え〜」

「な、なんですの!? お嫌だと!?」

「勿論だよ、だってさ」


 と、含みのある言い方で言葉を切ったディードリヒは、リリーナに拘束されていた腕をするりと抜くとそのまま彼女を抱き上げ膝に乗せる。


「こっちの方がよくない?」

「こ、これは」

「嫌だった?」

「い、や…ではありませんが、やはり貴方の顔が近いのはまだ慣れ切っていませんので…」


 ディードリヒの美しい容姿が間近に迫るのは未だ慣れない。そんな彼女が赤い顔で視線を逸らすと、ディードリヒはそのリンゴのような頬にキスをした。

 そして突然のことに驚いたリリーナが振り向いて彼と視線を絡めると、ディードリヒは「あはは」と嬉しそうに笑う。


「かわいいね、リリーナ」

「かわっ…知りませんわ!」

「もっとぎゅっとしてくれていいんだよ?」

「…っ」


 再び視線を逸らしたリリーナは、悔しそうに顔を赤くしながらもディードリヒの首に腕を伸ばしそのまま抱きつく。


「あは、いい子だね。かわいい」

「そうやって貴方はいつも私を弄ぶのですから…」

「リリーナが可愛いから仕方ないね」

「…もう」


 リリーナは照れを隠さないもののディードリヒの頭を抱きしめて彼の髪に自らの頬を擦り付ける。その行動にご機嫌なディードリヒは、リリーナに長時間抱きつかれていたせいですっかり痺れた腕を無視しながらリリーナの腰に腕を回していた。


(本当にかわいいね、リリーナ…)


 今はリリーナから見えない瞳に、覚悟と渇望がせめぎ合う炎を揺らめかせながら。


甘い!!!!!!!!!!!!!!

普通に甘い話書いてると恥ずかしくて死にそうになる!!!!!!!!!

でも何度も言うようですがヤンデレがデレデレになると言うことは(以下略)


そしていつかに言った『本質的にリリーナ様は家猫である』ことが証明されたように思います。ディードリヒくん(ご主人様)にだけべったりする猫。顔擦り付けて甘えるのなんかまさしくべたべたに主人が好きな猫のそれ

しかしそこからリリーナに手を出すことはできない(しない)ディードリヒくん。ヘタレめ…

ヘタレの癖に病みモード入ると押しが強いんだよなあいつ。まぁそういうキャラが好きなんですが…やっぱ倫理観ズレてる


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