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記念すべき一周年パーティ(1)

 

 ***

 

 アンムートとバートンが協力してダイニングの机をリビングに持ち込んで、それ以外の人間で全体的な家具をずらした上で予備として置いていた机を持ってきて繋ぎ合わせ、そこに大布を敷き今日集まっている面々が持ってきた花を飾れば…あっという間に会場の完成である。

 後はできあがった料理や飲み物、そして使用する食器を持ってくればパーティの始まりだ。そしてその配膳も、後ほどと決まっているもの以外はすでに女性陣の手によって終わりつつある。


 そんな中本人以外が驚いたのは、ディードリヒが設営に参加したこと。あたりが動き出してすぐディードリヒ本人が当たり前のように参加し始めたので、驚いたアンムートが「いいんですか!?」とややパニックになった。

 しかしディードリヒ本人からすると暇になるのが一番嫌らしく、なんだかんだ参加することになりその分設営は早く終わっている。


 そして配膳に関してもリリーナとソフィアは「自分たちが出迎える側だから」とエマやファリカの協力を断ったが、「みんなでやった方が早い」とミソラに押し切られこちらも女性陣が総員で配膳した分温かなものがテーブルには並んでいる。


「リリーナ様」


 さて、これで準備は万端だ…とリリーナが満足げにテーブルを眺めていると、不意にソフィアの声がして振り向く。しかしそこになぜか彼女はいない。


「…? ソフィ…きゃぁ!?」


 不思議に思ったリリーがあたりを見回そうと顔を上げると、突然背後から大きな破裂音が聞こえ耳を塞いだ。

 そして続くようにいくつも破裂音が聞こえ、収まった頃にそろりと目を開けると、目の前には紙吹雪が舞い髪には何やら細い帯状の紙が乗っているのか眼前に垂れ下がっている。


「え…?」


 混乱したままのリリーナが改めてあたりを見回すと、何やらはしゃぐような声と共に周囲の人間が満足げにハイタッチをきめたりなどしていた。


「ドッキリ大成功だね〜」

「ドッキリってほどでもなくないですか? クラッカー飛ばしただけだし…」

「聞いてアンムートくん、今日お酒ないんだって。私はそれが一番のドッキリだよ」

「誰もアンタの話はしてないわよ。今日は休肝日になさい休肝日に」


 呆然としているリリーナをよそに何やら皆が盛り上がっている。するとそれに気づいたアンムートがリリーナに歩み寄り、少し照れ臭いと言いたげに微笑みかけた。


「おめでとうございます、リリーナ様。あーいや、ありがとうございます…かな」

「アンムート…」

「あれから一年って思うと感慨深いっていうか…環境が変わって、俺たちも変わったような気がします」


 彼は少し思い出を振り返るような様子で少しだけリリーナから視線を逸らす。そんな彼を注視していると、周囲の喜ばしい喧騒が少し遠くに聞こえた。


「…そろそろ母さんの命日なんです。その前にこうして集まれて良かったと思います。また一つ話すことが増えたんで」

「そう言って貰えるのは、私もとても嬉しいですわ」

「店で働くようになってから母さんに話すことがすごく増えて…ソフィアも前よりずっと明るいように見えます。全部リリーナ様のおかげなんです、ありがとうございます」

「お礼を言って貰えるようなことはしていませんわ、私はただ…」


 と、そこまで言いかけてリリーナは何やら背後に気配を感じ振り返る。するとなぜかディードリヒが貼り付けたような暗い笑顔を向けて後ろに立っていた。


「…随分楽しそうだね」

「ディードリヒ様!」


 リリーナはディードリヒの様子に何事かと驚いているが、アンムートの背筋には再び強い悪寒が走っている。

 そんな彼に対して、ディードリヒは確信犯として視線を向けた。


「本当にリリーナを信じてくれてるみたいで僕も嬉しいよ。君のお母様にもリリーナのことはよろしく伝えてあげてほしい」

「えっと…勿論話はしますけど…」


 震えながら返事をするアンムート。真っ青な顔をした彼の背筋に流れる悪寒は止まらず、うまく動かない口から出る声音も震えてしまっている。

 おかしい、さっきまで自分たちは比較的普通に話していたはずなのに。あの時間は幻だったのだろうか。

 春にこんなに寒い思いをするなんて早々ないはずだ。それなのに今は、まるでディードリヒと初めて出会った時のような寒さを感じてしまう。


「これからもリリーナをよろしくね…信じてるよ」

「…っ」


 そう言って、ディードリヒは笑っている。

 笑っているが、目が笑っていない。口元はそれはそれは軽やかに笑っているのに。


「ディードリヒ様」

「ゔぇ」


 すっかり怯え切ったアンムートが蛇に睨まれた蛙のようになっていると、突如ディードリヒは頬を思い切りつねられ表情を崩した。

 彼の頬を抓っている指先を辿ると、心底怒りを表した姿のリリーナが見える。


「うちの従業員を脅迫しないでくださいませ。アンムートが怯えているではありませんか」

「脅迫なんて人聞き悪いなぁ、ただの挨拶だよ。ね、アンムートくん?」

「そ…ソウデスネ…」


 再び向けられた笑顔に対して震えながら返事をするアンムート。その二人のやりとりに、リリーナは何やら不穏なものを察した。


「ディードリヒ様、後でお時間をいただきますわ…」

「リリーナのためなら喜んで。今でもいいくらいだ」

「後でで結構ですわ! 料理が冷めますもの」


 リリーナは一度強くディードリヒを睨みつけると、笑顔を返す彼を見てすぐに顔を他所へ向ける。それから大きく二回手を叩き、会場の注目を集めた。


「全員よく聞いてくださいませ。私から話したいことがあります」


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