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台所のプロローグ

 

 ***

 

 兄妹の住まう家は兄妹の希望に沿ってデザインされているが、兄が庭に意見したように妹であるソフィアは台所について要望を出している。

 要望としてはいくつか提出したが、中でもソフィアがこだわった一つに流し台とコンロの高さがあった。


 この家の台所は流し台もコンロ周りも男性でも比較的使いやすい高さに設計されている。理由としては自分の身に何か起きた場合でも兄が作業しやすいようにと考慮されたもの。しかしソフィアからしても元々住んでいた家の台所は少し低く、場合によって腰を痛めやすかった、という理由もある。


 そして更なるこだわりはコンロの数が三口であることと広い流し台のシンク。コンロに関しては単純に料理の好きな彼女が同時に作れる品数を増やすために要望を出し、流し台のシンクは「広い方が楽だ」という旨をリリーナに話したら何故か特注されたものが設置された。

 この特注のシンクには最初こそ驚いたものの、使ってみると大変使いやすく今ではとても気に入っている。

 そんなこだわり溢れる台所で、その主である少女は今日一つの夢を叶えた。


「ここの住み心地はどうですか? ソフィア」


 台所で自前のエプロンをつけながらリリーナは問う。

 “二人で今日用意する料理を支度する”のがこの場の目的ではあるが、煮込む料理や漬け込んでから処理をするものなどは昨日のうちにソフィアが済ませてしまっている。

 なので今から用意するのは前菜やサラダを作りすでに漬け込んだ肉をオーブンで焼いたり、あとはデザートを用意すれば盛り付けるだけなのでそこまで大仰ではない気軽な場でもあった。

 そう思うと多少の雑談もできるだろう、とリリーナはソフィアに話を振ったのである。


「とっても素敵です! お母さんもここに住ませてあげたかったくらい」


 そう言って笑うソフィアの姿に、リリーナは少し安堵の感情を内心に映す。

 アンムートとの交渉が決まりヴァイスリリィで働くとなった段階で、リリーナとしては利便性と道中の安全を考えできうる限り中心部に越してほしいとは思っていた。

 だが、元いた家は兄妹にとって母親と過ごした大切な家…それ故どう交渉したものかと長いこと悩んでいたのである。


 そんな中あれやこれやと交渉の言葉を考えている時期のある日、店内に置かれる工房の内装について話をしているときにアンムートから「引っ越したほうがいいか」という旨の話をしてきたのだ。

 なので「自分としては利便性と道中の安全のために中心部に来てほしいとは思っているが、母親との思い出を優先したいならば無理はしなくていい」という旨の話をすると、彼は確かに“思い出は家にあるわけではない”と言ったのである。


 どういうことかとリリーナが問うと「思い出はまた見つかったから」と言って彼は鞄から母親の香水と同じ、リリーナが見つけ出したあの瓶を取り出した。

 そしてそれを二人の“決意”なのだと受け取ったリリーナは、下調べをして平民の家らしいものを意識しつつできうる限りいい家を二人に贈ろうと決めたのである。

 そしてそこから半年以上が経とうとしている今、ソフィアから聞けた言葉はリリーナにとって温かいものであった。


「おにいも気に入ってると思います。お庭の植物を見てる時とっても嬉しそうですもん」

「そうですか、そう言ってもらえるのはとても嬉しいですわ」


 リリーナが安堵の笑みを浮かべるとソフィアもまた「へへ」と照れたように笑い、そこから気合い入れようとソフィアは軽く拳を構え闘志を燃やす。


「じゃあリリーナ様、まずはスポンジとクッキーからやりましょ! 生地は休ませてるのでどっちも型用意して焼くだけですから」

「そこまでしていてくれたのですか…ありがとう。今日は貴女が主役ですから、なんでも言ってくださいませ」


 ソフィアは人一倍張り切っているように見える。それもまたリリーナの心を弾ませた。

 先ほど買い物をした食材はサラダに使う葉野菜などの鮮度が問われるものや、焼きたてのパンなどが主たるものそれらはリリーナの厚意で普段平民ではでは安易に手が出せない店のものが用意されている。


 ついでに粉類が足りないとソフィアがふと呟いたのでそれも迷わずリリーナが買い、さらに手芸品にソフィアの目が若干向いたのを見逃さなかったリリーナが裁縫材料もすかさず買い与えた。そしてどれもこれもがソフィアが普段買うことのない高級品である。

 その状況を「申し訳ないです!」と言ってソフィアは毎度抵抗したが、リリーナが迷わずぽんぽんと買い与えるのでやがて何も言えなくなり、今その荷物の全てはミソラの手によって運ばれこの家に置かれている。


 正直ソフィアからすると、全て“勿体無い”ので、痛みやすい粉類は仕方ないとしても、少なくとも布や糸は箪笥の肥やしになりそうな予感もしているのはソフィアからすると我ながら貧乏性としか言いようがない。


「そんなこと言わないでください! 一緒にやりましょ、あたしそれが楽しみだったんです!」

「ソフィア…」


 それでもソフィアからすれば、家に人を招きお祝い事ができてさらに夢だったリリーナとの料理という行動が達成できると思うと、自然と気合いが入る。リリーナという存在は彼女にとってそれだけ人生に大きな変革をもたらした人物なのだろう。


「あたし、おにいと牧場のおばあちゃんとしかお料理したことないから…今日がとっても嬉しいです!」


 そう言って笑うソフィアの表情は喜びと好奇心に満ちていた。そしてその言葉にリリーナは少しばかり目頭が熱くなる。

 兄妹の両親はなぜあのような寂れた場所で二人を育てていたのか、やはり気になってしまう。母親がいた時でさえ二人には同世代で話のできる人間などいなかっただろう。少なくとも自分が調べた限りあの牧畜場に二人と歳の近い人間はいなかった。


 そこに母親の死が重なれば…やはり自分から見ると寂しい日々を重ねていたのではないかと考えてしまう。そうしてリリーナが感じたものが彼女のたった一言に含まっていると思うと心が痛い。


「…わかりましたわ、では端数の食材で品数も増やしてしまいましょう! ディードリヒ様もいらっしゃるのですから料理は多いに越したことはありませんもの!」

「わぁ! 素敵ですね、あたしも頑張ります!」


 しかし目の前のソフィアは今日を楽しみにしてくれていたのだ、自分がしんみりとしても意味はないのだから、それならば自分も気合いを入れなくてはと言葉を放つ。

 そしてソフィアがその言葉に楽しみを増やし喜んでくれている様子を見て、リリーナはまた一つ温かく微笑みを見せる。


ソフィアいい子すぎじゃねぇかなぁ(白目)

とは言いつつ自分の意見を無意識的にゴリ押してる子なのでちょっと我が強いかなとは思いますが、妹属性と中学生程度の年齢に一般人という要素が絡んでいるキャラなのでまぁ強引に出来上がった感は比較的薄いキャラかなとも思っています

下手に相手への感謝とか礼儀をちゃんと忘れないのがいい子ポイントなので、ひねくれ代表のディードリヒくんとかがものを頼まれた時じゃっかん嫌だなって思っても断りづらそうな顔してる様が浮かんで面白いです


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