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「私が誰よりも可愛くしてあげるからね!」(2)


「じゃあ開けるわよ?」

「まっ…!」


 まだ心の準備ができていないリリーナの制止も虚しく、カーテンは無慈悲な速度で開かれた。

 慌ててせめて脚だけでも隠そうと真っ赤な顔で袖を前にするリリーナの姿にヒルドはぱぁ、と表情を煌めかせる。


「すごい! とっっても似合っているわ、リリーナ!」


 今日ここまでで最も輝いているであろうヒルドに対してあわや…と目を瞑りながら震える唇を開くリリーナ。声音すら震えていながらも、一応抗議を申し立てる。


「あ、あの…ヒルド、このドレスはその、丈があまりにも短くありませんこと? 背面はともかく正面は膝程度までしか、裾が…!」

「そういうデザインのドレスなの。畏まった場所に行くわけじゃないからたまにはいいと思ったのよ。最近少し流行っているのかそういったドレスの掲載された雑誌なんかを見かけるわ」

「ははは流行っているんですの!? このような露出、品がありませんわ!」

「言ったでしょう、畏まった場所に行くわけじゃないのだからって。あくまで私服だからできるの。それに今はソックスだけど実際はタイツで脚も隠すから安心して」

「す、素肌など考えられませんわ! 脚を見せるなどはしたないではありませんか!」

「時代は移り変わるのよ、リリーナ。それにしても本当によく似合ってわね…マディ公女が見たら喜びそうだわ」


 感心するようにリリーナを眺めているヒルドに、リリーナは驚きを隠せない表情を見せる。


「ヒルド、貴女マディ様のご趣味を知っていますの!?」

「知ってるも何も、有名よ? エドガー大公様のご息女三姉妹は全員が個性豊かで知られているの。特にマディ様は首都に来る予定があると必ずと言っていいほど大きなサロンを開くから、一番有名じゃないかしら」


 マディの開く首都でのサロンは老若問わず女性に大変な人気で、毎度予約はすぐ一杯になってしまうことで有名だ。

 自身のドレスブランドを持ち、デザイナーとして活躍する王妃ディアナと深い親交があり、かつマディ自身も洋裁やデザインが好きなことで知られているため、彼女はディアナと同じ道を期待されている。


 一般的にサロンと言うと貴族を主宰に、主催の邸宅で開かれる文化人を中心とした集まりだ。絵画や文学などに傾倒している貴族が集まり、画家や詩人を呼んで作品を閲覧、拝聴したり自作の発表などで交流を深めていく。

 そういう意味ではマディの開くサロンは一見珍しいものではあるのだが、彼女の開くサロンでは初歩的な裁縫や上級者向けの小物作りなどを日に分けて教導し、その教鞭のうまさが広く認知されている。


 おかげで女性の教養である裁縫が苦手であったり学び始めたばかりな者から、凝ったデザインでドレスに更なる華を添える小物を作りたい上級者まで、幅広い層に支持されているのだ。

 中には親子で参加申し込みをする家なども見られ、評判は毎度好評である。


「マディ様ほどじゃないけれど、私も人並みに愛らしいものは好きなつもりよ。そう言う意味だとシュピーゲル伯爵令嬢と話が合うと嬉しいわね」

「…」

「リリーナはここに来て一年程度だし、このことに関しては知らないのも無理はないと思うわ。そもそも三姉妹様と知り合ったのでさえ年始のことなのでしょう?」

「えぇ、まぁ…」


 マディたち三姉妹が大公の娘である以上知名度は高いと思ってはいたが、まさかそこまで有名な人物だとは思っていなかった。それこそ長女であるマディは自ら名を売り、将来に役立てているのかもしれない。


 これだけ知れ渡っているほど三姉妹の嗜好性が有名なのであれば、あの時自分が何も言わずとも三人とも己の道を見つけられたのではなかろうか。

 我ながらお節介だとはわかっていたが、これでは本当に“大きなお世話”という話である。


(私の行いとは、一体…)


 別荘での行動を思い出し頭を抱えるリリーナ。しかしヒルドがそんなリリーナの身に起きたことや今の心境を知るはずもなく、何やら店員と話をしている。


「リリーナ」

「なんですの?」


 過去のことを考えていても仕方がない、と頭を切り替えていたリリーナが不意に名前を呼ばれ反応すると、何やらヒルドは自分が今着ているドレスと色違いの商品を持ってにっこりと笑っていた。


「貴女にあげるドレスはそれにするわ、私もお揃いにするから殿下に素敵な私たちを見せてあげましょう?」

「ほ、本当にディードリヒ様の前でこのドレスを纏うんですの!?」

「当たり前じゃない。自分が一番リリーナと仲がいいなんて調子に乗っているあの男の鼻っ柱をへし折ってやるのよ」

「ヒルド! 流石にはしたないですわ!」

「あら、ごめんなさい。『私もリリーナと仲がいいのよ』って証明したいだけだから安心して?」


 うふふ、とヒルドは上品な笑みを浮かべているが、目元は決して笑ってなどいない。リリーナから見れば二人がこうも仲が悪いことに疑問が浮かんで仕方ないが、問うたところでまともな答えが返ってくるような気もせずいっそ押し黙る。


「そうね…髪飾りはボンネットも捨てがたいけれど、今回はヘッドドレスを使いたいから髪型はサイドテールにしましょう。私とリリーナで対になるような位置に結んだらセット感があって可愛いわ」

「!?」

「大丈夫よ、勿論私も同じにするわ。毛先を巻いたらボリュームがついて良さそうね、そうしましょう」


 テキパキと閃きを採用していくヒルドは、同じようにテキパキと店員や侍従に支持を出していく。リリーナはまるで場の空気から取り残されたように呆然とそれを見つめることしかできなかった。

 そしてその呆然と立ち尽くすリリーナの手をヒルドが取ると、彼女は花のようににっこりと笑う。


「これからとびっきり可愛くしてあげるわ、リリーナ。貴女の好きな白百合に負けないくらい素敵にしてあげるわね」

「…」


 なんともご機嫌な友達に向かってかけられる言葉はもはやない。何を言っても、後の祭りなのだから。

 “もう好きにしてくれ”…リリーナの今の心境を表す言葉でこれ以上相応しいものはないだろう。


リリーナ様着せ替え人形にされるの巻

前々からヒルドとリリーナの対等な感じを上手く出せないかなぁと思っていたのですが、相方から「軽く喧嘩でもさせたら? 本音を言い合える仲ってことだし」と言われ閃いたのがこの話でした。っていっても若干言い合いしてる程度なので意図に適っているかと言われると微妙ですが、“互いに対して互いが臆せず意見できる”ということは表現できたかなと思っています


私はロリータファッションが好きなのですが、あまり詳しくはないし商品を買ったこともないです

お高いというのもありますが、個人的には身につけるより人が着ているのを見ているのが好きというのが大きいです

なので調べてみたらロリータファッションってジャンル問わず日本発祥の文化なんですね

じゃあなんでこの話に出てきたのかと言われるとそれはあくまでこの話が架空であるという証明です。架空なんだから多少ファンタジー混ぜてもええやろ、急に魔法使い出すわけでもなし。みたいな精神で描いてます


ドレスのデザインはなるべく具体的に描いたつもりですが、伝わっただろうか…

裾がフィッシュテールになっているスカートが大好きなので入れようとしがちです。そしてフィッシュテールは前側がある程度短くないと“可愛く”はならないので脚出してもらいました。どんまいリリーナ様


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