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ないしょのガールズトーク(2)


「…」

「どうしたの?」

「いえ…不意に“今の話題は果たしてこの雰囲気に適した話題だったのだろうか”と思いましたの」

「まぁ、そうね…多分違うと思うわ」


 そんな短いやりとりの後で、ひよこが三つ鳴く程度の間が発生する。

 その沈黙の中で、耐えかねたように二人の少女は同時に噴き出した。


「ふっ…あははっ、だめね私たちったら、こんな時にまで難しい話をするなんて」

「ふふふ…っ、本当にその通りですわ。もっとくだらない話題で良かったといいますのに」

「ならなんの話題にしましょうか。あぁ、そうね」

「?」

「好きな相手にされたら嬉しいこと、とかどう?」

「! それは少し恥ずかしい気が」


 一瞬にして顔を赤くするリリーナに、ヒルド相変わらずこういった話に免疫がないのか、と思いつつ揶揄うようにくすくすと笑う。


「やだ、普段あれだけいちゃいちゃしてる方が恥ずかしいと思うけれど」

「そうは言いましても…し、してほしいことなど考えたことがありませんから」

「まぁ! 今の言葉を聞いたら殿下は卒倒しそうね!」


 リリーナの返答に今度はけらけらと笑い始めるヒルド。どうやらリリーナの咄嗟の発言は彼女の笑いのツボを刺激してしまったようだ。


「笑うことはないではありませんか。言い出したのは貴女なのですから、続けるのでしたら先に貴女の意見を聞きますわよ」

「いいわ、そうね…私はお姫様だっことかされてみたい」

「ロマンチックな願望ですわね」

「こういった話題じゃあロマンチックな回答以外はないと思うけれど? ほら私は言ったわ、リリーナは?」

「う…そうですわね、彼の方と二人で海辺を歩いてみたいですわ。私は海を見たことがないのですが、ディードリヒ様は陛下に連れられてレーゲンの海に行ったことがあるそうですから…」


 リリーナは本物の海を見たことがない。

 パンドラは内陸に位置している国家だが、父親が宰相である以上外国に出たことはある。しかし仕事で国外に出ていく父親についていったところで呑気に旅行している余裕があるとは言い切れない。


 その上で、プライベートでの家族旅行でも海に行ったことはなかったな、とふとリリーナは思い出した。家族旅行は湖の辺りにある別荘に行くことが多く、それ以外となると花が好きなリリーナに合わせて花畑のある場所が多かった思い出がある。


「海を見たことがないの?」

「ありませんわ。本や絵画で見たことはあるのですが…本物となると、想像もつきません」


 話をしながら、リリーナは年始に王家の別荘で出会ったメリセントという少女を思い出す。

 “生きた魚の泳いでいるところが見てみたい”…そう言って眼鏡の奥にある瞳を輝かせていた少女の見ている“海”とは、一体どういった場所なのだろうか。

 無限とも思われる水面が広がる海には、一体どのような夢があるのだろう。


「ならその願いは絶対に叶えてもらわないといけないわね!」

「そうでしょうか?」

「私はそう思うわ。“初めて”はなんでも好きな人と重ねたいと思うもの」

「!」

「…思いつかなかったの?」

「いえ…はい…」

「やっぱり殿下が聞いたら卒倒しそうね。泡吹いて倒れるんじゃないかしら」


 くすくすとヒルドは笑い続けている。

 リリーナはヒルドの言葉を聞くまで、ディードリヒ本人にこういったことを伝えるなど考えてもいなかった。

 だがディードリヒはよく「リリーナの初めては全部僕がいいよ」と、言うので…こんな願いでもそれは叶うのだろうかとリリーナはなんとなく考える。


「なんと言いますか、私はディードリヒ様がおそばにいてくださることが嬉しいことですから、何かしてほしいというのは…そうですわね、『隣に立て』と言った程度でしょうか」

「だーめ、この話題はロマンチックなものしか受け付けないわ。もっと夢のある話にしましょう、恋人繋ぎで歩きたいとか」

「それは…何もしなくても彼の方は指を絡めてきますので、最早当たり前になってしまっていますわ」


 ディードリヒは何も言わないでいると出先であろうとすぐに指を絡めてくるので、リリーナとしては場所を選んでほしいほどだ。それなのに何度指摘しても相手はそういった話題になると極端に話を聞かない男なので、未だに直っていない。


「じゃあ夜景が見えるレストランで食事とかは?」

「ディードリヒ様がご紹介してくださった店にお気に入りがありますので、機会があると参りますわ」

「そうね…ならちょっと冒険して誰かに見られるかもしれない場所でキス…とかどう?」

「!? そ、それは破廉恥ですわ! 破廉恥! 何を言っていますの!?」


 ディードリヒが思いの外乙女チックな理想を叶え続けている…と少し悔しさを感じたヒルドは敢えて一歩踏み出した提案をする。

 その提案に見事リリーナは顔を真っ赤にして慌て出した。これが見たかったのだ、と思惑通りに動くリリーナを見てヒルドはにやりと笑う。


「普通に大きな木の下とか、ロマンチックだと思っただけよ? リリーナってば…何を想像したの?」

「…っ!!」

「ふふふっ、冗談よ冗談。さぁ、そろそろ寝ましょうか…勿体無いけど」


 顔を赤くするリリーナを堪能したヒルドは、ちらりと部屋に置かれた時計に視線を送る。楽しい時間は束の間と言わんばかりに、もう日付は変わってしまっていた。

 名残惜しさの漂うヒルドを見ながら、リリーナもまた名残惜しい思いを抱える。

 だが明日は二人で約束していたショッピングが待っていると思うと、これ以上は我慢した方が良さそうだ。


「そうですわね、明日もありますから今日は休みましょう」

「名残惜しいけれどそうしましょう。枕の下のポプリがきっといい香りを運んでくれるわ」


 ごそごそと音を立てながらベッドに潜る二人。そのまま頭を枕に預けると、確かにラベンダーの優しい香りが鼻腔をくすぐり、安らぎを与える優しく甘い香りが少しずつ眠気を呼び起こす。


「ん〜、いい香り…落ち着くわ」

「えぇ、安らぐ香りですわね」

「同じことを思ってくれるのね、嬉しい」


 柔らかに微笑むヒルドに、リリーナもまた優しく微笑み返した。


「明日が楽しみですわね」

「わかるわ、お気に入りの店に連れて行くから、楽しみにしてて」

「えぇ、期待しています」


 あれだけ話したと言うのに、まだ名残惜しいという気持ちが表に出てしまう。眠気が広がりつつある脳で何か話題はないかと必死に探しては言葉を溢す。


 この時間がもう少し続いてほしいだけなのに、もう終わってしまうなんて。

 そう思うのに、もう自分の意識は眠気の谷に落ち始めている。


「んん…さすがに、ねむいですわ…ごめんなさい」

「だいじょうぶ…わたしもねむいから…」


 ふぁ…とちいさくあくびをするヒルドを見て、自分ももう意識を保てそうにないと静かに瞼を閉じた。


「…おやすみなさい、ひるど…」

「おやすみ…りりーな」


 ラベンダーの優しい香りが深い眠りへと二人を誘う。明日の陽が登るのを楽しみにしながら、リリーナは意識を手放した。


ベッドの上のガールズトーク…文字は何も間違っていないのにそれだけ書くとややいかがわしい香りを感じるのは私だけでしょうか(バカ)

いつでもどこでもつい堅苦しい話をしてしまう…それは彼女たちの立場がそうさせているのでしょうが、やはりもっと気楽に生きてほしいなぁとは思ってしまいます


リリーナ様は海を見たことがないようです

海はいいぞ、作家は海のない場所に住んでいますが海や海の生き物が大好きなので、是非ともその良さを知ってほしい。行かせてあげられる機会をいつか作りたいですね


そして少女漫画さながらの展開は大体経験済みのリリーナ様。ある意味つまらんと言えばつまらんのですが、この話の焦点はそこじゃないので割愛…してないな。四巻のディードリヒくんの誕生日プレゼント買いに行くデートとかそのままそうだもんな?

お姫様抱っこなんてあの二人は日常茶飯事だし

まぁいいか、一応恋愛ものの必要点は抑えられてるみたいでラッキーです


ですが“バレそうだけど一応誰も見ていないところでキス”はディードリヒくんならやりそうなんですけどね?

リリーナがキレる可能性はでかいですが、なにかカバーし切れない事情でもあるんだろうか


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