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次なる一手は自分の手で


 

 ********

 

 

 今日は一段と寒い。そう思いながらリリーナはその日城からヴァイスリリィへと出勤する。

 季節は冬の中でも一際厳しい時期になっているが、同時にこの寒さを乗り越えれば少しずつ春への扉が開いていくだろう。

 その季節の最中、ヴァイスリリィにて。


「リリーナ様が主催でお茶会を開かれますの?」

「えぇ、近々侍女や親しい友人を招いて小規模なものを…と思っておりまして、イドナ様にも是非来ていただけたらと」


 リリーナが誘っているのは、今日もご機嫌に店内を回っていたイドナだ。イドナは頻繁に顔を見せては贈答用だなんだと理由をつけて商品を購入していくのですっかり店員とも仲がいいのだが、今日はリリーナに話しかけられている。


「大変嬉しいお誘いですが、私が混ざってしまってよろしいんですの? リリーナ様のご友人と言えば、オイレンブルグ公爵令嬢が有名ですもの…侍女の方ならばともかく、私では釣り合いませんわ」

「そのように硬くならないでくださいませ。あくまで身内で開く小さなものに過ぎませんわ。ですので、イドナ様さえよろしければ是非に」


 戸惑うイドナに対して、リリーナは優しく微笑みかけた。その笑顔を見たイドナは少し考える仕草を取り、少し間を置いて返事をする。


「リリーナ様はそう仰られるのであれば…私も是非参加させてくださいませ!」


 いつもの明るい笑顔で返ってきた言葉に、リリーナは少し安堵した。

 先ほどイドナが言っていた通り、友人とはヒルドのことである。かといってリリーナが特筆して仲のいい同性など侍女二人を除けばヒルドくらいなものだが…リリーナとしてはその枠にイドナも入れていきたいのが本音であった。


 この茶会にイドナを誘いたいという旨は予めヒルドに話をつけてあるものの、やはりイドナ本人が本当に来るかは本人次第…そう考えるとまず一歩目は踏み出せそうである。


「ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいですわ。イドナ様とはご縁があってお話をさせていただいていますので、この機会に是非親交を深めることができたらと思っていまして…」

「そのようなお言葉…とても嬉しいですわっ。大好きなお店のオーナー様で、とても尊敬しているリリーナ様にそう言っていただけるなど夢のようです!」

「そう言っていただけるのはとてもありがたいですわ。ありがとうございます、イドナ様」


 何度も話をする度に思うが、イドナはリリーナから見ると少し不思議な女性だ。

 天然気味で明るく、少女らしいように一見見えるが、強かで利発な一面もある。裏表を感じさせず、屈託のない笑顔を周囲に振り撒いているからか彼女の周囲は見かける度に明るいものだ。


 もしかしたら空気を読むのが上手く、自分の在り方と実際の彼女は違う顔…ということもあり得るだろうが、今のところそういった印象は感じない。

 その笑顔が本心で無かろうとも、リリーナとしては評価できるので構わないのだが…ファリカのように安心感があるとも、ヒルドのように対等で頼り甲斐のある印象とも違う、少し不思議な女性というのがリリーナからイドナに対する評価であった。


 この感覚は何かに似ている、とリリーナはいつも思う。なんというか、庇護欲をくすぐられるような頭を撫でたい感じというか…あぁ、そうだ、ルーエやソフィアを見た時に似ている。相手が笑っているとこちらも少し和やかな気分になるところなど特に。

 ルーエやソフィアに比べてしまうと…さらに溌剌で元気のいい部分があるが。


「いつごろにお茶会をお開きになるなどは決まっていますの?」

「まだ詳細は決まっていませんが、今月中にはと思っておりますわ。まだ初旬ですので皆さん予定も立てやすいと思ったのですが…なにかご用事があったでしょうか?」

「いいえ、そういうことではないのです。勝手に楽しみになってしまって…予定が決まり次第お知らせしてくだされば、その日は絶対に空けておきますわ!」


 イドナは変わらず屈託のない笑顔を向けてくれている。楽しみにしてくれているとは大変嬉しいことだが、本当に不思議なほど素直な印象の女性だ。

 まだ若いからなのか、風土的な話なのかはわからないが…フレーメンの令嬢やご婦人と話していると、故郷にいた頃と印象が違い最初は戸惑ったことを思い出す。


 故郷にいた女性たちは常に緊張感のある空気で自分の利益を常に探っているような人間ばかりであった。

 表向き笑っているだけで気の抜けるような相手がいない生活で、今思い出しても王子の許嫁という立場でよく寝首をかかれなかったものだと思う。


 それもこれも、自分が故郷の王妃…つまり許嫁の母親と比較的穏やかな仲を築けていたからではないか、とは思うが。

 王妃はとても厳格な人物であった。無礼な人間に対して非常なほど冷たく、あけすけに欲望を振り撒くような行動を嫌う。


 そういう意味では、あの頃の自分は無欲に近い人間だったと言えるのでマナーや社交だけでなくそういった部分も多少は評価されていたのかもしれない。

 周囲の人間も、王妃と仲がいいような人間に手を出すほど愚かではなかったのだろう。実際、自分が断罪を受けた際に庇うような人間もいなかったのがその証だ。


 あの場にいた誰もが自分を引き摺り下ろせるなら引き摺り落としたかったのだろう、とリリーナは考える。自分が公爵家の人間であるかどうかなど関係ない、ただそこに他家の令嬢が座ればその家はある意味安泰なのだから。

 ただ単に醜聞を楽しんでいた人間もいただろうが、それもリリーナから見ればなにも変わらない。


「リリーナ様とお二人でお話しできただけでなくお茶会にまで誘っていただけるなんて…舞踏会でただ見ていた時には想像もできませんでしたわっ」


 そう言ってイドナはまた少し照れたように笑う。

 正直、ファリカといいイドナといいこういった裏表を感じさせないところを持つ人間には少し拍子抜けしてしまう。


 リリーナにとって、故郷にいた頃に自分を見ていた人間は家族以外全て“他人”だったと、彼女は思っている。

 今のような気の置けない友人はおらず、取り巻きも自分の基準で選びはしたが利害関係からは抜け出せなかった。許嫁である王子は自分を避け、やがて自分以外の女性に現を抜かすような始末。


 今思えば、今この感覚から比べたら気の抜ける時間など家で寝る間際だけだったかもしれない。本来気を抜いていいはずの家族にさえ“心配ない”と貫いてきたのだから。確かにミソラを始め何人かの侍女は多少信用していたが、むしろそれだけだったと言えてしまえる程度の信用だったとも思う。


 だが今はどうだろう、この国の令嬢はいい意味で緊張感のない者が多いせいか、自分もすっかり気が抜けてしまっていると感じる。

 決して皆他人を見下したり、だらしないということはないのだが…暗い腹の探り合いがとにかく少ない。

 王家の別荘に顔を出した時もそうだ、厳しいことを言ってきた人たちでさえ嫌味ではなく正面から苦言を呈してくれる。真っ直ぐな人間関係があまりにも多い。


 たまたま自分が幸運なクジを引いただけかもしれない…そうは思うが、それにしても出来過ぎではないだろうか。

 あまりにも幸運で、むしろ気が抜けない。ディードリヒとの出会いを含めこの幸運を手放したくないと思ってしまって結局緊張してしまう。


「日取りはまだ先だと今お聞きしましたので、当日はこちらからもお茶菓子をお持ちしますわ! 楽しみにしておりますっ」

「お気遣いありがとうございます。ですがお気軽にいらしてくださいませ、小さな集まりですから。私も楽しみにしていますわ」


 リリーナの言葉に、イドナはまた可憐な花のような笑顔を見せ、弾んだ声音がリリーナに真っ直ぐな感情を見せた。


「私、今から待ちきれませんわっ!」


 純粋な瞳は、確かにそう言って温かに喜ぶ。


イドナちゃん、マディやルアナと似た香りを感じています

どこがって言われると基本的に感情で生きてるところですね。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。でも嫌いなものを考えるより好きなものを考えていたい…そういった子なのかなと思っています。そしてその中で、他の人間よりも直感的で感性を信じてるのかなと。直感的な部分が強いのがメリセントやヒルドと違う点でしょうか


でも屈託のないと言いますか、なんか子犬っぽいんですよねイドナって。そういう意味だとルーエとかソフィアと重なるところがあって、リリーナはそれを感じたのかなと思っています

ディードリヒくんとかラインハートは大型犬かな、ルアナとファリカも犬っぽい。ヒルドとメリセントとミソラは猫っぽいですね。リリーナ様は絶対に猫なんですが、お客さんにはツンだけど飼い主にだけデレみたいな家猫だと思ってる


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