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心配の芽/王妃として求められるものとは(1)

 

 

 ********

 

 

 翌日。

 朝食を終え、自分たちの領地へと帰っていく大公一家を見送った後、リリーナは自由な時間を得ている。


 別れ際、マディとルアナが最後までリリーナから離れようとせず、慌てたメリセントは止めに入ってはくれたが結局エリシアに叱られるまで二人がリリーナから離れることはなかった。


 大公一家が旅立った後、ディードリヒはなにやら両親に呼び出され、上王夫妻は「二人でお茶にしよう」と言っていた会話が聴こえていたのでリリーナは侍女二人を連れ庭を歩いている。

 ディードリヒはともかく、上王夫妻とは少し親睦が深められたらと思いはしたが、夫婦の時間を邪魔するほど自分は無粋でもない。


「リリーナ様」


 ふとかけられた声に振り向くと、ミソラがこちらを見ていた。今日も感情を気取らせない表情の彼女は、一見いつも通りの様子でこちらに視線を送っている。


「どうしまして?」

「ここしばらく、気になっていることがございます」

「…何かしら」


 そう言ったミソラの声は、いつもより少し低い。

 彼女の隣に立つファリカが何かを言うような様子もないので、ファリカは話の中身を知っているのだろう。


 リリーナは、ミソラのこの声を知っている。

 こういう時のミソラは、大概自分を心配したようなことばかり言うのだ。


「リリーナ様、もしやとは思いますが…近頃あまりお眠りになられていないのではないでしょうか」

「…何故そのようなことを?」

「生誕祭の少し前より、少し遠くを見ていらっしゃるところをお見かけしますので」

「…」


 “あぁやっぱり”、それが彼女の発言を聞いて最初に浮かんだ言葉。やはりミソラにすらバレている。

 また心配をかけてしまったな、とは思いつつもそれはそれで別の方向に疑問が向くわけだが。

 だがそれでも、しばらく睡眠が浅いのは事実だ。


「少し寝つきが悪いだけですわ。原因はわかっていますから、もう少し自分で解決を試みます」

「…かしこまりました。なにかございましたらすぐにお申し付けください」

「えぇ、ありがとう」


 それだけ残すと、リリーナはひらりと身を翻し二人に背中を向ける。

 この睡眠不足の原因は明白だ。時折見るあの夢が…いや、揺れの収まらないこの感情の問題なのだから。


 ミソラが自分に話をするということは、ディードリヒはとっくの昔に気づいているはずだ。だが彼はそれを指摘する素振りを見せない。彼はどこまで、自分の何に気づいているのだろう。


 この感情に対して、自分の中ではとっくに答えなど出ている。出ているのに、未だに精神が揺れ、心の奥底は理性へ甘く囁き、自分の答えを砕こうとしてくるから解決しない。


「…っ」


 貴方を絶対に幸せにしたい、それだけは変わらないのに。

 いや違う、変わらないから悩むのだ。

 この甘い囁きの向こうにある仄暗いものは、確かに貴方の幸せだから。

 

 

 ********

 

 

「リリーナさんはなんでもできてしまうのね」


 そう言いながらリリーナに視線を送るのはフランチェスカ。

 今日は大公一家が帰ってから一日が経過している。自分たちも明後日には帰らなければいけないからか、リリーナはフランチェスカからお茶に誘われていた。


「なんでも…ということはございませんが、できうる限りこなせるものを増やそうとはしています」


 フランチェスカ、ディアナ、リリーナの三人が集まったお茶会では、今ディアナの話すリリーナについて話をしている。


「リリーナさんはよく私の話にも付き合ってくれるのですよ。新しいお話相手ができてとても嬉しいですわ」

「王妃様のお話はいつも興味深いものばかりで、時間が過ぎてしまうことが惜しいと感じております」

「ふふ、二人は仲がいいのね。おばあちゃんとも仲良くしてね」

「そう言っていただけて光栄でございます、上王妃様」


 和やかにお茶会の時間は流れていくが、まだ誰も本題を切り出してはいない。今はまだ挨拶のようなものだ。


「別荘はどう? 過ごしやすいように使用人たちには気を遣ってもらってるけれど、息苦しかったりはないかしら?」

「とても快適に過ごさせていただいておりますわ。ここに長く住めるということがいかに素晴らしいことかが伝わってきます」

「褒めてくれてありがとう。使用人たちも喜ぶわ」


 朗らかに笑うフランチェスカ。その笑顔にリリーナもまたにこりと笑って返す。


「ふふ、リリーナさんたちがここに住めるようになるまで永く国が続くといいわ。その為には、まずハイマンに頑張ってもらわないとね」

「勿論です。私が必ずお支えします」

「ディアナさんの言葉はいつも心強いわ。あの子をよろしくね」


 笑顔を崩さないフランチェスカは、その表情のままリリーナに視線を向ける。

 だがその視線に感じたものは確かに強い緊張感で、背筋に走るそれを確かに受け止めながら“何かが来る”と内心で身構えた。


「リリーナさんはどんな未来を描きたいかしら?」


 フランチェスカは実に穏やかな声音でリリーナに一言問う。だが視線の緊張感に変わりはなく、この言葉に見たままの意味だけが込められていないのは確かだ。


「未来…その意味は数多ございます。ですので一概に判断しかねますが…。私が感じる限りであれば、“王妃としての姿”ということでお間違いないでしょうか?」

「聡いのね、リリーナさん。そうよ、貴女はどんな形でディビを支えていくのかしら?」


 ディードリヒと同じ、薄い水色の瞳は確かにこちらを見ている。上王妃としてリリーナを見ているフランチェスカの視線は、静かに彼女を見定めていた。

 だがリリーナが自認する中で、自分のやることはいつだって変わらない。


「私はいつまでも彼の方の隣に立ちますわ。彼の方が私を見失わないよう、確かに隣に立ち手を繋ぐのです」

「“支える”のではなく“隣に立つ”のが貴女の選択なのね。では、そうあるために貴女は何をするの?」

「そうですわね…必要なことを挙げるだけでございましたら、それこそ山のように存在するでしょう。王妃として子を成すだけでなく、彼の方と同じ目線で国を思わなくてはなりません」

「それで?」


 自分の言葉に対してフランチェスカが問いを返してきたように、この言葉には続きがある。

 それは彼が言った、確かな自分の支え。


「ですがそれ以上に彼の方の…ディードリヒ様の隣に立ち続けるために必要なことは“自分が自分であること”でございます。常に己を見失わないことこそが、自己と他者を明確にし多角的な視点と調和への一歩となるのです。私はそれを忘れたくありません」


 いつか、確かにディードリヒは言った。“リリーナであることに意味がある”と。それが貴方の言葉ならば、余計な能書など捨ておいて私は私であり続けよう。そして私の夢を叶えよう、貴方を幸せにするという未来への夢を。

 それが、リリーナの中の自分を見失わないこと。

 リリーナは強く真っ直ぐな瞳で、上王妃の視線を正面から受け止めた。


「…そう」


 フランチェスカは、そう一言返すとゆっくりと瞳を閉じる。


「リリーナさんは、強くて逞しいのね」


 そして再びゆっくりと開いた瞳は、どこか満足げな様子であった。


基本的に(1)とかついてるやつの場合、その話の塊が終わるまでは後書きを書かないのですが、今回は半端に別の話が混ざっているのでそこにだけ触れようと思います


なんで話が混ざっているのかと言われると単純に文字数の問題です

「心配の芽」の部分だけだと1200文字というとんでもねぇ短さだったので今の形を取ったのですが、かといってここを入れないのは話的にこのフラグを回収しようとした時つながりが突然になってしまうので入れました


内容に触れますと、リリーナ様はどうやら眠れないようですね

四巻の段階からちらほらとリリーナがぼーっとしている様子などが描かれていますので、覚えてないよって方はお時間あるようでしたら探してみてもいいかもしれません

そしてリリーナもディードリヒの思考パターンが読めるようになってきましたね。まぁディードリヒくんがわかりやすいだけとも言う

早くリリーナ様の悩みが解決してほしいですね


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