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疲れ果てたため息(3)


 ここまでの話を聞いている限り、ディアナの狙いは主にディードリヒで、次点にリリーナだったのだろう。


 “ディードリヒのストーカー案件”を予めマディに吹き込んでおくことで、リリーナに常にくっついているディードリヒで遊ぼうと考えたのではないだろうか。そう仮定すると、確かにその状況は発生しうると考えられる。


 マディたちも、恐らくリリーナよりは年下とはいえものの分別がつく年齢だ。今回のような大事になりかねない話を自分の両親や祖父母の前ではしないだろう。そう考えれば尚更、大事になりづらい範囲でディードリヒを揶揄うことができると考えたのではないか、ということに行き着く。


 だがディアナにとってファリカは予想以上に三姉妹と仲が良かった。なのですでにリリーナを抜きにしたお茶会は始まってしまい、ディードリヒは紳士としてその場を去ってしまう。なんならディードリヒ本人は後でミソラから話を聴ければいいと思っているなら、尚更その場に居る理由はないだろう。

 そのせいでリリーナだけがマディの好奇心に振り回される結果になった…ということではないだろうか。


 如何に視野の広いディアナであっても、完璧ではない。アンベル家とフレーメン大公家の関係性は知っていても、その子供たちがどれだけ仲がいいかまで注視してるかはわからないのだから。

 だからこそ今回は被害を被ったと言えるし、乗り切れたとも言える…。


(どうりで疲れるわけですわ…)


 リリーナの内心を感情にするならば“げっそり”と言うのが正しい。だが話を聞いただけのディードリヒすらあれだけ疲れた様子だったので、普段の彼の苦労に心を向けた。


 ディードリヒの言う通り、リリーナが試されてないとは言い切れない…いや、実際試されていたのだろう。

 彼のやっていることは、規模的にもみ消せないこともないがやっていることが犯罪であることに変わりはない。正直に言ってしまえば、今まで内通者の一人も出なかったのが不思議なほどだ。


 恐らくミソラが隙なく動いていた、ディアナも事情を知っていたので何かしら動いていた、などいくらか理由は考えつくが、それでも漏れがないと言うのは奇跡ではないだろうか。


 だがリリーナ本人が誰かしらに被害を訴えないとは誰も言い切れることではない。その上で、今後内通者がでないとも言い切れないとなれば、一つや二つ試されもするだろう。


 だから誤魔化しがききやすく、かといって下手な嘘は見抜いてしまう“子供”を利用し、その中でも分別がつき口の硬いマディとメリセントを選んだのではないだろうか。


 事が正しく運べばディードリヒの慌てふためく様を見ることができるし、そうでなくてもリリーナを試すことはできる。そういった狙いでの行動で、恐らくあの場には様子を確認するためにミソラのような存在が潜んでいたに違いない。


「ミソラ」

「恐らくあの場にいたのは私の兄ではないかと思われます。兄の隠密は私より上ですので、私が同席している場合の保険かと」

「…貴女の家族構成については初めて聞きましたわね」

「つまらない話ですので…簡単に言いますと戦闘力が高いのが父、情報収集に長けているのが母です」


 ミソラは相変わらず名前を呼ばれただけでリリーナの疑問に答える見事な連携を見せるが、彼女が自身の話をするのは珍しい…とリリーナは素直に驚く。


「私は落ちこぼれですので」

「…信じ難いですわね」

「ディードリヒ様程度に使われているというのはそういうことです」

「“程度”ってなんだお前」


 リリーナから見たミソラの印象といえば、気配なく動きこちらの動きを常に先んじて行動している印象なのだが、落ちこぼれとは如何に…。


「何にせよ、これからどうするかについては考えなければいけませんわね…」

「母上も限度は知ってる人だから、もう何かしてくるってことはないと思うけど」


 腕を組んで考え始めるリリーナに、ディードリヒは言う。


「それには私も同意しますが、問題はフレーメン大公女様方のことですわ」


 ディアナがわざわざ危ない橋を渡ってまで場を掻き回すような人間でないことはリリーナでも予想はつく。

 だが三姉妹についてはまた別の問題だ。初めて会ったのも勿論だが、どう見ても三人は自分よりも子供…軽率な行動をして悲しませるようなことはしたくない。


「マディはすっかり話を聴き入ってたから、もうすっかり気に入られてるように見えるけど…」

「ルアナもだな。あいつは単純だから、あれだけ自分に対して真摯に向き合ってきた人間を気に入らないわけがない」


 言いながら、ディードリヒは深いため息をつく。

 今話している内容が正しければ、少なくともマディとルアナはリリーナに懐いてしまったことになる。


 マディは必ずまた自分たちの関係について根掘り葉掘りと聴きたがるだろうし、ルアナはリリーナに教えてもらった歩法などの訓練についてさらに詳しい話をしたがるだろう。


(あぁ、二人の時間が削れていく…)


 人に好かれる我が愛しの恋人は誇らしいが、こういうことになるから閉じ込めてしまいたい部分は大きい。

 彼女のいいところなど、自分さえ知っていればそれでいいというのに。


「問題はメリセント様ですわね…」


 リリーナは呟く。

 メリセントは二人の姉と違いこちらに対して積極的なコミュニケーションをとってこなかった。


 先ほどのお茶会でも基本的に会話に参加することはなく、ミソラと同じような形で聞き手に回り相槌を返す、という様子しか思い出せない。

 正直に言って、どう接していくのが正しいのか判断しかねる。どうしたものか。


「メリセントは見た通り大人しい子で、本が友達っていうか…積極的に人と関わろうとはしないのよね。私もたまたまあの子が読んでた本の中に話のきっかけになるようなものがあったから今があるような感じだし」

「メリセント様がよく読まれている本はわかりますか?」

「そうだな…学術書とか図鑑が多いよ。メリセントって確か今年で十二歳なんだけど、小さい頃から図鑑を見てることが多くて、気がついたら難しい本ばっかり読むようになってたなぁ」

「ふむ…」


 学術書や図鑑の類をよく読むのであれば、多少共通する話題を見つけることもできるかもしれない、と思うのと同時にメリセントの類稀なる頭脳に感心する。


 学術書に子供向けなど存在しない。つまりメリセントは幾重にも勉学を重ねた大人が読んでいるようなものを十二歳にして読み進めていることになる。その難解さを読み解く頭脳は確かに恵まれた才能を示しているのだろう。


「まぁ、メリセントは基本的に一人でいることが多いけど、全く人と話さないわけでもないから機会を見つけて話しかけるくらいしかないんじゃないかなぁ。それこそ今考えてもしょうがないっていうか」

「それは一理ありますわね。学術書や図鑑の類でしたら私もいくつか齧っていますし、一先ず機会を伺ってみましょう」


 今話したのは三姉妹についてだが、それ以外にも懸念することは山ほどある。

 上王と上王妃に大公夫妻、それにディアナが場を掻き回すようなことをした以上、国王夫妻にも意識を向けなければいけないようだ。


 だがそれ以前に自分のことを考えなくてはいけない。自分の向かっていくこの先を。


リリーナの考えたことはあくまでリリーナの推論に過ぎませんが、基本的には当たりです

違った点は、ディアナはリリーナを試したのではなく単純にリリーナで遊んでいただけ、ということですね

ディアナはリリーナがお気に入りなので、そもそも試そうというつもりはありません。というか、試す試さないに関して言えば常に試されているとも言えるし、常に認められているとも言えます

リリーナの一挙一動は常に誰かに見られているのですから

誰に対してどう対応しているのか、その一つ一つは全てディアナが見ていなくても誰かしらが見ています。それはやがて彼女の評判につながっていく…ディアナが何か行動を起こさなくても、勝手に結果は出るのですから


ただ、今回マディに吹き込んだ情報がやばかったのは、リリーナよりもディードリヒの汚点がデカ過ぎて灸を据えようとしたら計算をミスった、というのが正解です。

なのでリリーナの推論は基本的に正解なわけですね。ディードリヒくんは己の罪を悔い改めて欲しい。絶対にそんなことする奴じゃないけど


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