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王家の別荘(1)


 

 

「王族ってやっぱ別荘も大きいのね…」


 若干引いていると言ってもいい反応をしているファリカの目の前には、小規模な城と言って差し支えない建物が広がっている。


 本日、リリーナ、ディードリヒ、そしてリリーナの侍女であるミソラとファリカ…いつもの一行はフレーメン王国のエーデルシュタイン領へとやってきていた。


 目的はディードリヒが親戚の集まりに出席するにあたって、リリーナにもお呼びがかかったからである。最初こそ部外者である自分が参加するのは如何なものか、と渋っていたリリーナではあったが、それを見越してなのか同じ時期にディアナからリリーナへ一通の手紙が届いていた。


 中身を確認すると“必ず出席するように”との旨が記されており、この一言でリリーナはディードリヒと共にエーデルシュタインへ訪れることを決めた…が、ディードリヒはそれ以前からリリーナに一緒に来るようゴネていたのでそこは無視されていたと言っていい。


「アンベル家は首都にタウンハウスがあっただろ。伯爵家にしては稼いでると思うけど」

「それと王族を一緒にしないでくださいよ。多少稼ぎがあったって、うちはしがない伯爵家なんですから」


 本来伯爵程度の爵位の家で、高価な首都の土地を買うことは難しいと言える。では他の貴族はシーズン中どこで生活をしているのか、というと共同アパートのような集合住宅を間借りすることが多い。なのでファリカのいるアンベル家が持つタウンハウスにはそれなりの価値があるわけだが、何故アンベル家のはそれほどの資産があったのだろうか。


 それはアンベル家の祖先の系譜に由来する。

 アンベル家は元々画商の家系であり、現在もその商売を続けている。なので前任より首都の商会を引き継ぐにあたって爵位を一時的に与えられていた…というのが真相だ。本来、商人から貴族へ成り上がった際によくある一代限りの爵位はある条件によって継続することを許されている。

 この結果、畜産が主な収益であるアンベル領の領主が首都の高価な土地を買えているのだ。


「パンドラ王族の別荘も大きかったりするんですか?」

「あまり変わりませんわ。一回り小さかったような気もしますが」

「どこも王族はお金があるんですね…」

「どうでしょうか。パンドラはフレーメンよりも小国ですから、単純な国力ではこちらの方が遥かに上でしょう」

「なるほど、前にリリーナ様が教えてくれたやつだね」

「よく覚えていますわね。フレーメンは積極的に他国への侵略を行っていた国でもありますし、それに伴う実力を持ち合わせていました。それ故に国として強く育っていったというわけです」


 そんな会話をしながら別荘の庭を歩く。そのさきにある正面玄関を侍従が開けると、この別荘の使用人らしき人物が総出でエントランスに立ちリリーナたちを迎えた。


「ディードリヒ・シュタイト・フレーメン殿下、リリーナ・ルーベンシュタイン様。本日はようこそおいでくださいました。お部屋へご案内致しますので、お荷物はこちらの者にお預けいただけますでしょうか」


 代表と思しき使用人が頭を下げるのに倣って他の使用人たちも頭を下げる。彼らはディードリヒの声かけで頭をあげ、リリーナたちの荷物を預かるとリリーナは侍女二人と、ディードリヒもまた自分の侍従とで二手に別れ別荘の使用人に宿泊する部屋まで案内されていった。

 

 ***

 

 案内された部屋を確認したリリーナは、侍女たちを連れずディードリヒと合流する。その理由は、これから二人で向かう部屋にあった。


 この別荘には、リリーナたちを除いて二人の人間が住まい、七人の人間が滞在している。

 ディードリヒの父母であるハイマン夫妻、叔父である大公エドガー夫妻とその三人の娘、そしてディードリヒの祖父母であるアダラート上王夫妻だ。現在は祖父母がこの別荘で生活し、他の親族を迎えている。


 ディードリヒたちには、旅の無事を知らせる意味も含めて叔父たちや祖父母、何より両親に挨拶する必要があるため、彼らの集まっているという談話室に顔を出すために合流した。


 エドガー一家の三姉妹がその場にいるとは限らないが、大人たちは談話室にて話に花を咲かせているらしい。

 挨拶をするなら今が好都合だということで、まずディードリヒが談話室のドアを叩く。


 返事を待ってドアを開けると、暖かな光を感じさせる談話室に置かれた大きな暖炉にまず目が行った。そして部屋を温めるそれを囲むように、六人の大人がソファに腰掛けている。


「おぉ、来たか」


 部屋に入ってきた二人に最初に反応したのはハイマンであった。その言葉を皮切りに、他の人間も二人に視線を送る。


「遅くなりました。父上、母上」

「気にしなくていい。道中何事もなかったようで何よりだ」

「ありがとうございます」


 父の言葉に礼で返すディードリヒに倣うようにしてリリーナも頭を下げた。するとハイマンは軽く手を振り頭を上げるよう言葉を返す。


「顔を上げろ、皆二人のことを待っていた」


 王の言葉に従いリリーナは頭を上げる。そして改めて部屋を見渡すと、ディアナを始めとした親戚の何人かが視界に入った。どうやら噂の三姉妹はこの場にいないらしい。


「ルーベンシュタイン嬢に改めて紹介しよう。ディードリヒの祖父母…現上王であるアダラート上王とフランチェスカ上王妃、それから俺の弟のエドガー、エリシア夫妻だ」


 ハイマンを含め暖炉の前に置かれたソファに腰掛ける六人のなかで、国王夫妻の座るソファの横に立つ自分達には、別々のソファに座る二組の夫婦がよく見えた。

 上王に大公と錚々たるメンバーに向かって、リリーナは変わらず美しいカーテシーのポーズをとる。


「皆様お初にお目にかかります、リリーナ・ルーベンシュタインと申しますわ。本日は皆様の前でご挨拶できますことを心より感謝しております。以後お見知り置きを頂けますと幸いでございます」


 再び垂れた頭をハイマンが上げるように指示を出す。そこから頭を上げたリリーナが目の前の人間たちに向けて放ったのは優しく咲く花のように美しい笑顔。

 一糸乱れぬカーテシーと揃ったこの笑顔は、より一層社交的なものを感じさせない、自然なものであった。その笑顔には儀式的なものが混ざっているとは思わせない、出会いへの感謝や喜びが映し出されている。


「君が噂のルーベンシュタインさんだね。ここは辺境だが、話はよく届いているよ」


 最初にリリーナへ声をかけたのは上王であるアダラート。彼は一見冷ややかな切長の吊り目をこちらに向けてはいるが、表情や声音は冷静で穏やかなもの。


 アダラートはリリーナに声をかけながら、その姿を観察するように見つめている。リリーナはそれに気付き、敢えて反応をしない。臆して動けば凶となり得ることをわかっているからだ。


「初めまして、ルーベンシュタインさん。ハイマンが紹介してくれたけれど、わたくしがフランチェスカよ。こんなおばあちゃんで申し訳ないけれど、仲良くしてね」


 フランチェスカは柔らかな笑みをこちらに向けてきている。生き生きとしたその表情に老いは感じられず、リリーナとの出会いを喜んでいるように見えた。


「ルーベンシュタインさん、初めまして。僕がエドガーです。甥がいつもお世話になってるみたいだね、よろしく」

「同じく初めまして、私がエリシアよ。こっちも姪っ子と仲良くしてくれてるみたいで嬉しいわ、よろしくね」


 ゆったりとした口調で話し、眼鏡の奥にある穏やかな瞳が印象的なエドガーと、ハキハキとした口調に気の強そうな瞳が印象的なエリシア。二人はなんとも正反対な印象を感じさせる夫婦だ。

 そしてエリシアの言う“姪っ子”とはファリカを指す。彼女の父親の姉がエリシアである。


 第一印象としては、随分とフレンドリーに受け入れてくれたように感じるが、それでも緊張の糸は解けない。この場にいる限り、それは許されないのは自分が一番よくわかっている。


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