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サプライズパーティ(3)


 ***

 

「…ってことがあったの!」


 得意げな態度のファリカにリリーナは少し気の抜けたように微笑む。


「そうでしたのね、確かに驚きましたわ」


 とは言いつつ、ファリカの話を聴きながらとうとうファリカという新参の侍女にまで行動や言動に苦言を呈されているディードリヒの姿に内心でため息をついた。

 目下の者に舐められた態度を取られる王太子とはなんだろうか。だがこれでも表向きは立派に公務をこなしているのだから、いっそ不思議な感覚になる。


 他の貴族たちに引けをとらない外面が幻なのか、今見ている彼が幻なのか…などという考えは所詮現実逃避だ。どっちもディードリヒという男を構成する側面の一つに過ぎない。

 それに気づいたリリーナはまた一つ内心でため息をつく。


「生誕祭と一緒になっちゃって申し訳ないんだけど…改めてリリーナ様、誕生日おめでとう!」


 笑顔で自分を祝福してくれるファリカの言葉に同意するように、大きな拍手がエントランスを包む。温かな拍手に包まれて、リリーナは表情を綻ばせた。


「ありがとう、皆さん」


 温かな空気に返すように温かな笑顔を見せたリリーナは、次にファリカをじっと見た。


「それにしても」


 そう一言切り出したリリーナは、ファリカに向かって一歩詰め寄る。


「貴女、この場を設けるのと交換条件でディードリヒ様の誕生日を黙っていましたわね?」

「うっ…」

「パーティの時の怪しい態度といい…嘘が下手ですか、貴女は」

「た、確かにあの時はうっかりしちゃったしミソラさんにも感謝してるけどぉ…」

「ファリカ、嘘の一つもつけないで社交界を生き抜こうなどという甘言は…許しませんわよ?」

「それとこれは別だよぉ!」

「言い訳無用ですわ!」


 リリーナがもう一歩ファリカに詰め寄ろうと足を上げた時、リリーナの肩をそっと叩く手があった。その向こうではディードリヒが「まぁまぁ」と言いながら少し困ったように微笑んでいる。


「リリーナ、一回その辺にしよう? 料理が覚めると悲しいでしょ?」


 ディードリヒの言葉を聞いたリリーナは、少し考えるような間をとった後ファリカから一歩下がった。


「…まだ少し言いたいことはありますが、貴方の言う通りですわ。ファリカの提案が嬉しいものであることは事実ですし、今日はここまでにしましょう」

「本当!? 嬉しいって言ってくれると、ダメ元で殿下のところに行った甲斐があるよ〜!」


 喜びと安堵を混ぜたような反応をするファリカに、リリーナはやれやれと思いつつ小さく笑う。


「ではリリーナ様、お召し替えと参りましょう。ディードリヒ様よりドレスを賜っております」

「!?」


 そして気配なく後ろに現れたミソラの声に驚いて勢いよく振り向き、そんなリリーナになんの反応も示さないミソラは彼女の背中をぐいぐいと押し始めた。


「や、やめなさいミソラっ、自分で歩けますわ!」

「ディードリヒ様も申しておりましたが急がねば料理が冷めますので」

「わかっていますわよ! 危ないですから背中を押すのはおやめなさい!」


 リリーナはわたわたと叫ぶもその訴えは届かず、和やかに二人を眺める使用人たちやファリカに見送られながら彼女は運ばれていった。

 

 ***

 

 結局流されるように別室へ運ばれていったリリーナは、到着した別室にて待機していたメイドたちの手によって速やかに着替えを済ませるとパーティ会場として用意されていた部屋に案内され、会場の豪華さに驚いている。


 リリーナの好きな白百合を中心に組まれた花束があちこちに飾られ、出来立ての料理たちに装飾のつけられた壁やテーブルが華々しい。そしてリリーナ以外の人間は皆シャンパンを持って待機していた。


「はい、リリーナの分」


 そう言ってリリーナに用意されたシャンパンを差し出したのはディードリヒ。彼の表情を見るに今日のドレスも気に入ったのだろうか、などとつい考える。

 相変わらず彼が用意するドレスは雰囲気が甘めに感じるが、それでもリリーナが好むシンプルで落ち着いたデザインの中にその甘さが収まっていると感じたので、あの頃との違いを感じた。


「ありがとうございます」


 リリーナが差し出されたシャンパンを受け取ると、ディードリヒがある方向に手を差し向ける。その手の先を視線で追っていくと、珍しく人々の中心に立つミソラの姿が見えた。


「では、リリーナ様の二年分のお誕生日、ついでにディードリヒ様の誕生日と生誕祭を祝って」

「「「乾杯!」」」


 ミソラが乾杯の音頭を取るとは珍しい、とやはり思いつつも、グラスを掲げる参加者たちの笑顔が心に染み入っていく。リリーナはその温かさを確かに“嬉しい”と感じた。


 一方でディードリヒは、ミソラの言葉に“ついでってなんだよ”と苛つきつつも隣にいるリリーナが嬉しそうなので一旦感情を脇に置くことに。全く本当にあいつは自分を敬う気がないな。


 乾杯の後の会場は和やかな賑わいを見せていた。この場はやはり無礼講ということで、普段“仕事終わりに一杯”と楽しみをもつ使用人もいるだろうが、そういった者たちも違った楽しみを感じているように見える。

 リリーナは集まってきた使用人たちに一通り挨拶を済ませ、近況などを軽く話した後その場を抜け出し珍しく壁の花となっていた。


「リリーナ様、どうしたの? こんなところで」


 そんな彼女に最初に声をかけたのはファリカ。少し驚いてすらいるように見える彼女の問いに、リリーナは少し申し訳なさそうな表情を見せる。


「その…生誕祭はご家族で過ごす日であると聞いていますので、ここで祝ってもらえるということがありがたいと思う分、少し申し訳ないと言いますか…」


 確かにパンドラにも似たような行事は存在するのだが、とリリーナ故郷を思い返す。

 パンドラではフレーメンとはまた違った地域的宗教が一般的で、複数の神の中の更に最高位とされる主神を祝う祭りが存在する。

 それは主神が世界を創り上げた日を祝うもので、常に決まった夏の一週間程度の期間を国全体で祝うような行事だ。


 各家庭で行うというより、国全体で盛り上げるものなので誕生日が重なろうと“一緒に祝ってしまえ!”と地域の住民全員でむしろ一層盛り上がるのだが…。


「そんなの気にすることないよ。最近は友達や恋人と過ごす人も多いしね。ただヒルド様にも招待状を送ったんだけど、家族の方が抜け出せなそうって返事は来たかな」

「そうなのですか…形は様々なのですね」

「うん、ここにいる人たちにも強制はしなかったんだ。だからみんなリリーナ様をお祝いしたい人たちだよ、安心して!」


 ファリカは花のように愛らしく笑う。

 リリーナにとってファリカの笑顔は安心を感じさせるものだ。彼女が笑っていられる間は自分の周りも平和なのだと、なんの根拠もないのだが不思議と思える。

 だから今も、その言葉には安堵や喜びを感じた。


「そう言ってもらえると救われますわ、ありがとう」

「じゃあほら、リリーナ様はもっと真ん中に行こうよ。料理も取ってきてあげるから一緒に食べよう」


 リリーナを中央へ誘導するファリカ。少し照れつつも誘導された会場の中央へ向かうリリーナの表情は嬉しそうにはにかんでいた。


ファリカ〜〜〜〜〜〜〜〜!!

やっと活躍させてあげられましたね、ファリカ

彼女はあのメンバーの中でアンムートやソフィアに並ぶ「普通の子」枠なのでなかなか濃いメンツに負けがちで…。でもアンムートには「香水を作れる」という一芸があるのでやっぱりそこでも負けていく…

ミソラは空気を消しているのでいいんですがファリカは空気が消えていくキャラなのでもっと出してあげたいです

中途参加なのに一番キャラが濃いのはおそらくラインハートです。なんなんだあいつは


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