Twitterではない……我が名は”X”! SNSを統べる者也!!
2023年。日本の空は青い鳥たちに覆われていた。
「キャーッ、青と白の鳥が襲ってくるわ!」
「早く避難しろ!」
「あ、あれは何だ……!?」
逃げ惑う人々。
彼らの背後にある空には、真っ黒い人影が浮かんでいた。
「クックック……界隈は大荒れだ。滅びゆく世界の、何と美しい事よ」
そう呟く彼こそが、この非常事態を引き起こしている張本人。
その名もTwitterである。
彼は両腕を大仰に広げると、溢れ出る力を確かめるように拳を握った。
「何をやっているの!?」
そこに飛来したのは、全身を緑色のバトルスーツに包んだ少女。
彼女はヒビ割れたコンクリートの上に着地した。
「てめえは来ると思ってたぜ。LINE子」
LINE子と呼ばれた彼女は、緑色の仮面についたアイシールドを開放してTwitterを見つめた。
「こんな事はやめなさいTwitter!」
「サンを付けろよ。俺はお前より五歳も年上なんだぜ?」
「関係ないでしょ!」
LINE子は地面を蹴って跳び上がった。
そのままの勢いで、Twitterに向かって一直線に飛んでいく。
「喰らいなさい、爆撃!」
LINE子の突き出した拳から、小規模な爆発が巻き起こる。
「効かないねえ」
「まだまだぁッ……爆撃! 爆撃! 爆撃ッ!」
Twitterはろくに攻撃を見もせず、軽い動作でひらりひらりと攻撃をかわしている。
その時、LINE子の瞳がキラリと光った。
「油断したわね!」
彼女の右拳の周りに、通常生活では目にする事が無いほど複雑な漢字で構成された文字列が、無数に浮かび上がる。
文字列は彼女の腕全体を取り巻くように絡みつき、一体化した。
「環境依存文字パンチ!」
それは自らの負担も顧みない、自爆覚悟の大技。
彼女の全てを懸けた一撃は、確かにTwitterの身体に突き刺さった。
はずだった。
「その程度か。LINE子」
「……ッ!?」
「今度はこっちの番だ。投稿シュート!」
Twitterの手のひらから、黒い光線が撃ち出される。
「まずい! 投稿ブレード!」
LINE子が咄嗟に放った緑の斬撃が、威力を相殺した。
「まだだ! 反復ッ!」
Twitterは間髪入れず、次の光線を放った。
「ぅあッ!」
LINE子は攻撃をもろに受け、地面に落下した。
「い、一体どうしたら……」
片膝をついてよろよろと立ち上がるLINE子。
そのすぐ隣へ、上空から飛来した黄色い影が着地した。
「大丈夫かい、LINE子ちゃん」
「kakao先輩……!」
kakaoは、LINE子より一歳年上のSNS戦士。
やや影が薄いが、一年前のサーバ火災事件を乗り越えて、さらに強固な戦士へと進化していた。
彼はTwitterの様子を探るように見つめながら言った。
「LINE子ちゃん、環境依存文字は試したか? Twitter君になら有効なはずだ」
「試したんですが、ダメです……効かないんです!」
「本当か? おかしいな……もしかしたら彼はもう、Twitterでは──」
その時。
二人の上に、青いマントをはためかせた一人の戦士が飛来した。
「馬鹿な事はやめろ、Twitter!」
「Facebookさん!」
Facebookは、古株のTwitterよりもさらに古参のSNS戦士。
自分の素性を包み隠さずさらけ出す非匿名な性格から、多くの人に慕われている。
昔はどうしようもない札付きのワルだったという噂もあるが、今では最も信頼性の高い戦士の一人だった。
「一体どうしちまったんだよ、Twitter!?」
「俺に説教するな!」
二人はしばらく空中戦をやり合っていたが、やがて顔面に傷を負ったFacebookが地面に落下した。
「くそッ……俺が仮面をつけていねえばっかりに……」
「Facebookさん!」
「ふがいねえ。こんな時、LinkedInやmixiの野郎がいてくれたら……」
それは、長い歴史の中で霞んでいった戦士たちの名であった。
息を整えるのも束の間。
今度は彼らの元へ、空を覆っていた青い鳥たちが一斉に襲い掛かってきた。
「どうしましょうkakao先輩……!」
「まずいね。流石に僕ら三人だけじゃ、この数はさばききれないぞ」
「くそッ、俺が仮面さえしていれば」
その時。
「どうやら間に合ったようですわね」
絶体絶命の三人の元へ降り立ったのは、グラデーションピンクを基調としたドレスの戦士であった。
「私の後ろに隠れてくださいまし! 隠蔽!」
「instagram姉さん!」
instagramは、kakaoと同期のSNS戦士。
彼女がステッキをかざすと、LINE子たちの姿は背景に溶け込むようにして消え去った。
鳥たちは標的を見失い、右往左往している。
「私だけでは、三人を隠すのは少々骨が折れますわね。手伝ってくださいまし、TikTok坊や」
「了解ッス!」
instagramの声に応えるように、小さな少年がひょっこり顔を出した。
「隠蔽! ッス!」
「そうそう。上手いですわよ、TikTok坊や」
「ありがとうございますッス!」
TikTokはLINE子より五歳も年下の新米戦士だ。
ここ数年で急速に力を付けているが、色んな意味でその実力を不安視する声もまだまだ多い。
Twitterは忽然と姿を消した戦士たちを探していたが、すぐに視界の端に映る違和感に気付いた。
「クックック……そんな杜撰な加工で、俺の目をごまかせると思ったか! そこだッ、投稿シュート!」
黒い光線が、戦士たちのいる場所を的確に撃ち抜いた。
「反復!」
「ぐぁーッ!」
Twitterの猛攻の前に、SNS戦士たちは成す術なく倒れ伏した。
「こんなの……こんなの勝てっこない……」
絶望に打ちひしがれるLINE子。
他の戦士たちも、皆一様に暗い顔をしていた。
「万事休すか」
「俺が仮面さえつけていりゃあ……」
「私たちの物語も、ここで終わりってわけですわね……」
「ッス……」
Twitterは地面に降り立つと、傷ついた戦士たちに手のひらを向けた。
「さぁ、とどめを刺してやろう。投稿──」
誰もが敗北を覚悟した、その時。
「諦めるのはまだ早いぜ」
戦意喪失しかけていた彼らの前に、一人の戦士が躍り出た。
ピンク色のマントの中央に、真っ白い炎が灯っている。
「あなたは……Tinder君……!?」
Tinderはなんやかんやで表舞台に立つことは少ないが、実際は世界中に大量の隠れ支持者を持つ実力派だ。
「行くぞ! 加速!」
彼は一直線に突っ込んでいくと、左右の拳を超高速で繰り出した。
「左! 右! 左! 右! 左! 右!」
「ぐッ……速いッ!」
「隙アリ! 流星一閃!」
「ぐはぁッ!」
Twitterは、初めて苦悶の表情を浮かべた。
苦しそうに後ずさった彼の背後に、また別の影が現れた。
「残念。後ろよ」
「なッ──」
「前後不覚!」
「うがあッ!!」
Twitterは勢いよく吹き飛ばされ、ビルに激突した。
彼を弾き飛ばしたのは、モノトーンのクラシカルなメイド服に身を包んだ乙女。
最近SNS戦士になったばかりの新人、BeReal子であった。
敵の素顔を暴く攻撃に長けている一方で、彼女の変身はたった二分しか持たない事で有名である。
「BeReal子ちゃん! 鳥たちの反撃が来ますわ!」
「私に隠蔽は必要ありません。他の子たちを守ってあげてください、instagram姉さん」
「BeReal子ちゃん……」
BeReal子は、駆け寄ろうとしたinstagramを手で制した。
そして、力なく上空に浮かんでいるTwitterを見上げ叫んだ。
「私の攻撃を受けた以上、誤魔化しは効かないわよ。ありのままの姿を見せなさい! Twitter!」
その声に呼応するようにして、空を覆っていた青い鳥の群れが、一斉に雲散霧消した。
同時に、日本中の空が禍々しい漆黒に包まれた。
見ると、Twitterの青いバトルスーツは真黒く変色している。
そして彼の背中には、無機質な白い翼が四つ出現した。
それはまるで、大空に描かれた巨大なバツ印のようであった。
「何がどうなっているの!? 目を覚ましてTwitter!!」
困惑するLINE子を見つめ、彼は呟く。
「俺はTwitterではない」
「は……?」
「我が名は”X”……SNSを統べる者なり! API制限!」
彼の掲げた手から放たれる黒い波動を浴び、SNS戦士たちは一様に力を失ってしまった。
もう何の技も使えず、動く事すら満足にできない。
「終わりだ……みんな……」
その日、SNS戦士たちは初めての敗北を喫した。
変わってしまったTwitterが、本当の自分を取り戻す日は、まだ来ない。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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