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タマゲッターハウス

虹雲の先は続くもの?(タマゲッターハウス:宇宙の怪)

このお話は『小説を読もう!』『小説家になろう』の全20ジャンルに1話ずつ投稿する短編連作です。

舞台や登場人物は別ですが、全ての話に化け猫屋敷?が登場します。

挿絵(By みてみん)


こちらは星を渡る運送会社ゼロ・スリーチュアン。

星雲全域、星から星へあなたのお荷物運びます。

大きなお荷物、小さなお荷物、あなたの想いも運びましょう。

ご用命は星間ダイヤル0321まで。

今回は医薬品をお運びします。


 夜の大海原を満月の輝きが照らしている。

海面の白波の上を、すべるように水陸両用の運送トラックが走行していた。

後部コンテナの側面には『0321』の数字が描かれている。


 トラックの進む先には小さな島があった。

岸壁の上に明かりの灯った洋館が見えてきた。

島に近づいたトラックは海面から浮上し、宙に舞い上がった。

しばらく飛行し、そして洋館の庭に着陸する。


 トラックから三人が降りた。

一人は筋肉質、精悍な顔つきの壮年男性ダカール。

宇宙船を使った運送業を営んでいる。

もう一人は先ほどまで運転席にいたベン。

ダカールよりさらに大柄で、浅黒い肌である。


 最後の一人は軍服を着た小柄の女性軍人のネイア軍曹であった。

緑色の髪で、耳が少しとがっている。


 その時、洋館の扉が開き、中からメイド服を着た者が3人出てきた。

3人とも頭は猫で、身体は人間に似ている。


 茶色のメイドが来客に声をかけた。


「ゼロ・スリーチュアンの皆様。遠路はるばるお疲れ様です。主人が中でお待ちです」


 これにはダカールが答えた。


「ナグロ博士には俺と軍曹が会おう。ベン、搬入を進めておいてくれるかい?」


「がってんでさぁ。こっちの積み込みはまかせてください。メイドさん、積み荷のところに連れてってもらえるかい」


「かしこまりました。案内させますので、トラックを裏手にご移動願います」


 ベンはトラックの運転席に戻る。

赤猫と白猫のメイドがトラックを案内している。


 ダカールと女性軍人は茶猫のメイドのあとについて屋敷に入り、奥の部屋に通された。

奥の部屋には片眼鏡をつけた者がいた。その頭部は黒い猫であった。


挿絵(By みてみん)


「やあ、半年ぶりだね。ネイア・ビュープラステッド軍曹にダカール船長。遠路はるばるご苦労だったね。こんな時じゃなければ、うちに何日か逗留してもらいたいところだね」


 黒猫の言葉に女性軍人のネイアが答える。


「こっちもそうしたいところだよ。ナグロ博士。残念ながら今回は一刻を要する。薬の搬入が終わったら、すぐにアルファ星に向かう」


「君たちにも吾輩(わがはい)が事前にデータを送っているが、いちおう薬の説明をしておくね。これは蒼血症(そうけつしょう)の症状を抑えるものだ」


 蒼血症は、辺境の惑星アルファで数ヶ月前に発生した伝染病である。

感染すると血液内の免疫機能の暴走し、様々な健康障害を発生する。

空気感染することから、急速にその星で被害地域が拡大していった。


 黒猫が杖を振ると、部屋の壁に飾られた大版の絵画がモニターに変化した。そこに人体の血管モデル図が表示される。


「血液には栄養や酸素を運ぶ赤血球、ばい菌や毒物に対応する白血球、血管の傷を修復する血小板などが入っている。蒼血症はこれらがまともに機能しなくなり、他の重大な病気にかかりやすくなるんだ。血管が青くなったように見えるから、蒼血症の名がついた。とくに青く変色した白血球が正常な細胞を喰い荒すんだ」


 画面を見ていたダカールが黒猫に声をかけた。


「ナグロ博士の作った薬を投与するとどうなるんだ?」


「この薬の機能は三つ。一つめは蒼血症ウイルスの増殖をにぶらせること。二つめは免疫力を抑えて暴走の被害を下げること。三つめは身体の新陳代謝を促して体力を回復させること。吾輩のシミュレーションでは、投与してから一日ないし二日で改善がみられるはずだ。もっとも、アルファ星での臨床試験が必要だけどね」


 そこでネイアが口を挟んだ。


「ナグロ博士。今のところ、他の医療施設では薬を作る目途はたっていない。ナグロ博士がいち早く薬を完成できたのは、やはり博士の主研究に関係しているのか?」


「いかにも。この蒼血症ウイルスに似たものが、アナザーテクノロジーの産物で確認されている。抗アレルギー剤の一種で血液の免疫暴走を抑えるものだ」


 アナザーテクノロジーとは、未開発の惑星の遺跡などで発見される産物やその製造技術などである。

現在の星々の文明とか異なるもので、外宇宙や異次元からきたものと考えられている。


「吾輩の調査では、今回の伝染病もアナザーテクノロジーが原因の可能性がある。奇病が流行り始めるより前に、惑星アルファに怪しげな機械が持ちこまれたのだよ。しかるべき検疫をしないとこうなるのだね」


「本来、アナザーテクノロジーを発見した場合には、宇宙軍に報告することが推奨されているのだがな。今回の件では報告はなかったようだ」


 ネイアの言葉に、ダカールも大きく頷いた。


「まったく、ちゃんと手続きを踏まないとろくなことがないな。その点、うちの船は宇宙軍の審査も通っているから安心だ」


 ダカールの所有する宇宙号スリーチュアン号は、ダカール自身がとある惑星の遺跡で発見したものである。

未知の技術が使われており、通常の宇宙船より高速で移動できる。

船の解析は今でも続いており、ナグロ博士がそれを担当していた。


 こうした船はロストテクノロジーが悪用されないよう、軍による監査も行われている。

ネイア軍曹は軍用品の移送でもたびたびスリーチュアン号を利用しているが、監視も兼ねているのだ。



「ナグロ博士。スリーチュアン号の解析はその後はすすんでいるのか?」


 ネイア軍曹がきくと、ナグロ博士は首を横に振る。


「シミュレーションで試しているが、たいしてすすんでないよ。あ、そうそう。新人君の生体パターンで興味深いデータがあったよ」


「新人? ヨーイチのことか? あいつがどうかしたか?」


「ダカール船長。そのヨーイチくんのことだよ。あの船の構造や残存物から、かつての乗組員がどのような人物であったが推測しようと試みている。その試算データとヨーイチくんの体質がとても似ているんだね。もしかすると、彼ならスリーチュアン号の隠れた能力を引き出せるかもしれないよ」


「スリーチュアン号の隠れた能力……。もしかして、人型ロボットに変形できるのか?」


 ダカール船長は、自分の宇宙船が人型になるのを想像した。



 挿絵(By みてみん)



「船長。さすがにそれは無理があると思うぞ」


 ダカール船長の言葉にネイア軍曹がつっこみを入れる。


 その時、ダカール船長の左手首の端末がピピッと音を立てた。


「む。ベンの積み込みが終わったようだな」


「そうか。では急いで惑星アルファに向かおう。ナグロ博士、われわれはこれで失礼する」


「吾輩の作った予防薬をスリーチュアン号の全員に服用させておいてくれたまえ。アルファ星の宇宙港は検疫されているはずだが、万一のこともあるからね。スリーチュアン号の船速は銀河でトップクラスだ。特効薬を確実に最短時間で届けてくれると信じているよ。君たちの航海の無事と、アルファ星の皆の快癒を祈っているよ」



 * * * * *



 どこまでも、無限に広がる宇宙空間。

色とりどりの星々の輝きを背に受け、一隻の宇宙船が航行している。


 挿絵(By みてみん)


 貨物運搬用高速船・スリーチュアン号である。

手足を引っ込めたカメにも似た外観で、鈍足なイメージを持たれることもある。

が、その船は業界でもトップレベルの船速を誇り、顧客からの信頼も厚い。


 操縦桿を握るのはもっとも若手の航海士ヨーイチ・ナナスである。

彼はおとなしい性格でありながら、確かな技術と責任感を持って船を操っていた。


「長距離ワープポイントまで向かいます。全速前進!」


「お、だいぶ慣れてきたようだね。任せるぜ。ヨーイチ。それからベン。ワープポイント周辺の状況はどうなっている?」


「宇宙船の通行量、星間気流の軌道、いずれも異常なしでさぁ。船長。む? たった今、長距離通信で磁気嵐のニュース速報が来ました。でかいなこれは」


 ベンは自身の操作している画面を全員が閲覧できるスクリーンの一つに投影した。

それを見たヨーイチの表情が曇った。


「これは……もしかして、予定していたワープコースが使えないっ?! だ、大至急、う回路を確認します!」


「落ち着きなさいって。ヨーイチ。まずはこれを食ってなさい」


 操縦席の隣に立った乗組員が、ヨーイチに焼き菓子の乗った皿をさし出した。

スリーチュアン号の客室係兼コックのクロウである。

緑がかった長い髪を後ろで束ねた男性だ。


 ヨーイチが操舵室(ブリッジ)を見回すと、すでに配り終えたのか他の者たちも焼き菓子を食べていた。

大食いのベンはもぐもぐしながら、他にも三個も持っている。


 予備席に座ったネイア軍曹がクロウに声をかけた。


「ラム酒の香りがほどよくきいて、味を引き立てている。相変わらず見事な腕前だな。クロウ」


「おほめにあずかり恐悦至極。フッ……」


 クロウはキザなしぐさで前髪をかき上げた、


「いただきます。クロウさん」


 ヨーイチは右手は操縦桿をもったまま、左手で焼き菓子をつまみ、かじりついた。

そんなヨーイチの様子をみつつ、ダカール船長は声をかける。


「ヨーイチ。船速はそのまま、しばらく当初の航路をとれ。ベン。迂回コースの候補はでたか?」


「へい。船長。現在使えるコースでは、中距離ワープを繰り返しになりまさぁ。アルファ星への到着予定は三日ほど遅れそうですぜ」


 ベンが端末を操作すると、正面のスクリーンにいくつかのコースが表示された。


「三日遅れか。燃料と食料は問題ない。しかし……」


「到着が遅れれば、アルファ星の被害が拡大する。そろそろ惑星だけでの封じ込めも限界に達しつつある」


 ダカール船長の言葉にネイア軍曹が続ける。


「ではネイア軍曹。予定していたワープポイント近郊にあるイプシロン第四星団。こちらの航行許可をとりつけてもらうことはできますかい? 大至急」


「イプシロンだと? 事故多発星域に何を…… あ、そういうことか。航行許可は私が乗っているならすぐにとれる。ベン、通信を借りるぞ」


 ネイア軍曹は予備席に通信コンソールを出して操作を始めた。


 ヨーイチがダカール船長に振り返った。


「船長。イプシロン第四星団は不特定の宇宙気流が渦巻いているんですよね。スリーチュアン号なら乗りきれると思いますけど、そこへ行ってどうするんですか? 気流の勢いをうまく利用すれば通常空間での速度アップはできます。けど、近道にはなりませんよ?」


「それがなるんだよ。近道にな」


 ダカール船長はニヤリを笑った。




 * * * * *



 スリーチュアン号はイプシロン第四星団に入った。

ここはチリのような星間物質やガスの帯が多数流れている。

不定期に流れの変わる気流をヨーイチの操船で対応しつつ、中心部まで進んでいった。


 その先には虹色のガスに包まれた空間があった。

何本もの気流が渦をまく中心部が、赤色からオレンジ、黄色、グリーンへと、次々と色が変化する。


 ダカール船長はほっとしたように言った。


「よし。ちょうど最活動時期に到着できたぜ。ヨーイチ。あの中には天然のワープゲートがあるんだ。行先は数分おきにランダムに変わる。ルーレット・ゾーンとも呼ばれている」


「ちょっと待ってください。船長。それって、船がどこにワープアウトするか予測できないですよね。いったいどうやって……。あ、ひょっとして……」


 ネイア軍曹は立ち上がって操縦席の隣まで歩くと、ヨーイチの肩にポンと手を置いた。


「私が援護する。ヨーイチは最短コースへのワープアウトがイメージできれば、そこに突入すればいい」


「はぁ、またですか……」


 ネイア軍曹は右手をヨーイチの肩においたまま、左手はヨーイチの左手に重ねた。


 顔を赤らめて身を縮こまらせたヨーイチの姿に、ベンが声をかける。


「もうちょっと力を抜きな。若いの。マイペースでいいんだよ」


 クロウもからかうように言った。


「いい女性に手を握ってもらうんだ。役得だと思いなさい」


「は、はい。なんとかやってみます」


 ヨーイチは、二・三度深呼吸をして右手の操縦桿を握り直した。 

ネイアの予知能力とテレパシー能力の力を借り、ヨーイチはワープゲートの行先を予測する。


「見えたっ! 十五分後にアルファ星と同じ星域につながります。スリーチュアン号、ワープ航法に移行します」


 ヨーイチは隣にくっついているネイアを見た。


「ネ、ネイアさん。もう大丈夫です。座席に戻ってシートベルトを締めてください。ワープしますよ」


「いや、予知の成功率を上げるため、このままで行く。ヨーイチはいつも通り跳べばいい」


「わかりました。なるべく振動をおさえます。では、いきます」


 スリーチュアン号はガスに包まれた空間に突入し、異次元空間へと消えた。



 * * * * *



 宇宙船スリーチュアン号がワープアウトし、通常空間に戻った。


 即座にベンが現在位置と目的に座標を再確認し、正面スクリーンにも投影した。

惑星アルファは一時間程度の航行で到着する距離にある。

当初の予定より大幅に早く到着できそうだ。


 クロウがベンの座席に寄ってきて、ハイタッチをした。


 大きく息をついたヨーイチに、ネイアが声をかける。


「見事な操船だ。ヨーイチ。まったく揺れなかったぞ」


「ははは……。なんかハイになってました。あの時、スリーチュアン号と一体になって完全にコントロールできてたような気がします」


「へぇ、まるで熟練の航宙士みたいなことを言うじゃないか」


「いつもこうならいいんですけどね」


 ヨーイチとネイアのやりとりを聴きながら、ダカール船長は黒猫のナグロ博士の言葉を思い出していた。



 もしかすると、彼ならスリーチュアン号の隠れた能力を引き出せるかもしれないよ……


挿絵(By みてみん)


以下は名前の元ネタ……


 ヨーイチ・ナナス航海士:上のイラストで右から2番目


  平家物語の弓の名人、那須与一より。

  前作『宇宙砂漠の幽霊船』で超長距離射撃からイメージした名前。



 ネイア・ビュープラステッド軍曹:上のイラストでは一番右


  ギリシャ神話でアルテミスの戦車を牽く鹿ケリュネイアより。

  ビュープラステッドは玉虫のこと。平家物語で、屋島で扇を掲げた女性玉虫より。



 ダカール船長:上のイラストでは真ん中


  『海底二万里』と続編『神秘の島』のネモ船長の本名ダカールより。



 クロウ・ホーガン:上のイラストでは一番左


  平家物語の判官・源九郎義経



 ベン・ムサーボ:上のイラストでは左から二番目


  平家物語の武蔵坊弁慶



 ナグロ博士


  『なーご』と鳴く黒猫



 スリーチュアン号:


  ナンバープレートが0321ですが、元ネタではありません。

  『海底二万里』『神秘の島』のノーチラス号(Nautilus)の逆読みです。


腹田 貝さまから、ブルーレイパッケージ風のイラストを頂きました。

挿絵(By みてみん)


なお、ダイヤル0321の他の作品へはこの下の方でリンクを張っています。

※下の方の四角の囲みの『ダイヤル0321』をクリックしましょう。

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スリーチュアン号:登場作品
ダイヤル0321
― 新着の感想 ―
[良い点] ベンさん! 焼き菓子モグモグしながら操縦席で新人をあったかくサポートする姿が素敵です! クロウさんも、ウイットに富んだ言葉回しで、キザが感じも嫌味なく様になってます! スリーチュアン号…
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