続・広い部屋
「ええ、読みました」
彼女はスマホから顔をあげた。荷物の少ない広い部屋の中で。
「前回のお話をこんな風に書いてくださったんですね。」
「とても面白いですね。あんなに苦しかった時間だったはずなのになぜか不思議と嫌な時間じゃなかったように感じました」
「実は今日もまだ仕事に行けていません。
文章の続きを書き起こしてくれませんか?」
「わ、口説かれてるー」
男の子は面白がるように言った。無邪気な下心も透けていた。
「それで、おおむね正解です」
「お時間はありますか。『爽子』はせっかちなんです」
作中の主人公の名前を言った。明らかに自分をモデルにしている主人公の女性だ。
お相手の少年は作中で名前が明かされていないから呼びかけることは、できなかった。
幸いにも彼には時間があって、その時間は爽子と一致した。10時25分、家のチャイムが鳴らされた。
広くて、網戸がきれいで、持ち物の少なくて、そして広すぎる部屋に今は一人じゃなかった。なんとも奇妙な気分がした。
紅茶をすすめて、ティーカップが一つしかないことに気が付く、かと思えばティースプーンは二つある。一つは友人にもらったものだ。
少年はマイボトルを取り出した。
ダイニングテーブルに二人。爽子は紅茶をひとすすりした
「上司が今日休むなら明日は来てねって言いました。」
「あーー。」
言いにくそうな顔をした。
「なんですか」
「うーん。そのう、典型的な無理解ですね。なんというか勝手に素晴らしい上司に囲まれているときいてそういった理解にもあふれているのかとおもってました」
男の子は苦い顔をして自分のハーブティーをひとすすりした。
「連休はどうでしたか、ゆっくりできましたか」
爽子はカップをテーブルに置いて「同僚と遊んできました。」朗らかに答えた。
「タルトを食べ放題の店に行ってきたんです」
「それはいいですね。楽しそうです」
お菓子に手を伸ばす。市販のクッキーを皿に移したものだ。
「タルトは、どれもおいしくって。
「最初の一口はおいしくって」爽子は最後まで朗らかに答えた。
「じゃあ、キスは最後にしましょうか」
「するんですか?」
「するとしたら、ですよ。最初の一口だけ甘いなんてことになったらいやですからね」
「いえ、昨日、思ったところだったんです。わたしは何を求めているのか。
足りないのは、同性にかこまれているから、異性の中にあるんじゃないかって。私は、看護師らしくいつも女性と一緒に働いているんですよ」
「えー。僕の男性性がお相手したいーー」直接的なことをいった。
「違いました。昨夜年上の男性と会ってきたんです。でも私の話を聞いた感想は職場の同僚と同じものでした。
全然違いました。いえ、全然違うというのは全然違いますね」
「違うところはありました。たしかに。でも、職場の同僚と同じものでした。」
もちろん、あなたにお相手してもらうというのは全く違います。と、彼女は釘を刺した。
男は爽子の頭に手を伸ばした。髪の毛をつかむのかと思えば、手櫛で優しく梳いた。
頭に寄り添わせるようにうごかす。
最初の一口をかじり取った。
以上




