異形の天才魔導師
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異形の天才魔導師
登場人物:
グラウリー:大柄な斧戦士
マチス:老練な短槍使い
トッティ:若い鈍器使い
ボケボケマン:オークマスクの魔導師
エイジ:蒼の魔導師
トム:商人
ベル・ブルジァ:闇の巫師ブルジァ家の力を継ぐ者
※
「――もうトモトモには会えただろうか…」
グラウリーは窓からトールズの街の方向を見やった。街の彼方に見える地平線には、赤々と沈みかける太陽があった。時は夕刻――。
ラヴィ達を送り出した後、戦士達は再び黒衣の怪異の弱点や居場所を特定する為の作業に取り掛かった。鍵は図書室の秘密の保管場所に隠された数冊の古書にあると思われた。彼等はそれ等を何度も読み、調べ、どこかになにがしかのヒントはないものかと必至に探す。ボケボケマンとエイジはそれ等の作業と一緒に、時折ジルの様子を見に行っては呪いの進行状況を調べたり、それを防ぐ手立てがないかと考え込んだ。
皆それぞれが自分にできる事をやっていた。
しかし、心の奥底では焦りを感じていたのも事実だった。死霊達の長、全ての元凶であるルキフルがここ最近全く現われないという事実。最悪弱点などを発見したとしても、彼が姿を現さなければ倒しようなどなかったのである。
ジルの呪いも今どのくらいの進行速度なのか、後どれくらいで再び変化が起きるなどという事は実際の所殆どわからぬ。
(何故現われぬ、ルキフル――)
誰もがそう思っていた。
「ベル……」
グラウリーは図書室の机に一人座って壁の方を見続けているベルに声を掛けた。その手にはバルティモナの水晶球が握られている。
「…そろそろ…奴が姿を現すかもしれん――」
そう言って肩に手を置く。ベルに告げられた真実、父親の呪いが進行しつつもそれを解く手立てがない事に気遣っての言葉のつもりだった。いくら強いとは言え、十代後半の少女にはショックが大きすぎると思った。
「そうね……」
だが、帰ってきた言葉は思いのほか落ち着いて聞こえる。肩越しに後ろを振り返ったベルの顔を見て、グラウリーは一瞬たじろいだ。
その顔は一見いつものベルの顔に見える。だがその眼の奥に潜んだ光を見た彼は、いつだかと同じようにその眼に何か眼に見えぬ力を感じる。脳裏を黒衣の怪物がよぎる。
「……ベル――?」
「わたし、わかったような気がするの…」
「………」
「ルキフルは…姿を現さなかったんじゃない。きっと…あたしに呼ばれるのを待っていた…。何だか、そんな気がする――」
淡々と喋るベルの顔は実際はそうではなかったけども、どこか口元が歪んでいるような錯覚にとらわれた。グラウリーは何かを言いかけようとしたが、言葉にならない。ベルの手中の水晶球にふと眼をやると、はっと驚いた。
平時は細かな星が僅かに明滅しているだけの水晶球は、今やベルの手の中に有ってその星々が球の中で渦を巻いて回転しているように見えた。彗星の狂乱のように踊り狂うその様は、グラウリーに言い知れぬ漠然とした不安を投げかけた。
(何かがベルに起こる――)
そして、夜がやって来た。
真夜中の十二時を過ぎたブルジァ邸では、夜襲に備えてホールで待機する者達とジルの警護をする者、仮眠を取る者とに別れている。
ホールの古びた大時計が、真夜中の二時を告げた時だった――。
「…来る!」
ホールで待機していたベルが、声を上げた。
窓から外の庭園を覗いてみると、門の辺りに蒼白い光の群像が見えたのだった。
「仮眠している者達を起こせ!戦闘体制だ!」グラウリーの声が響く。
ちらりとベルの方を見ると、ベルはそのエメラルドグリーンの眼を爛々と輝かせて門を見据えている。
明日に備えて寝た方がいいと言ったのだがベルは聞かず、またいつものように起こしても目覚める事のない深い眠りに落ちる事も今日は無かった。それはまるで何かの到来を予感しているかのようだった。
「出るぞ!」トムとマチスをジルの護衛につけ、グラウリー、エイジ、ボケボケマン、トッティ、そしてベルは館の前に出る。
「ギマル達をトールズに分散させているから戦力が低くなっているのが少し心配だが――」
「大丈夫だグラウリー、俺達に秘策がある。頭を抑えてしまえばアンデット軍団は自然と瓦解するはずだ。グラウリーとトッティは雑魚にここを抜かれないようにしてくれ!」
エイジが胸ポケットの紅い液体が入った試験管を取り出した。
「――わかった。ベルは玄関のすぐ前へ。形勢がもし悪くなったらすぐに邸内に逃げ込むんだ」
「………」
しかしベルはじっと門の蒼白い発光体達を見据えている。
「ベル!?」
「――え?……う、うん……」
「行くぞっ」
ボケボケマンとエイジが門まで走る。その途中で蒼白い発光体がやがて、数々のアンデット軍団の燐が発した光だと知り、その中央にいる背の高い光こそが彼等を操る闇の王だと知る。
「うっおおおぉ!!」
二人の魔導師の掌が紅く光る。アンデットの先頭集団にその光を二人同時に投げつけると、それは手前の地面で大きな爆発を立てた。(先手必勝)と、先頭部隊が崩れその姿があらわになったルキフルに、エイジが走りこむ。試験管の封を破り紅い液体で両掌をべったりと濡らすと、エイジはその両手でルキフルの頭に飛びつき、がっしりと掴んだ。
「ウオォ!」
ルキフルは体を揺すり、手をもがかせて喘いだ。しかし頭部を掴んだエイジの手からはバチバチという火花が散っていて、その魔法がルキフルの自由を幾分奪っていたと見える。ボケボケマンはそれを雑魚に邪魔立てされないようにと、周りの敵を紫電の魔法で退かせた。
「す、すごい!何なんだあの魔法!」
ベルを玄関前にかばい、それよりも若干門寄りに前に出て館を守るトッティが叫んだ。
「やっこさん出てきたばっかで悪いがな、何もしねえうちにくたばってもらうぜ!」
エイジは更に力を込めると、両掌から漏れ出す火花も更に大きくなった。その火花は夜闇の中にあって周辺を煌々と照らし出すほどに凄まじい。ボケボケマンの魔法でたじろいだアンデット達も、その太陽と命の輝きにも似た火花を前に立ち竦んでいる。
「あれか!秘策とは!」
グラウリーは斧を持つ手を強く握り締めた。
「うおおおぉ!」
エイジが声を振り絞ってありったけの力を出した。閃光が幾筋も闇の中に走ったかと思うと、稲妻の走るような轟音を立てて、ルキフルのいた辺りが爆発を起こした!
何が起こった――!とグラウリーが思った時、彼は左脇を影が走ったのを感じた――!
「ベルッ!」
影は、ルキフル、その者であった――。
エイジと戦っているはずのルキフルが、グラウリーの脇を通り過ぎてベルをかっさらおうとしている。
「うおっ!?」
エイジとボケボケマンは爆風によって吹っ飛ばされた。煙が風に流されてルキフルのいた場所を見ると、そこには首なしのゾンビーの残骸が一体転がっているだけであった――。
「な…変化の術…っ!?」
ボケボケマンとエイジは、同時にブルジァ邸の方角を見やった。
*
「フ、フハハハハ――!」
乾いた笑い声がいんいんと夜空に響いた。
「我がまやかしの術にまんまと引っかかりおったか――」
「ルキフルッ!」
グラウリーが吼える。
「それ以上動くな!来ればこの娘を殺す!」
「うっ……」
ルキフルは右手でベルを抱え、左手貫手でベルの頭を刺し貫こうとする動作を示した。
「ほう――!こうして直に触れてみるとわかる。さぞかし覚醒し始めたようだな――」
ベルの顔を見て血のような色の口を愉快そうに歪めながら、不気味に笑う。
「何を…!」
「動くな!……他の者になど…わからんよ――なあ、ベル・ブルジァ……待った甲斐があったというものだ……」
しかしベルは恐ろしいルキフルの顔が近くにあっても全く動じた風ではなかった。むしろ冷徹な顔をしてルキフルを睨み返す。
「そうね…わたしの中にあるものが、何だか今ではやっとわかる――…だけど、全てあんたの思い通りなんかにはさせないわよ!」
ルキフルに首根っこを押さえつけられながら、手に持った水晶球を掲げてみせた。
「水…晶…球よ…力を出して――!」
「ウ…!オオオォォォ……!」
すると水晶球から、あの白い光が漏れ出したのだった。
(あの白い光なら、ルキフルを弱らせる事ができるはずだ!)グラウリーはそう考えた。だが――。
「ク…クフフフ……」
勝ち誇った含み笑いの声が、白い光の晴れ行く中から聞こえた。
「い…いつまでも――その力、通用すると…思うな――。我はその光の力を押さえ込む術を――研究している……!その研究も、最早完成間近という所まで…来たのだ……!」
「なっ!」
「さあ――水晶を……よこせ…。そしてお前はジルと共に、永劫をさまよう我が僕となるのだ――」
ベルの頭を掴んで、片手で高々と上げた。もう一方の手で水晶を取ろうとする。
頭がキリキリと痛んだ。凄まじい力だ。だがベルは、憎しみに満ちた目でルキフルを見やると、叫んだ。
「ふ…ざけるんじゃないわよ…!」
そう言うと、再び力を振り絞って水晶をルキフルの眼前に掲げた。
「うおぉぉお!」
既に途絶えたはずの心臓が、波打ったような気がした。背筋に冷たいものを感じた。
それは人間からリッチに転生した時に全てを捨てたはずの感覚であった。だから実際の感覚としてそれはルキフルを貫いたのではない。だが、生を――まがりなりにも死を超越した、しかし一個の生命体である事には変わりが無い彼の本能は、その眼光に久しく忘れていた恐怖というものを呼び起こさせた。
再び、水晶球が白い光を、さっきよりも強く発する。
「ウォオォオ!」
弾かれたようにルキフルはのけぞった。その体の前面部分からは煙がもうもうと吹き上がっている。
「はぁ…ああぁ…!まさか!ベル・ブルジァ!儂が想像していた以上の…力を持つというのか!?」
明らかに黒衣の怪異はその力に恐れをなしていた。手を放したベルから、じりじりと後ずさる。
「永劫の闇に還りなさい――ルキフル・ブルジァ!」
ベルは再度水晶をルキフルに向ける。
「ヒ…ヒィィ……!」
ルキフルは顔を手で覆って、背を向けて門の方へと滑るようにして行った。
「待ちなさい!」
「待てっ!」
水晶から白い光が溢れ、ルキフルの背中を焼く。
「――ィイッ!」
だがその逃げる速度は素早い。グラウリーやベル達は段々とその幅を広げられて行った。
「ベルがやったというのか?」
エイジは遠目にルキフルがこちらに向かって飛んで来るのを見た。
「逃げようとしているのか!」
迎撃しようとしたエイジだが、爆風の影響でやや体が言う事を聞かぬ。その隙にルキフルは門の横の塀を飛び越え、闇の中へと逃げ込もうとしていた。
「くそっ!」
エイジが毒づいた瞬間――。
一つの異形の影が、その後を追うようにして素早く消え去った。
「!」
「エイジ!無事か!」
ルキフルと共に闇の中へと消え去ったアンデット達に残されて、エイジは門の所で立膝をついていた。
グラウリー達がそこに駆けつける。
「大変だ――グラウリー!」
「どうしたんだ!?」
「ボケが、ボケの野郎が――」
トッティはそこで、エイジと一緒にいたはずのボケボケマンの姿が無い事に気がついた。
「一人であいつらを追って行っちまったんだ――!!」
※
エイジのその言葉は誰もが予期しなかった言葉だった。
逃げたルキフルを、ボケボケマンが一人追って行ってしまったのだという――。
言われて漆黒の帳が落ちた周囲を見回すも、既にルキフルの姿もボケボケマンの姿も見当たらぬ。
「どっちの方角へ!?」
「あっちだ」
ダメージを負い肩を貸してもらって立ち上がったエイジは、ルキフルが引き連れていたアンデット達が引き潮のように闇の中へと走り去って行くのを指差した。ルキフルのように高速移動のできぬ彼等は、緩慢な動作でルキフルの後を必死に追ってゆくのだった。
「グラウリー、追いましょう。ボケボケマンとはいえ一人でルキフルを負うのは危険だわ!」
グラウリーが頷くと既にベルは厩舎の方へと走った。いつものベルにはない速い判断だ。
「俺も行く!」
ベルが引っ張ってきた馬の一頭にグラウリーが乗ると、エイジが後ろにまたがった。トッティ、ベルもそれぞれ一頭ずつまたがりアンデット、そしてルキフルの行方を追って行った。
アンデット達はこぞってトールズの原始林の中へと脚を踏み入れてゆくようだった。グラウリー達がブルジァ邸を訪れた時は大陸の南から抜ける森だったが、ここはトールズから北西あたりに位置する場所である。
見えない何かを嗅当てるように迷い無く進む亡者達を唯一つの道しるべと心得て、彼等は後をつける。
携帯用のカンテラに火を灯すが、原始林の樹海に包まれた夜は不気味な程に暗い。
だが、ふいに亡者達はピタリとその歩を止めた。
「どうした――進め、道を示してくれ――」
先程までの、まるで生きているかのような動きをよそに、彼等は全く動かぬ。…やがて――積み木が崩れ落ちるように彼等はバラバラになって大地に転がってしまったのだった!
「なんだと…」
「クソッ!アンデット達からアジトがばれない為に術を解きやがった――!」
エイジは虚空に向かって吼えるように叫んだ。
「エイジ……」
途端にベルは先程までの厳しい形相とは打って変わって、エイジの胸中を心配する顔立ちでグラウリーに視線を注いだ。「………」しかしグラウリーとてこの闇の中、何の道しるべも無しにルキフルの行方を掴む手立てがあろうはずも無く――様々な事が頭や胸を去来したが、何よりも今はボケボケマンの事が気にかかった。
「クソッ、ボケの野郎……!」
エイジの苦々しい声が夜闇の森に響き渡る。
*
闇の中を駆けていた。
遠くを滑るように飛んで行く蒼白い光を見失わないように、そしてその光を発している者に気付かれないようにと、つかず離れずの距離を保ちつつ高速移動を繰り返す。
その男の顔には人間のものではなく、醜悪な豚の顔をした緑色のマスクがかぶられていて、闇夜の中マスクからわずかに覗く双眸はまるで本当に人間のものではないように爛々と輝いているように見えた。
――ボケボケマンがどうやって高速で移動するルキフルを追う事ができるのか――。
彼の姿はある場所から一瞬にして姿を消し、そこから三十歩程離れた場所へと一瞬にして姿を現して、その一連の動作を繰り返してルキフルを追っていた。テレポートと呼ばれる近距離瞬間移動術を駆使した高速移動法である。
二十数年前の三つどもえの戦争時に端を発するというこの移動術は、本来機動力に劣る魔導師部隊にして強襲を可能とさせた戦法だった。この戦法の導入により近世の魔導部隊は大いなる変化を遂げる。土煙を上げる事もなく、音も無いこの高速移動術を初めて実用化させた三大勢力の一つアルバール魔導共和国は、この戦法を用いて数に勝るカシミナ騎士軍団を打ち破ったのだ。
とはいえこの移動術はテレポートの術を多様する為にその作戦移動可能距離は極めて短いとされ、そしてそれを用いるには常人では耐え切れぬ程の修行を積んだ上級魔導師にしかできぬという欠点も持ち合わせている。
だが――この天才魔導師は、それを苦ともせずにルキフルを追う。
まるで恨みある仇を逃すまいとするように――だが彼の本心はマスクの下に隠され誰も知らぬ。それを知っているのは彼唯一人でしかないのだ。
(三十分程移動したか…)
相変わらず光を見失わないように細心の注意を払いながら後を追う。辺りは三百六十度樹海、樹海、樹海だらけ。既に彼等は深い森の懐にすっぽりと抱かれている。
「!」
突然眼の前の光が地面に落ちて、消えた。
その場所にテレポートしてみると、そこから下は崖になっていて――というよりも小さな盆地のような場所になっていた。崖の上から伏せて下を見下ろすと、盆地の中に僅かに光が見える。その光に僅かに照らされた周囲には、何か石版のようなものが幾つも立ち並んでいる事に気がついた。
(墓標――!ここは墓地か――)
光は墓の間をすり抜けるように滑ると、崖の一角に埋まるようにして建てられている、大きな鉄門のついた石造りの建物の中に入って行ってしまった。
崖から露出している建物の部分はそれほど大きなものではないが、その奥に空間が広がっているような作りのようである。
「………」
ボケボケマンは両手で小さなルーンを切る。すると煙と共に彼の手の中に小さな二匹の青色の小鳥が現われたのだった。
「頼むぞエチゼン」
それぞれ小鳥の脚に小さなメモを巻き付けると、手から飛び立たせた。魔術によって召喚された小鳥は、森が真っ暗闇なのにも関わらず元気よく羽ばたいて行った。
そうしてボケボケマンは崖を降り、扉の開いたままになっている建物の中に入った。中には薄明かりが灯っており、入ってすぐの所に地下へと降りる階段がある、ボケボケマンは音を立てないように注意しながら階段を降った。
随分長い階段である。ボケボケマンは地底に潜ったような気がして、この階段こそが現世と黄泉を隔てる境界線であるような気さえした。
かびの臭い、そしてなんとも言えぬジメリとした嫌な臭いが鼻につく。やがてようやく階段を降りきった所は、天井が高く広々とした石造りの部屋となっていた。
「………」
薄暗い部屋の真ん中程に蒼い光がぼうっとたたずんでいる。
「――ワシを追ってきたか――……」
光が低い声で言った。
どうやら怪異の巨大な背中であったそれは、ゆっくりとボケボケマンの方を向き直って彼をねめまわすような視線で見る。薄明かりの中に蒼白く浮き上がるそのしわがれた顔は、かつて見たリッチのデスマスクを思い出す。
煙はもう出ていなかったが、水晶の白い光にさらされて半分焼け爛れたその顔は、ボケボケマンが知っているどんな顔よりも醜く邪悪に見えた。
「お前一人…か…」
「そうだ」
「ク…クク――」
リッチはさも可笑しくてたまらぬ、といった風に。
「………」
「ベル・ブルジァのあの力は想像以上であったが…たかが魔導師ふぜいがノコノコとワシを追って来て何を……仲間に知らせて共に来ればせめて少しは違うものを…クク――そのような事を今言ってももう遅いがな――異形の魔導師よ」
「何をしに来た――だと?」
ボケボケマンはゆっくりとルキフルとの歩を狭めた。いやらしそうに笑い続けるルキフルを見、マスクの下の彼の口からもまた、自然と笑みがこぼれた。それはいつもの彼からは考えられぬほどに邪悪に歪んだ笑み。浮んだものは――歓喜!
ボケボケマンは両掌に炎を燃え上がらせた。炎に照らされて彼のオークマスクが紅く浮かび上がる。ルキフルは一瞬、そのマスクの中の双眸が不気味な光を帯びたように見えた。
「殺しに来たのさ、お前を!!」




