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第二の故郷

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第二の故郷



登場人物:


グラウリー:大柄な斧戦士ウォーリアー

ラヴィ:女性鍛冶ブラックスミス

バニング:暗殺者アサシン

マチス:老練な短槍フェンサー使い

トッティ:若い鈍器メイサー使い

ボケボケマン:オークマスクの魔導師

エイジ:蒼の魔導師ブルーメイジ

トム:商人

ギマル:部族出身の斧戦士ウォーリアー



 その場にいる誰もが一瞬凍りついたように動けなかった。

闇の中にぼおっと浮かび上がる顔、そして眼が、生者を渇望するかのように彼等を見下ろしていた。


「ろ、老人…!?」

「生きて…いや…死んで…いる」

 エイジらの魔法の光がやがて闇に包まれていた中央部を完全に照らし出した。

そこは床が階段のように高くなっていて、上に巨大な玉座が据え置かれている。古く汚いが威厳を感じさせる――その玉座にのけぞるようにして老人は座っていた。


 脚を隠すほどに丈の長い、かつて聖の力を秘めていた法衣は最早古より伝わる禁術によって呪いがかけられている。そのローブから肘掛に伸びる手は骸骨のように骨が浮き出して見え、皮一枚の甲の先の指は醜く節くれだって人間のものとは思えないほどの醜悪さを醸し出していた。

そしてその老人の顔――。

灰色がかった顔色にしわくちゃの頬。後頭部からは白く妖しい輝きを放つ銀髪が、針金のように放射線状に伸びて固まっていた。


 血の色のように紅く染まった口をまるで悲鳴をあげたような形のまま開けている。その口の中からは肉食性動物のような鋭い牙が覗いていた。双眸が眼の前の誰かを凝視したまま固まって、その瞳の中にさきほどの闇のような漆黒を宿らせたままにしている。その眼はなるほど恐怖に見開かれた眼のようであった。


「リッチだ――リッチの死体だ…」

エイジは震える手でリッチの死骸に触れようとして、やめた。

「どうして…」だが、誰もその問いに答えられようはずがなかった。恐らくこのバルティモナ山を支配していた『闇の王』リッチがいつの間にか、何者かによって殺されていたのだ。誰がそんな事を予想できただろうか。


「死んでからそれほど経っていない」

 ボケボケマンがリッチを覗き込んでそう言った。眼にした誰もが一瞬恐れ、今にも甦りそうなこのリッチの死骸に戸惑っているにも関わらず、彼はもうこの事実を受け入れて平然としているようであった。その行動はオークの生皮のマスクをかぶり一切の感情を表に出さぬ奇怪な魔導師なのだと仲間に再認識させるには十分だった。


「俺達が感じていた "気" は、リッチの死骸から流れ出る微弱な残留オーラだ。もちろん2日や3日前の話ではないがな。これだけのリッチだ、体内に蓄積されていた膨大な魔力が死してなお留まっているんだ」

 悪趣味な標本のようにしわくちゃの老人の死骸は恨めしげな眼を虚空に漂わせている。

「だけど…じゃあ、誰がこのリッチを殺したと言うんだ?」

「冒険者…?いや、確かに高層部の扉には最近開けられた形跡などなかった」


 まるで謎かけのような、奇妙な現実に誰もが戸惑っていた。

「…考えられる事は…二つ。一つは俺達が通って来た道の他に別の道があるという事。もう一つは…このリッチを殺したのは――人間の力を、このリッチの力さえも超越した何者かが何らかの方法を用いて殺したという事…」

エイジが頭の中の考えを咀嚼するようにゆっくりと言った。

「いや…あくまで推測の域を出ないが…」


「――そうでも、ないかもしれん」

 ぽつりと、ラヴィが呟いた。

「ほら…この…右手…」

ラヴィが指差した先にはリッチの右手があった。よく見るとその右手は肘掛に人差し指を立てるような形で硬直している。石造りの玉座を指先で削ったような痕跡があり、それは文字を示していた。

「文字だ…!何かの、メッセージ…」


その引っかき文字には、こう書かれていた。



 『我を殺したる者 ルキフ…』



 指はそこまでで止まっている。恐らく最期の力を振りしぼって書いたメッセージだが、書ききる事無く息絶えてしまったようだ。

「ダイイングメッセージって奴か……ルキ…フ…何とかって奴が、こいつを殺したらしいな」

「…秘宝、バルティモナ山の秘宝は――?」

トッティが思い出したように皆を見回した。

「こいつが持ってたんじゃねーのか?としたら、こいつを殺したルキフなんとかが秘宝を持ち出したなんて話はありそうだな」

「依頼は果たされずじまい…か。ここまで苦労してきただけに、ちょっと肩透かしを食らったような気もするな」

そのマチスの言葉は今の彼等の気持ちを最もよく表していた。


「…で、どーすんだよ。親玉もいない、秘宝もないってわけだ。リーダー、帰るか?」

「………」

「やけど少し妙な気がする。ルゥ達にバルティモナ山から離れられないよう呪いをかけたのは、きっとコイツやろ?何で死んだのにまだ呪いが効いとんのやろか?」

「…それは…なあ、ボケ、わかる?」

「術者が自身の死を触媒とする呪いが黒魔法にはあるが…あくまで術をかける前からそのつもりでかけて、そして術者が死んではじめて完成するものだ。通常の呪いならば術者が死ねば消えるはず…だが…確かに、おかしいな」

ボケボケマンは考え込んだ。


「もーいーって。リッチは何でか死んでた。秘宝も多分リッチを殺した奴が持って行った。エイジの言う通りだよ。ここにいたって何も得るものなんかないんだ。帰ろうよ」

「そうか…トッティの言う通りかも…しれないな…。引き上げるか…」

 冷静に言葉を吐き出すもう一人の自分がいた。

仲間の協力を得て誰も欠けずにこの伝説の高層部へと辿り着く事ができた。そしてかつての仲間との約束が果たせるかと思った。


だが、高層部には秘宝も闇の王もいなかった――。

達成感、克服感。そして冒険者としての探究心。全てがまるで宙ぶらりんになってしまったかのようだった。後ちょっとでつかめるものが直前でふいと消えてなくなってしまうように。グラウリーは過去を乗り越え、かつての仲間達と目指したものを、そして今のこの仲間達と一緒に目指したものに対峙したかった。だが――。


抗う事のできない運命という奔流、そういうものがいつも自分の前に立ちはだかっているように思えてならなかった。世のことわりを司る神のような存在は、彼に彼の望む運命をなぞらせない。なぞらせないだけでなく、終着点が見えそうなぎりぎりのところでその流れを変えてしまう。他の誰かに持っていかせてしまう。

それが、やるせなく――歯がゆかった。


 だが、彼はリーダーとして極めて冷静だった。冷静でならなければならないと思っていた。

バルティモナの大空洞の全ての道程を終えた今、チームのリーダーに求められる事は仲間を無事バルティモナ山から帰還させる事。ただ一点。


「皆」

グラウリーが言った。

「残念な――非常に残念な事だが、見ての通り闇の王はすでに事切れている。秘宝もないようだ。…俺達は依頼を達成する事ができなかった。ここまでやって、悔しいが…。だが皆には感謝している――ここまで、誰一人欠ける事無く来れた。それは誇るべき事だと思う。俺達は確かに、前人未到のバルティモナの高層部まで来たんだ。

そして、こういう事態だった以上俺達はこれから下山しようと思う。食料や水も半分以上尽きたし、皆体力も気力もかなり疲弊しているからだ。あの道程をもう一度戻るのは辛いかもしれないが、勝手がわかるぶん行きよりは苦労せずに戻れるだろう。低層部のハーピーの大増殖は――今はどうなっているかわからないが…とにかく戻ろうと思う」


「………」

 沈黙が、一瞬部屋を包んだ。

ここが、こんな惨状のこの部屋が、彼等の大冒険の末だとは誰もが認めたくなかった。

だが彼等の沈黙と、そして部屋を流れる静寂の空気が終わりなのだと伝えていた。


 彼等は重い足取りでのろのろと、無言で部屋を後にし始めた。一人、そして二人…と部屋から出て行く。トッティは闇の王に出会わなかった事が喜ばしいはずだった。ついさっきまで、そう感じていた。しかし今こうして、皆が落ち込んだ様子で部屋を後にしているのを見ていると……――何故か胸が熱くなった。皆の落胆の感情が流れ込んでくるような――だが、彼は気付き始めていた。一番落胆しているのは、自分なのだと。


「トッティ――早く来い」

グラウリーが初めの間から遠く呼びかける。彼は後ろを振り向いて歩き出そうとした――その時。


 リッチの死骸の指に光る、薄紅く光っている血の色の指輪を見つけたのだった。

「………」彼は――無意識にその指輪に手を伸ばしていた。

何か、自分のこの今溢れ出さんばかりの気持ちを慰めるもの。それが欲しかったのかもしれない。ここまで大した働きができない自分が――馬鹿な奴だと思っていたエイジや、他の戦士達が壮絶な戦いを見せる事にひそかに引け目を感じていて。だが本当は彼もかなりの活躍をしてはいたのだが――何だか許せない、やるせない気持ちだった。それでも、何がしかのこの冒険にふさわしいピリオドを打つものがあれば違ったのかもしれないのだが。


(このくらいのご褒美があったって、いいよな)

 彼はそんな事を考えた。それは強靭な戦士に見えて年齢の若い、少年と言ってもいいあどけなさの残るトッティにとっては仕方のない事だったのかもしれない。何かを目指した時に実際に自分に返ってくるものがなければたちまち自分の存在を疑ってしまう。そんな少年から青年にかけての希望と焦燥が表裏一体となった心情が、彼の心をしめつつあったのだ。


「トッティ――何している」

彼が今まさに指輪に手をかけた時、もう一度彼を呼ぶ声がした。トッティはハッとなってつい手に力を込めてしまった。

すると途端にポキリという、枯れ枝を折るような軽い音が聞こえて、リッチの指が取れてしまった。

小さく悲鳴を上げそうになったトッティに追い討ちをかけるように、その指はサラサラと黒い粒子状の砂のようになって、跡形もなく霧散してしまう。

「うわあ!」

トッティはびっくりしてつい指輪を落としてしまった。

指輪は石畳に触れると、ガシャッという音を立てて、砕け散ってしまった。

(やっべぇ――)トッティがそう思い、何時までたっても部屋を出る気配がない彼を呼びにマチスがきびすを返した瞬間――。



ゴゴゴゴゴゴゴゴ………!!!



 まるで地震のような轟音がして神殿全体が激しく揺れだしたのだった!

「ウワァァァァァ!」

「キャアッ!」

「トッ、トッティ!てめ、何して…!ウォ!」

しばらく揺れが続いてようやく収まった。エイジは周りのメンバーの無事を確認すると、さっとリッチの部屋まで駆けて行った。

部屋は粉塵に包まれて何も見えぬ。「トッティ!トッティ!」声をあげ、名を呼ぶ。しかしいらえはなかった。


「まさか――罠!?」

 エイジは蒼い顔をして注意深く部屋の様子を伺っていた。その他の仲間も、再び部屋の前に集まる。やがて粉塵が収まり、部屋の様子が次第に見えてくる。

「トッティ――いない……!」ラヴィが悲痛な声を上げた。

カンテラの明かりと魔法の光で部屋中を照らすが、トッティの姿は微塵も見えぬ。言いしれぬ不安が一瞬彼等を襲った。

「――いや、待って、あそこ……」

マチスはふと、部屋の壁にぽっかりと空いた暗黒の口を見つけた。

「あれ…」全員がさっきまでなかったその人一人通れる位の穴を凝視した。すると突然その口のふちに見慣れた手袋がかけられたのだった。

「あーたたた…い、一体どーなってんだ…」


「トッティ!」


 やがてトッティがその真っ暗な口の中から姿を現した。頭を打ったのか手でしきりになでている。

「トッティ!大丈夫なのか!」

マチスを初め、皆がトッティに駆け寄った。

「うう…何か、リッチの指輪を取っていこうとして…で、落としちゃって、指輪の宝石が割れたんだ。そしたら突然神殿が揺れだして…」

「壁に ” 口 " が現われた?」

「う、うん――。揺れと、粉塵で、何が何だかわからなくなったけど、壁に倒れ込んだ瞬間、ガコッて音がして…」

「テメー、何勝手な事してやがんだよっ!」

エイジが思わずゴチッと拳を頭に落とした。

「イ、痛えぇぇ――っ!あ、頭は殴るなよっ!今打ったばかりなんだぞ!それに、今、今までの中で一番本気で殴っただろー!」

「うるせえっ!勝手な行動でパーティーを驚かせた罪は重いっ!……心配させやがって――」

腕を組んで怒った形相をしているエイジは、だが最後は小声で。ラヴィとボケボケマンは、顔を見合わせて吹き出してしまった。


                             *


「隠し扉、か――?」

 マチスがカンテラをかざして " 口 " を覗き込んだ。そこからは急な狭い階段がずっと下まで伸びていた。

「何かが隠されているんだろうか?」

グラウリーが誰とはなしに呟いた。だがその言葉に誰も答えなかった。答えない代わりに、誰もが頭の中に考えた事があった。


『もしかして、秘宝はここに?』


「何にしても、こんなモン見つけたら…行くしかないだろう。おいトム、カリナヤ出してくれないか」

 マチスは眼を細めて立膝をつきながら " 口 " を眺めて、後ろ手を差し出した。

「カリナヤですね、ちょっと待ってください」

トムが冒険用具の詰まった大き目のリュックを肩から下ろしてサイドに付いている通気穴のついたポケットの中から小さな鳥籠に入った青い鳥を出す。鳥目で静かにしていた青い小鳥はカンテラの光に反応して鳴き声を上げ始めた。


「いかにもいわくありげな隠し扉なんだが用心に越した事はない。もしかしたら階段を降りると毒ガスが充満しているトラップ、なんて事もありうるからな」

 トムから鳥籠を受け取ったマチスは籠を左手に持ち前方に突き出すと、先頭きって " 口 " に踏み込んだ。


「でも、なんで鳥なの?」

 隠し扉の階段をマチスが先頭になり降りてゆく。彼は籠の中のカリナヤの様子を見ながら慎重に階段を降りて行った。後の者は少し遅れて続いてゆく。

「昔――鉱石堀の仕事をやっていた時があってな。色々な鉱山を仲間と一緒に掘り進んで行った。時にいい鉱石の眠る可能性のある方向に新たな穴を開けて――だが、ある時大勢の仲間が一度にして死んでしまったんだよ。鉱山に毒ガスが充満している場所があって、運悪くそこに穴を開けてしまったからだった――以来、俺等は毒ガスだけには気をつけないと。と、気を引き締めたのさ。

このカリナヤという鳥は人間よりも有毒ガスに敏感だから、何か兆候があれば狂ったように鳴き叫ぶ。有毒ガス探知機と言ってもいい。今では鉱石堀の仲間の中での常識だ」

「ふーん。そうなんや…」

「トムさんがハーピーの里でその小鳥に餌やってた時ちょっとルゥその子食べたそうに見てたよな。そんな用途に使うとは思わなかったよ」

(しかしマチスさんって、結構謎な過去を持っているよね…)

トッティはこっそり、ラヴィに耳打ちした。



「お――い、大丈夫みたいだ!」

 しばらくして階段を降り続け、最深部からマチスの声が響いた。その頃には初め人一人がやっと通れるくらいの広さだった階段は幅を増してゆき、横に三人ならんでも大丈夫な程の広さになっていた。階段を降りきると小さな部屋に着いた。マチスはそこで階段から降りてくる彼等の仲間を見据えていた。彼の持つ松明の炎がその部屋の一角にある小さな祭壇を照らしている。

 石造りの祭壇には人の髑髏の頭にロウソクを乗せたものが魔法の薄ぼんやりとした光をたたえており、いくつかの邪神を模った翼の生えた彫像などが立ち並んでいた。

その禍々しき祭壇の中央に古びた、中くらいの大きさの箱がある。マチスを中心にして、皆がその周りを取り囲むようにして黙って見ていた。


「……何かが…書かれていますね…」

トムが眼鏡をずりあげながら箱の置かれた場所の前にある、金属のプレートに刻まれた文字を解読した。

「――我を脅かしたる、この2つの神具を、封印せり――」

一同は顔を見合わせた。そしてマチスを見ると皆が押し黙って頷きかけたのだった。

 マチスは突然手袋を外すと腰のポーチから針金のようなものを取り出した。盗賊が鍵開けに使うピッキングツールと呼ばれる道具だった。

マチスは慎重に、慎重に鍵を開けていき……やがて……誰一人口を開かぬ部屋の中に、カチリ…という小さな音が響いた。

マチスは半ば震える手で箱の蓋を持ち上げる。今や周りの仲間達は身を倒しそうになりながら、彼の動向、そして箱の中身に注目していた。


 キラリと白い――駆け抜ける風のような波動を感じたかと思うと――箱の中には、まばゆいばかりの光を放つ、2つのものがあった。

その一つは、小さな水晶球のようなもの。透き通るような輝きを見せる完全な球形のクリスタルの中に、満天の星空を思わせる細かく明滅する幾多ものきらめきが見える。

もう一つは青い――気高く蒼い、見る者を吸い込まんばかりの素晴らしく蒼い色をした、大きめの鉱石――?だった。その蒼にはどこか神々しさすら感じるほどだった。


「イ………」

ラヴィはその石を見て、言葉を失ってしまった。


「こ、これが…バルティモナの…秘宝、なんじゃないのか――?」

誰かが、呟いた。

 その言葉は、誰もが抱いていたもしかしたら。という希望、溢れんばかりに胸を鼓動させる心のせきを断ち切って。


「…やっっっっ……たぁぁああああ――――!!」

「うおおぉぉ――――ッ!」

皆は狂喜して、お互いに抱き合ったり、体を叩き合ったりした。

「トッティッ!お手柄だ!」

エイジがぼーっとしているトッティの頭を殴りつけた。「痛」と、言う間に、今度はボケボケマンまでもが殴りつけた。そして、他のメンバーも。トッティはもみくちゃにされる。

頭がベシベシと叩かれて少し痛かったが、トッティは次第に心の中にこみあがってくるものを感じた。

胸が、弾けそうに誇らしい。どうして――自分だけが活躍できていないなどと思ったのだろう。自分以外にも――この場にいる誰が欠けてさえもここまで辿り着く事などできないはずだったのに。自分は皆を必要とし、皆も自分を必要としている。その事がどうしようもなく誇らしかった。

「あっ――…」

「あ?」

「あっっったり前だろ――――が――――ッ!ぎゃははははは!!」

「あっテメー調子に乗りやがってんな!」

「ぎゃはははは!」

皆の興奮は冷めやらぬ。苦しく、厳しい、そんな道程だった。この喜びがそれを表していた。


 彼等の成した偉業は――やがて。冒険者の口から口へと――そして、吟遊詩人のサーガに乗せて語り継がれるだろう。そして幾人もの子供や、冒険者達がその冒険譚に胸を熱くさせるのだ。

この暗い隠し階段を降りた小部屋は今、喜びに満ちていた。



 皆が笑う中で一人だけ、秘宝を見据えたまま動かない人物。

それはナポレオン帽をかぶった、グラウリー。

彼の胸中には眼の前の秘宝、後ろの仲間達の笑い声。その二つが複雑な心境を与えていた。

自分は――あの過去から、戻ってきた。そして今、確実に…前に進めたと――そう感じられる。

誰にも聞こえないような声で、彼はかつての仲間達の名前を、一人ずつ呼んだ…。


「……――今の俺の――俺の仲間達、そして第二の故郷は…ここだ」

気が緩んだのか、頬に何かを感じた。

それは彼ほどの勇壮な、熟年の戦士には珍しい事であったのかもしれない。だがそれは、だからこそ意味、そして、男にとって重い価値のあるもの。一度流れ出したらもう、止まらなかった。



頬をとめどなく――とめどなく伝う男の涙が――熱かった――。




挿絵(By みてみん)



第一章・依頼~大空洞 ・ 完



TO BE CONTINUED !



第二章・わがままお嬢様


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