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002 誰がための正しさ

 COgeNdshE 『錯乱』

*w*




 私の意識が形を成して初めての襲撃者のことを、今でも思い出す。

 彼らはその後城に踏み入ったどんなパーティよりも気高く、使命感に溢れ、何より強かった。




 ガコン───


 扉の音が私の意識を強制的に覚醒させる様な感覚。

 私は扉を見遣り、光と共に暗い広間に踏み入る 4 つの気配を捉えた。


「俺はアーカード! ゾンドを操りし大魔王よ、姿を表せ!」


 小さな精霊たちを従えたアーカードと名乗る男。

 生憎私はゾンドなる者に覚えがないし、そして自分自身が魔王だとも思ってはいなかった。


「ここには私しかいない。他を当たってくれ。」


 どう答えるのが正解だったのか、あるいは答えなくても良かったのか。

 私は咄嗟にアーカードの言葉に返答していた。


「・・・いや、お前の禍々しさが魔王でなければ何だと言うんだ?」

「悍ましい気配に満ちているわ・・・。」


 おそらく私の携えている剣が原因だろうと理解する。

 そして同時に、この剣に運命を導かれる私もまた、禍々しい存在なのだろう、と。


 不思議と私はアーカードの言葉を受け入れていた。

 ただ、反対に、私の運命は彼らの存在を拒絶していた。


「改めて名乗ろう。俺はアーカード! 魔王ゾンドを倒し、次元の狭間に潜む真の敵を討つ者だ!」


 ご丁寧に名乗りを上げる 4 人。

 精霊魔法剣士アーカード、巫女セリナ、剣士ビルド、賢者シド。


「さぁ、お前の名を聞かせろ!」


 ・・・私の名?

 私に名前はない。ただここに在る、一つの現象に過ぎない。



「私に名前など───」


 しかし、言いかけて私は思い至った。

 私と共にあり、私以上に私の在り方を示す剣。

 私はその名を知っている。そして剣は私そのものでもあるのだろう・・・。


「───ワルド。私の名はワルド。世界の理を宿す者。」


 私の言葉は城に染み渡り、拡散していった。


「魔王ワルド・・・。お前に囚われた世界を解き放ってみせる! いくぞ!」


 アーカードが叫び、最初の戦闘が始まった。




「光と闇の精霊よ、俺の魂を導いてくれ! "秩序再編"!!」

「導きの盾、解放の鎧、"天獄守護"!」


 光と闇、相反する二つを調和させ自らの体に取り込んだアーカード。

 錫杖のリングを鳴らしアーカードに補助魔法を施すセリナ。


 アーカード自身が宿した光と闇はセリナの天獄守護により増強され、強大な力の渦が広間に嵐を生み出す。


「ハァァアアッ!!!」

「・・・。」


 舞い上がった砂塵などお構いなしに大剣を振り翳すアーカードの剣を受け止めにかかる。

 ・・・私は意識の芽生えから一貫して、理由もなく私の剣が "絶対" であることを疑っていなかった。


 ガガィギィンン!!!


 閃光を撒き散らして交わる二つの剣。

 魔剣ワルドは予想に反して弾かれ、追撃の太刀筋が首筋に迫る───


「"断絶"。」


 唐突に脳裏に浮かんだ魔法 "断絶" を唱えると、大剣は私の首を落とすことなく止まった。

 歪んだ空間が大剣と首を隔て、必死の形相のアーカードが私に肉薄する。


「・・・その力を、なぜ正しく使えない?!」


 魔剣を構え直し鍔迫り合いになると、アーカードが真剣な眼差しで私を糾弾した。


 ・・・正しさ?

 正しさとは何だ?

 私が感じている私の運命こそが、世界にとっての正しさではないのか?


「お前の私利私欲のために世界すら滅ぼして、お前の心は痛まないのか?!」


 アーカードが叫び、彼の背後からは賢者シドの極大魔法を大剣に捩じ込んだ剣士ビルドが迫った。


「"絶界"っ。」


 魔剣が私を操るかの如く心に沸き起こった魔法剣技の名を唱えると、魔剣から迸る無数の "流れ" がアーカードとビルドを襲った。


「くっ、それがお前の答えか? この無秩序が、お前の望みなのか?!」

「うぐぉおおおおアア!!!」


 なんとか "絶界" を受け止めるアーカードと、流れに押し負け戦線から遠ざかるビルド。


「私には答えなど無い。」

「なら、何故!」


 答えも望みもないが、知るべきことが確かにある。


「それを知るために私は在るのだ。」


 ───思えば私の戦いはこの言葉から始まった。

 そしておそらく、この言葉とともに終わるのだろう。




 もはや言葉は必要無いと、最終決戦形態 "終点" を纏ったアーカードは修羅と化し、時間感覚すら狂うほどの激烈な戦禍が城を埋め尽くした。


 烈火の如く暴威となって大剣を振り続けるアーカード。

 私は魔剣ワルドを自身に馴染ませるように、あるいは魔剣が私と溶け合うのを受け入れるように、斬撃に応じた。





 ・・・どれほどの時間が経っただろう。

 気付けば広間には私だけが立ち、4 人だった彼らのうち 3 人は消えアーカードだけが倒れ伏していた。


「うぐ・・・。ぐ・・・ぐぉあああああ!」


 致命的な傷を半身に受け、意志の力だけで吠える精霊魔法剣士。


「くそ、俺はこんなところでっ・・・こんなところでっっ!!!」


 ・・・これが私の運命なのか?

 これが、私に課された正しい使命なのか?


 懐疑的な私の心とは裏腹に、闇よりも黒い剣はこの戦いの結末を肯定しているようだった。


「あぁ世界よ! 世界よ、救われろ・・・!!!」


 最期の言葉を残し、遂にアーカードは "絶界" の残滓に呑み込まれて消滅した。




 広間には彼らの持ち物なのか、漆黒の仮面と外套が消滅を逃れ残されている。


「・・・。」


 私はそれらを拾い上げ、おもむろに身につけた。


 私を覆い隠す漆黒は、妙な安心感と居心地の良さを私にもたらした。




 ───




「根源の魔王ワルド! 覚悟の時だ!」


 アーカードたちの襲撃など無かったかのように、城は不可思議な力で修復されてゆく。

 ゆっくりと、しかし確実に修復が進み、完全に元通りになった頃、新たな "敵" が扉を開けた。


 仮面と外套を身につけ魔剣を携えた私を見据える女。

 深紅の輝きを放つ髪。それ以上に深い紅の瞳。

 高々と掲げた剣は炎を宿し、全てを焼き払わんとする意志がひしひしと伝わってくる。


「お前たちはどこから来た? そしてどこへ行こうと云うのだ?」


 深紅の女と彼女のパーティに問いかける。

 答えを探すため。

 私の行方を知るため。


「私たちは神聖ガンダラ帝国を脅かす闇の民を打ち倒して来た。お前はその終着点だ。」


 唐突な私の問いに気分を害しただろうに、女は答えた。

 闇の民・・・知らないな。


「お前を倒すことで帝国の神獣は復活し、神獣の威光が世界を救うのだ! 私たちは光ある世界に帰還する!」

「そうか。分かった。」


 ・・・私とは相容れないことが、よく分かった。


「ならば示そう。私の閉ざされた未来を。私の運命を。」

「勇者ファリン、参る!」


 "絶界" を初手から展開し、私は赤髪の女勇者と剣を交える───




 ───あぁ、なぜお前の剣はそんなに弱いのか。

 なぜ私の剣はこうも鋭いのか。


 ・・・なぜ、お前は既に息絶えているのか。


 彼女の剣は今や彼女の両手を貫き、彼女を広間の壁に磔にしている。

 物言わぬ骸、物言わぬ骸の仲間。


「私は呪われているのか?」


 骸は答えない。


「私が、呪いそのものなのか?」


 魔剣も答えない。


「・・・守るべき世界が、呪われているとでも言うのか?」


 "絶界" の余波が勇者たちを飲み込み、城は束の間の静寂を取り戻していった。




*-*




 ガイナが最初に創造した世界では、異世界から能動的に転移した元暗殺者ナユタや転移者の研究を続けていた魔王トモヒロ=3=カンナバーラたちの共同研究の末、異世界転移技術が確立されていた。

 そしてガイナの世界におけるクレアのパーティ "デイブレイク" のメンバーは、"黒い世界" の救世主となりうる人材発掘のため、異世界転移を駆使して "未確定" の世界へと散らばった。


 しかし設定した最低限の強さを備える人物すら見つからないまま時間は流れ、ゆっくりと黒い世界は歪さを増していった。



「ねぇクレア。」

「何? ガイナ。」


 ガイナの自室で向き合う二人の間には、これまでにガイナが創造した世界が並べられている。

 そのどれもが成功しており、一番新しい世界ももう間も無く成功に終わりそうだった。


 ガイナは並べた世界を眺めながら、計画の初期段階で挙がっていた方策を改めて言葉にする。


「やっぱり、私たちが適任者を生み出すのが一番良いんだと思う。」


 方策。それ即ち "黒い世界" を解決するために新たな世界を創造し、その中で人材を育成しようと云うもの。当然生み出した世界それ自体も成功させる必要があるので、効率的ではあるがリスクが大きい。

 それゆえクレアたちは既存の世界で適任者を探していたのだが、余力のある世界がそもそも少ないために人材発掘は難航していた。


「・・・いいの?」

「うん、巡り巡って私のためだもの。それに───」


 ガイナはコクンと頷いて真っ直ぐにクレアを見つめた。


「私はクレアを信じているから。」


 信頼の眼差しをクレアはしっかりと受け止め、二人は新たな世界・・・ネルのリトライを混ぜた、不確定要素を孕む世界の計画を練り始めた。


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